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日立G、社員の過半が外国人に…「御三家」売却、米新興IT企業を1兆円で買収の冷徹経営

文=編集部
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日立製作所 HP」より

 日立製作所は4月28日、中核子会社である日立金属を日米の投資ファンド連合に売却すると正式発表した。米投資ファンド、ベインキャピタルと国内投資ファンド、日本産業パートナーズ(JIP)、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)である。

 日米投資ファンド連合はまず、日立以外の少数株主がもつ日立金属株(47%分)の取得をめざし、1株2181円で株式の公開買い付け(TOB)を11月ごろに実施する。このTOBが成立すれば日立は保有する53%分を3820億円で売る。総額8166億円の大型ディールだ。日立金属はTOBに賛同しており、成立すれば上場廃止となる。

 日立は2022年3月期連結決算に事業再生等利益約1140億円を計上する。さらに、同期の単独決算に株式売却益3280億円を上乗せする。日立の上場子会社は09年には22社あったが、日立金属の売却で日立建機1社のみとなった。日立建機も保有株の大部分を売却する方針だ。

 日立金属は20年、昭和電工が買収した日立化成(現・昭和電工マテリアルズ)、13年、日立金属が吸収合併した日立電線と共に「御三家」と呼ばれた中核子会社だった。

ABBから送配電事業を約1兆円で買収

 日立は一方、ITを駆使したサービス事業などで大型の買収を重ねる。20年7月、スイスの重電名門ABBからパワーグリッド(送配電)事業を1兆円規模(債務の引き受けを含む)で買収した。8割超の株式を取得して合弁会社・日立ABBパワーグリッドを設立し、23年以降に100%子会社にする。

「黒船の来航は、日本を大混乱させたが、私は、意図して黒船を呼び込んだ。日立を真のグローバル企業にするために変革のドライビングフォースにしたい」

 東原敏昭社長兼CEO(最高経営責任者)はABBを幕末に来航して開国を迫ったペリーの「黒船」にたとえ、その意義を強調した。ABBの送配電事業の売上高は年間1兆円規模。世界約90カ国で1万5000社以上の顧客に電力変圧器や送電システムなどを販売している。ABBで働く3万6000人が日立に移籍。日立グループ約30万人のうち、外国人が日本人を上回り、過半を占めた。

 日立がABBの送配電事業を買収するのに伴い、日立建機は今年3月、ABBと業務提携した。ABBは鉱山向けの発電・送電システムで高いシェアを持つ。日立建機は鉱山機械で出遅れており、シェアを高める必要がある。トロリーダンプを日立建機が鉱山会社に提供する計画だ。電動化などを通じて鉱山の二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指す。

米グローバルロジックを約1兆円で買収

 3月31日、米IT企業グローバルロジック(カリフォルニア州)を買収すると発表した。海外ファンドなどの既存の株主から全株式を約9180億円で取得する。有利子負債を含め買収総額は1兆368億円になる。規制当局の承認を得て、7月末までの買収の完了を予定している。日立は中核に位置付けるIoT基盤「ルマーダ」の世界展開を加速させる。

「グローバル社は、クラウドとチップの中のソフトウエアをつなぐ技術に長けている。ルマーダ事業がさらに進化し、グローバルな顧客に新たな価値を提供できる」と東原社長は述べた。グローバル社は00年に創業し、急成長している新興企業だ。世界14カ国に2万人の従業員を抱え、通信や金融、自動車、ヘルスケアなど欧米の大手企業を中心に400社以上の顧客を持ち、デジタル化に必要なシステムやソフトウエアを開発している。スウェーデンの商業車大手、ボルボも顧客だ。

 グローバルロジックの21年3月期は売上高が約1200億円、調整後EBITDA(利払い前・税引き前利益・償却前利益)率は20%超と高い。今後も企業のデジタル投資が拡大するので高い成長が見込めるという。買収資金は手元資金約2000億円と銀行借入れ・社債で約8000億円を調達する。日立金属の売却で得る資金をグローバル社の買収に充当する。

 日立は産業機器や鉄道、家電など日本を代表する製造業大手だが、近年、モノとインターネットをつなぐデジタル企業への転換を進めている。今回の買収も、その一環だ。「国内でデジタル人材が不足するなか、買収によりグローバル展開を支える開発力を手に入れる」というのが東原社長の主張だ。「1兆円は確かに高い。ただ、海外市場への入場チケットと捉えれば妥当な額といえる」(外資系証券会社のエレクトロニクス担当のアナリスト)と前向きな評価もあるが、それでも1兆円買収に伴う財務体質の悪化を懸念する声は多い。

 グローバル社の売却額と純資産の差額の「のれん」代が7100億円にのぼる。買収後の成長が見込み通りにいかなければ、将来的に巨額の減損処理を迫られる。ルマーダ事業とのシナジーをどこまで出せるかが、日立変革の行方を左右する。

純利益は2期連続の過去最高を更新

 日立の21年3月期の連結決算(国際会計基準)は純利益が前期比5.7倍の5016億円と過去最高だった。子会社だった日立化成の売却益などが寄与したほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)の需要が追い風となった。

 売上高に当たる売上収益は微減の8兆7291億円、営業利益は25%減の4951億円だった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた。ただ、利益率の高いIT(情報技術)部門が伸び、従来予想を売上高で4291億円、営業利益は751億円上回った。22年3月期は純利益が前期比10%増の5500億円と2期連続で過去最高を更新する見通し。日立金属の売却益がここでも寄与する。

 売上収益は前期比9%増の9兆5000億円、営業利益は49%増の7400億円と増収増益を見込む。日立とホンダ傘下の自動車部品メーカー4社が経営統合し、日立アステモが21年1月に発足したことや重電大手ABBから買い取った送電事業が収益に貢献する。日立は16年からルマーダ関連事業を経営の軸に据えてきた。22年3月期のルマーダ事業の売上高目標である1兆6000億円のうち海外は3割にとどまる。

 東原社長は4月にCEO就任から6年目に突入した。22年3月期を最終年度とする中期経営計画の達成が集大成になるとみられている。グローバル社の買収は絶対に成功させなければならない。IT事業を柱に据えた日立の「選択と集中」は総仕上げの段階に入った。

日立建機も売却へ

 日立金属が強みを持つ自動車や航空機向けの分野はITと相乗効果が薄いと判断。売却先を探していた。残る上場子会社は日立建機(日立の出資比率は50.8%)だけとなった。日立建機も売却される見込み。日立は「脱総合電機」に向けて、ルマーダ事業との親和性を基準に上場子会社を次々と売却してきた。

 20年秋に日本経済新聞が「日立、日立建機を売却へ 産業革新投資機構が出資検討」と伝えた。現在、「産業革新投資機構(JIC)を中心に複数のファンドが買収を検討中」(M&A関係者)と伝えられている。KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、ベインキャピタル、ブラックストーンなど投資ファンドの名前が挙がっていたが、「交渉は停滞気味」(別のM&A関係者)とされる。

 総合商社が鉱山など資源権益の売却を急いでいるのは、脱炭素の大きな流れに沿ったものだ。鉱山機械をつくっている日立建機の魅力は従来よりかなり減殺された。「買い手としても日立建機の将来性を再度、精査する必要がある」(建設機械業界の首脳)というわけだ。日立の「選択と集中」の最後のピースと目されている日立建機の売却に、思わぬ逆風が吹き始めた。

 日立金属はコロナ禍前には500億円を上回る利益を出していた実績を持つ企業だ。実績のある会社を売り、シリコンバレーの新興企業であるグローバル社を買ったわけだから、納得できる経営戦略の説明がなければ投資家は安心できない。大型M&Aの収支計算がどうなるかに市場は注目している。

(文=編集部)

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