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アルケゴス問題、逃げ遅れた野村HDは3100億円損失、米金融大手は損切りで資金回収

文=編集部
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野村HD本社が所在するアーバンネット大手町ビル(「Wikipedia」より)

 野村ホールディングス(HD)は米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引の損失で生じたポジション(持ち高)をすべて処理した。2021年3月期に約2457億円(23億ドル)の損失を計上したのに続き、21年4~6月期に約650億円(6億ドル)の損失を出した。累計の損失額は、およそ3100億円。3月下旬に公表した2200億円(20億ドル)から4割増えた。担保にとっていた株式の価格が下がったため損失が膨らんだと説明している。

韓国系米国人の“カリスマ投資家”に翻弄される

 3月29日、東京株式市場。取引開始前に激震が走った。野村が想定外の損失が出ることを公表したからだ。この発表を受けて野村HD株価は急落。下落率は一時17%を超えた。同日の終値は前週末比117円70銭(16.3%)安の603円。株価データを遡れる1974年以降、1日の下落率として最大となった。時価総額で4000億円が吹き飛んだ。

 ブルームバーグやフィナンシャル・タイムズなどの海外メディアは、米国のアルケゴス・キャピタル・マネジメントというファミリーオフィス(富裕層の資産運用会社)が投資に失敗したことが原因だと報じた。アルケゴスはインサイダー取引の“前科”をもつ韓国系米国人のカリスマファンドマネージャーのビル・フアン氏が立ち上げた資産管理会社である。自己資金の8倍ものレバレッジ取引を行っていた。特定企業の株に集中投資し、株高を追い風に、一時期、1兆円もの利益をあげていた。

 フアン氏はかつてインサイダー取引疑惑で米証券取引委員会(SEC)から提訴されたことがある。しかし、多くの金融機関が、ピーク時に3兆円規模とされるハイリスク・ハイリターンの取引に踏み切り、多額の手数料収入を得ていた。

 ところが3月23日、風向きが一変する。主な投資先だった米メディア企業バイアコムCBSが30億ドルの大型増資を発表した。大型増資は株価にとってマイナスになることが多い。バイアコム株は24日までに3割も急落。アルケゴスは巨額の損失を抱え、金融機関から担保の追加の差し入れを求められた。別の株式を売って穴埋めしようとしたが、保有株は思うような値段では売れず、行き詰まった。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アルケゴスは3月25日に取引金融機関を集めて協議。野村HDとクレディ・スイスは「各社が協調して1カ月ほどでポジション(持ち高)を整理する」というソフトランディング(軟着陸)による解決策を提案した。しかし、結論が出ないまま終わった。

 米金融大手、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーはアルケゴスが投資していた株式、つまり担保として取っていた株式を強制売却(損切り)して、資金を素早く回収した。米メディアによると、ゴールドマン・サックスは100億ドル(約1兆1000億円)超の、アルケゴスから担保に取っていた株式を売却したという。

 逃げ遅れた野村HDは3月29日、「最大2200億円の損失を被る可能性がある」と公表。最もダメージが大きかったクレディ・スイス・グループは5900億円の損失を計上する。

 いち早く損切りに動いたとされる米モルガン・スタンレーは1000億円、スイス金融大手UBSグループは930億円。日本でも三菱UFJ証券ホールディングスが300億円の損失を明らかにした。

 この結果、アルケゴス関連の取引で世界の主要金融機関で1兆円を超える損失が発生した、と試算されている。米ウォール街で生き馬の目を抜くような厳しい競争に明け暮れている各社は、性悪説に立っており、抜け駆けもいとわない。ところが、野村は「護送船団方式」を選択した。

 いち早く損切りに動いた米金融大手と逃げ遅れた野村の明暗が、はっきりと分かれた格好だ。

巨額損失を出した野村が強気な台所事情

 野村HDの21年3月期の連結決算発表に投資家は驚かされた。年間配当を15円増やし35円に大幅増配したからである。米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントへの融資を回収できず、3100億円(21年3月期計上分は2457億円)の損失を被ることが明らかになったにもかかわらず、配当を増やすことにしたのだ。

「米顧客取引に起因する損失が仮になかったとすれば、どのような利益水準にあったかを踏まえて(配当政策を)判断した」(野村HDの北村巧執行役)と主張。もし今回の損失がなければ、税引き前利益は4764億円だった計算になるとした。

 巨額損失を出しても野村が強気なのは、業績の裏付けがあるため。21年3月期の連結決算(米国基準)は、売上高に当たる営業収益(金融費用控除後)は前期比8.9%増の1兆4018億円、アルケゴス関連の2457億円の損失を計上したにもかかわらず当期純利益は1531億円となった。前期比29.4%減の落ち込みにとどまった。

 5月12日に開いた投資家向け戦略説明会で奥田健太郎グループCEOは「損失を出して投資家にご迷惑をお掛けした」と釈明しなかった。「今取り組んでいるガバナンスやリスク管理の強化策が足りていなかった」のが根本的な原因だ、とした。奥田CEOが強気で押し通すのは、これから強化しようとする「パブリックからプライベート」への戦略転換の根幹にかかわるからである。

「プライベート」戦略には2つの意味がある。1つは上場株式に代わる資産の活用。非上場株式などの強化が代表例だ。もう1つが欧米などで主に富裕層向けに展開されている「ファミリーオフィス」と呼ばれるビジネスモデルだ。中核となるのが2020年6月に立ち上げたCIOサービス(高付加価値アドバイザリー・モデル)である。機関投資家向けに提供してきた助言機能を、顧客のリスク許容度に応じつつ富裕層の個人にまで広げる。社内でのトライアルを経て2022年度から本格導入する。併せて手数料体系を複線化し、「残高連動報酬」を導入する予定だ。

 アルケゴスの問題は、野村が成長戦略に据えようとしていた「プライベート」の領域で発生したスキャンダルである。富裕層が資産運用を行うファミリーオフィスは規制が緩かったが、今回のアルケゴスの巨額損失で、金融当局は資本市場を揺るがす可能性がある大きなリスクを内包していることを認識したはずだ。

 野村HDが構想するプライベート領域での新たなビジネスモデルについても、金融庁が厳格なリスク管理を求めてくる可能性が出てきた。

(文=編集部)

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