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パチンコ業界の衰退が止まらない本当の理由…タイアップ台の弊害と版権マネーの裏事情

文=山下辰雄/パチンコライター
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パチンコ台(「Wikipedia」より)

 パチンコ業界は、どこまで衰退していくのか。

 1990年代に約30兆円だった市場規模は、今や約20兆円まで減少。パチンコホール数は約1万8000店だった1995年以降、減少傾向が止まらず、2018年には1万店を割り込んだ。この現状を招いた原因は、射幸性を抑える方向への規則改正やギャンブル依存症の問題など、数え上げればキリがない。

 では、パチンコ業界で働いている人は“衰退の理由”をどのように考えているのだろうか。前編の今回は、都内でパチンコ台の液晶開発会社を経営している、元メーカー開発者のT氏に本音を語ってもらった。

アニメや芸能人との“タイアップ台”の功罪

「パチンコファンの減少に歯止めがきかない原因? 僕はタイアップ台のせいだと思っています」(T氏)

 パチンコ業界初のタイアップ台は、芸人の河内家菊水丸とコラボした羽根モノ「オロチョンパII(1992年・SANKYO)」。そして、タイアップ台の地位を確立したのが「ルパン三世(1998年・平和)」である。「ルパン三世」は20万台を超える大ヒットとなり、パチンコ・パチスロを打ったことがなかったアニメファンを取り込むことに成功した。

「パチンコ人気が一段落した時期に『新世紀エヴァンゲリオン』(2004年・ビスティ)や『ぱちんこ冬のソナタ』(2006年・京楽)で新規ユーザーを獲得できたことは、業界としては大きかった。“歌パチ”というジャンルを確立させた『ピンクレディー』(2002年・DAIICHI)や『中森明菜・歌姫伝説』(2006年・DAIICHI)の貢献度も高いのは間違いないです」(同)

「でも……」と、T氏は別の側面を語る。

 アニメや芸能人のタイアップ台が次々と登場し、その多くがヒットしたことによって、パチンコ業界のイメージがアップしたことは事実だ。しかし、芸能界から売り込みがあったり、版権を扱う代理店が増えたりしたことで、パチンコメーカーが大物芸能人やS級クラスの版権を札束で買い漁る状況になってしまった。

 その結果、S級クラスの版権は一気に枯渇。近年は新台発表のサイクルが速いこともあり、メーカーはB級、C級クラスの版権に手を出さざるを得ない状況になっている。

「タイアップ台は一度火がつけばヒットどころではなく、数十万台を超える大ヒットになり、それだけで会社を支えることができた。『エヴァンゲリオン』や『牙狼』がいい例ですよね」(同)

 一大ヒットシリーズともなれば、パチンコマネーで(原作映画の)続編をつくり、その映像を使ってパチンコ・パチスロを開発する、という流れが出てきているのだ。

 また、「北斗の拳」「花の慶次」「ルパン三世」「エヴァンゲリオン」「牙狼」といったキラーコンテンツは固定ファンがついており、新台を出す際には、ある程度の台数を見込めるのも大きい。

「でも、タイアップ台ばかりつくり続けてきたことが開発者のレベル低下につながっていると、僕は思っています」(同)

 メーカーでヒット機種を手がけて独立したT氏は、タイアップ台の弊害を次のように語る。

タイアップ台をつくることに慣れると、演出のマンネリ化が起こります。原作を読み、印象深いセリフや場面を抜き出して、会話予告やスーパーリーチに当てはめるだけの流れ作業になってしまうんです。ただでさえ、今やほとんどの機種が擬似連、保留変化、ステップアップ予告、群予告を搭載。リーチ後に役モノが動けばアツく、スーパーリーチ中はカットイン演出の色で信頼度が変化といった“ありきたりな演出”ばかり。それでは開発者のスキルは磨かれません」(同)

 確かに、最近のパチンコ台は原作を知らなくても「擬似連続予告」の回数や演出の色で、だいたいの期待度がわかってしまう。「原作の世界観をパチンコ演出の“アツさ”に落とし込む努力を放棄して、ただ型にはめ込む作業をしているのが、今のパチンコ・パチスロ業界なんです」とT氏は嘆く。

「どの台を打っても一緒」でユーザーが激減

 そうした効率化によって開発の時間やコストを抑えられるのなら「致し方ない」と言う人もいるだろう。しかし、実際は液晶のクオリティを上げることでROMが高容量化し、筐体や役モノが大きく派手になることで機械代が高騰する。そのため、ホールは新台導入直後でさえ“機械代回収モード”として辛い使い方をせざるを得なくなり、そのしわ寄せはユーザーに来てしまう。

「今は、どの台を打っても中身は一緒。こんな状況で新規ユーザーが増えるわけありませんよね。既存ユーザーがどんどん減り、残るのは“ギャンブル依存症”に近いヘビーユーザーばかり。業界が衰退するのは当たり前です」(同)

「昔は良かった」なんて口にするのは、新しい時代に馴染めない年寄りみたいで嫌だ、とT氏は苦笑いする。

「昔のオリジナル台は、今の洗練された機械と比べると、確かにチープかもしれません。でも、独特の世界観があり、開発者の趣味や意図が見えた。最近のように長い上に簡単にハズれるスーパーリーチではなく、短いリーチでも十分にワクワクできた。だからもう一度、開発の原点に戻り、盤面や役モノ、音や演出を含めてパチンコ台の世界観をイチからつくり上げるということを開発者は勉強するべきですね」(同)

 某メーカーの社員時代、大ヒット作も失敗作も経験し、いろいろな開発者の姿を見てきたT氏だからこそ、タイアップ台に頼りすぎる現状が歯がゆいのだろう。今は液晶開発会社の社長として、若手社員から“開発者魂”が感じられず、マニュアル通りにこなすオペレーター気質な社員が増えていることも気がかりだという。

「海物語」シリーズの「群予告」が今や多くの機種で定番化。「ルパン三世」や「北斗の拳」などの大ヒットでタイアップ台の地位が確立。「エヴァンゲリオン」によって「突然確変」が浸透。

 パチンコ・パチスロ業界は規制の強化と緩和が繰り返され、そのたびに革新的な機械や演出が生まれ、レジャー産業のトップを維持してきた。業界的に右肩下がりの状況が続く昨今、もうそろそろ次の革新的な機械が登場してもいい頃ではないだろうか。

後編へ続く

(文=山下辰雄/パチンコライター)

山下辰雄/パチンコライター

山下辰雄/パチンコライター

パチンコライターとしてBusiness Journalにて多くの記事を寄稿。

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