「イーノック、そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」
かつてインターネット上でのさまざまなシチュエーションでネタとして使われていた、この名台詞で知られるPlayStation 3およびXbox360用3Dアクションゲーム『エルシャダイ』(2011年4月発売、開発・販売:イグニッション・エンターテイメント)。同作のディレクター兼キャラクターデザイナーだった竹安佐和記氏(現・crim代表取締役)が17日、自身のTwitterアカウントで以下のように同作品の素材を一部フリーとして公開することを発表し、往年のファンやTwitterユーザーを沸かせている。
あまり告知していませんが
— 竹安佐和記 (@Sawaki_Takeyasu) June 17, 2021
エルシャダイの”あの動画”は無料素材として公開しています。わりと認知が低く今はブルーオーシャンなのでオススメ
最近はプラズマ技術を利用した表面処理をしているという会社から使用許諾が来ました。一体何に使うんだ…(楽しみ)https://t.co/c1Zb6CdhSA#BlueOcean pic.twitter.com/3E0esV6K3l
この報告にTwitter上ではファンらが以下のように盛り上がっている。
「イーノック、そんな素材で大丈夫か?」
「また流行ってしまうではないか」
「大丈夫だ、問題ない」
かつて社会現象になった「そんな装備で大丈夫か?」
冒頭の台詞は、発売前にYouTubeなどで公開されたプロモーション動画のワンシーンで飛び出したものだ。ゲーム内の重要キャラであるルシフェルが、古典的な鎧を着こんで冒険に身を投じようとする主人公のイーノックに向かって「大丈夫か?」と問いかけるのだが、当のイーノックはドヤ顔で「問題ない」と言い切り、戦闘に身を投じる。そして、次のシーンでイーノックがエネミーにボコボコにされてしまうのだ。この即落ち2コママンガのような展開が注目され、人気動画になった。
このやり取りは、匿名掲示板やSNSなどインターネット上のコミュニケーションでも頻繁に使われるようになり、「ネット流行語大賞2010」(主催:未来検索ブラジル)でも金賞を受賞するなど、ある種の社会現象になった。
販売は不発でも、あの名台詞は死語にはならない
竹安氏は素材提供サイトで件の動画を含め、100枚を超える高画質静止画データなどを提供すると述べ、次のように語っている。
「構想七年 あまりに考えすぎた… 今更感もあるが高画質なのでご自由にどうぞ」(原文ママ、以下同)
「学校や会議の資料として一部画像を使用したり、ニコニコ動画やYouTube,Twitter、ホームページ、チラシ、お店の看板etc、基本何でもご自由にお使いください。商用利用は info@crim.co.jpに使用用途のご連絡だけ頂ければ基本問題ございません」
また竹安氏はこのゲームを知らない世代に向けて、次のようにこの作品を解説し、当時を回想している。
「人間にとって一番大切な自己犠牲をテーマとした物語です。永遠なる神には望んでも持てない力。それを持てるのは唯一人間であり、その事を最も恐れるのもまた人間です。イーノックはそれを提示し、ルシフェルはそれを呆れ、見下します。それでもイーノックは世界を変えようとするそんな物語です」
「エルシャダイは、リーマンショックによりスタジオの閉鎖を余儀無くされ物語が一部未完に終わったゲームです。そのやり残した想いが『神話構想』という形で、今も紡がれています。今年もまた新作の小説や漫画も出す予定です。全てが繋がるオムニバス物語。一度手に取れば抜け出せない沼がそこにあります」
大手ゲームメーカーのPR担当者は同作品のリリース当初の模様を次のように振り返る。
「聖書偽典とされる『エノク書』をモチーフとした中二病心をくすぐるシナリオ、幻想的で美しいキャラデザインや背景など、プロモーションが始まったころはどこのメーカーも大注目していました。実際にプロモーション動画は爆発的な再生数の伸びを見せていましたし、プロモーション動画の新作が公開されるたびにSNSやネット掲示板で注目を集めていました。
しかし、いざ発売してみると思ったほどは伸びなかった。『週刊ファミ通』(KADOKAWA Game Linkage)さんのデータによると初動の売上はプレステが6万本、Xbox が9000本くらいだったと思います。
ユーザーに不評だった要因はプレイ時のキャラ造形がプロモーション時と違うとか、横スクロールアクションになる部分があるとか、仕様上の問題がいろいろあったのだと言われていますが……。『エルシャダイ』のキャラの“強さ”や作品の世界観は素晴らしかっただけに、ゲーム作りと販売の難しさを実感しました。それでも、『そんな装備で大丈夫か』は多少時代遅れにはなっても、死語になったわけではありません。そういう意味でコンテンツそのものの強さを感じます」
ゲームソフト自体は不発に終わっても、キャラや世界観は語り継がれている。この素材配布で、再びネット上で往年の名台詞がバズる日が来るかもしれない。
(文=編集部)