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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~CAが危ない!ANAの正体(19)

ANAHD子会社CA、検疫補助業務後にPCR検査なしで国際線乗務…現場CAが戦々恐々

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
ANAHD子会社CA、検疫補助業務後にPCR検査なしで国際線乗務…現場CAが戦々恐々の画像1
「Getty Images」より

 本連載第11回で取り上げた、ANAホールディングス(HD)が政府から受注した成田空港国際線での検疫補助業務について、実際に業務を実施する完全子会社エアージャパン(AJ)のCAがPCR検査を受けないまま、国際線に乗務していることをANAHDが認めた。現場で作業に当たるAJのCAはもとより、東京五輪の開催で増加すると思われる国内外の乗客の安全をないがしろにする姿勢が明らかになった格好だ。

ANA子会社のCA、感染リスク確認せずに国際線に乗務

 今回の問題の経緯をおさらいしておこう。

 AJはANAHDが100%出資し、成田空港にベースを置く。ANAグループで成田=シンガポール、バンコク路線などアジア・リゾート路線を担い、国際線に特化している。ANAグループが雇用調整助成金を今年度から受け取らないと決めたことにともない、ANAHDが検疫補助業務を受注した。業務内容は、成田空港第1ターミナルで乗客が検疫でのPCR検査を受ける際の受付や誘導、必要書類の確認といった補助業務だが、業務をまかされるAJのCAには業務を開始する5月の大型連休明けのおよそ1カ月前の3月末に突然告知された。

 ほとんど選択の余地はないまま、検疫補助業務にAJのCAは従事することになったが、感染リスクの高い業務にもかかわらず、会社側は「これまでにこの補助業務で感染した例はない」として、業務後のPCR検査は現在も実施していない。AJのなかで管理職以外のCAだけが強制的に業務に就かせられており、翌日に国際線に乗務するケースも少なくない。飛行機の中という密室で数時間も同乗する乗客の感染リスクは否応なしに高まるはずだ。同僚も同じ状況であり、AJのCAは全員、帰宅後は家族にまで感染させるリスクも背負うことになる。

ANAHDの見解

 事実確認のためANAHDに質問状を送付したところ、以下の回答が寄せられた。

Q1:AJのCAは検疫補助業務後にPCR検査を実施しておらず、業務後にPCR検査を受けない状態で国際線に乗務しているケースがあるとの情報を得ておりますが、事実でしょうか。

【回答】

「検疫補助業務」とは、主に到着のお客様の誘導、申請書類のチェック、検疫に関わる内容の案内、検査後の待機場所案内などになります。これら業務については、厚生労働省成田空港検疫所の指示に従って業務についており、その中で検疫補助業務後にPCR検査を実施するという定めはございません。また、検疫補助業務につくにあたっては、感染防止対策としてマスク、手袋を着用するとともに、お客様との間にアクリル板等での仕切りのない業務(誘導業務等)においては、防護メガネ、またはフェイスシールドの着用などを徹底しております。

検疫補助業務に就いた者が、所定の勤務ルール(インターバル時間取得など)に則って、国際線に乗務する場合もございますが、その場合は、通常時と同様、出勤時の体調確認、検温を実施しており、体調不良時には、勤務を外すことを徹底しております。

Q2:上記が事実の場合、乗客や検疫補助業務に従事したCAの家族、AJの同僚への感染リスクが高まると考えられますが、AJのCAおよび接触者の感染防止対策が適切に取られているかにつきまして、貴社のご見解をご教示いただけますでしょうか。

【回答】

Q1の通り感染防止策の徹底を図っております。

ANAHD、PCR検査「厚労省の定めにないから実施してない」

 ANAHDの回答を精査していこう。

 Q1に対する回答から。検疫補助業務後のPCR検査については「厚生労働省成田空港検疫所の指示に従って業務についており、その中で検疫補助業務後にPCR検査を実施するという定めはございません」との理由で実施していないといい、感染防止対策として「マスク、手袋を着用するとともに、お客様との間にアクリル板等での仕切りのない業務(誘導業務等)においては、防護メガネ、またはフェイスシールドの着用などを徹底」しているという。

 まず、厚労省の指示にないから、国際線乗務を担うCAが感染者の可能性のある社外の人間と対応する補助業務に従事した後にPCR検査をしないというのは、適切な対応といえるのか。社員の安全を確保する点からも疑問だが、乗客の安全を第一に考えて最大限配慮するのは航空会社としての責務だろう。

 ANAHDは「検査後の誘導」と業務内容を説明しているが、実際には、より感染リスクの高い検査前の誘導も実施している。さらに、AJ社員への防護メガネ、フェイスシールドは貸与制である。「在庫がなくなるとメガネもフェイスシールドもなしで業務に従事しているケースもある」(現役社員)という。

 アクリル板も「1メートルも間隔が開いていたり、ガムテープでペラペラ貼っているだけのところもあり、適当に設置されている」(現役社員)というから、徹底とはほど遠い。一般的に建屋内はコロナウイルスの感染リスクは高まるとされている。このフェイスシールドや感染防止のガウンも、筆者の記事が出た以降に会社側から貸与されるようになったという。

 また、Q2への回答については以下の証言が別のAJ社員からあった。

「検疫場所は、抗原検査のところを行き来するので、特に北1次検査場前は感染リスクが高く、AJ社員はみんな通るのを避けています。検査後の案内は、検査結果がはっきりしていない人たちの案内で、結果待ちの人と長時間同じ空間におり、正直怖いです。上からの指示が不徹底のため、AJだけでなく補助業務を実施する他会社の人たちでも保護メガネやフェイスシールドをしていない光景が目立ちます。全員がしっかり感染対策をしないと意味がないのに、徹底とはほど遠い」

ANAHD「補助業務後は体調チェックと検温を実施」という不十分な体制

 ANAHDは「検疫補助業務に就いた者が、所定の勤務ルール(インターバル時間取得など)に則って、国際線に乗務する場合もございますが、その場合は、通常時と同様、出勤時の体調確認、検温を実施しており、体調不良時には、勤務を外すことを徹底」しているとも回答している。だが、体調確認と検温だけで、コロナに感染しているかどうかを「徹底」できるのかは疑問といえよう。無症状の場合、体調確認でも検温でも感染しているかどうかはわからない。

菅内閣は「PCR検査実施してない」と回答

 実は、検疫補助業務後のPCR検査を実施しないという方針は、菅内閣の「公認」のものだった。先の通常国会で立憲民主党から提出された質問主意書に、菅義偉総理名義で閣議決定された回答として「PCR検査を実施してない」と明記されている。東京五輪の強行開催に踏み切った菅政権だが、乗客、国民の安全に対してはまったく配慮が欠けていたことを認めた格好だ。

 次回はこの件と合わせ、検疫補助業務の感染防止対策のルールをつくった厚労省の動きについて報じる。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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