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藤和彦「日本と世界の先を読む」

今冬に向け原油価格高騰・ガソリン価格高止まりの懸念…天候・中東リスク、天然ガス価格高騰

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「Getty Images」より

 米WTI原油先物価格は1バレル=70ドル台前半と堅調に推移している。9月20日、中国の不動産大手、恒大集団の破綻リスクを背景に米株式市場が大幅に下落した影響を受けて原油先物にも売りが波及したが、下値は堅かった。8月下旬のハリケーン襲来でメキシコ湾の海上油田施設に被害が出ており、この影響が来年初めまで続くとされているからだ。

 ハリケーン襲来前の米国の原油生産量は日量1150万バレルだった。財務体質の改善を迫られるシェールオイル企業は引き続き探鉱投資に慎重であり、原油価格回復に伴う米国の原油生産量の増加はわずかなものにとどまっている。次にOPECの動向だが、8月の原油生産量は前月比21万バレル増の日量2693万バレルと昨年4月以来の高水準だった。サウジアラビアの生産量が18万バレル増加した。

 OPECと非OPEC主要産油国で構成されるOPECプラスは9月1日、引き続き生産量を月ごとに日量40万バレルずつ増加させることで一致した。前回の会合ではアラブ首長国連邦(UAE)が協調減産の延長に反対し、交渉が一度決裂したが、今回は1時間足らずで終了した。次回会合は10月4日に開催される。

 OPECプラスは昨年5月に日量970万バレルの協調減産を開始し、その後需要の回復に合わせて生産量を拡大してきた。今回の決定で減産量の約半分が復活することになるが、OPECプラスによれば、減産幅を縮小しても今年の世界の原油需給はなおタイトな状態が続くという。バイデン米政権は8月、国内のガソリン価格の高騰を警戒し、OPECプラスに増産を要請したが、今回の閣僚協議で7月に決定した方針が変えられることはなかった。

 需要面に目を転じると、国際エネルギー機関(IEA)は9月14日、「10月の世界の原油需要が4カ月ぶりに増加する」との見通しを示した。新型コロナウイルスのワクチン接種の進展に伴い、アジア地域を中心に感染対策で累積していた需要(日量160万バレル)が顕在化するとしている。

天然ガス価格が高騰

 欧州で天然ガス価格が高騰していることも原油価格の上昇を後押しする可能性がある。冬の需要期を控えた時期の異例な出来事の背景には、各国が「脱炭素」のために発電燃料を温暖化効果が少ない天然ガスに切り替えていることがある。

 欧米先進国の主要生産会社が原油や天然ガスなど資源開発への投資を縮小していることも災いしている。米シェブロンのCEOは15日、「新規の開発プロジェクトが抑制されていることで世界はしばらくの間、高いエネルギー価格に直面する」との見通しを示した。

 世界第1位と第2位の原油需要国である米中両国が、原油価格高騰への牽制を強めている。バイデン大統領は16日、国内のガソリン価格が下落しないことの理由を政権内のチームが調査していることを明らかにした。中国も9月に入り「原油の国家備蓄を初めて放出する」と発表したが、原油価格が下落することはなかった。

 関係者の間では今年は厳冬になるため、原油価格は大幅に上昇するとの見方が出ている。バンク・オブ・アメリカは9月に入り、「今年の冬が例年より寒くなれば原油需要が拡大し、供給不足が進む可能性がある」として、「来年半ばに1バレル=100ドルとなる」とする予測は「半年前倒しされる可能性がある」との見方を示した。例年の冬よりはるかに寒くなれば世界の原油需要は最大で日量200万バレル増加し、冬季の供給不足が同200万バレルをはるかに上回る可能性があるというのがその理由だ。

 需要の下振れ要因として、新型コロナウイルス感染拡大の新たな波、テーパータントラム(米FRBの量的緩和縮小をめぐる市場の混乱)、イラン産原油の国際市場への復帰などを挙げているが、冬季の天候リスクが市場を動かす最も大きな要因だというわけだ。

中東地域の地政学リスク

 原油市場の需給バランスのタイト化により原油価格が高騰する可能性が出てきているが、忘れてはならないのは中東地域の地政学リスクだ。

 アフガニスタン駐留米軍の無秩序な撤退を受け、湾岸アラブ諸国の間に「今後も米国の安全保障の傘に本当に頼ることができるのか」との懸念が広がっている(9月14日付ロイター)。米軍撤退により、過激派組織がアフガニスタンに基盤を築くことができ、「自分たちは戦い続けることができる」との自信が芽生えたことを危惧している。

 米国の戦略転換に最も影響を受けるのは、中東地域における最大の同盟国であるサウジアラビアだ。2001年の米同時多発テロから20年になるのを前に、米国政府は機密指定されていた同時多発テロ関連文書の一部を公開した。「サウジアラビア政府が関与した事実を明らかにせよ」と訴える遺族への配慮からだ。開示された文書の内容には同時多発テロにサウジアラビア政府が直接関与した証拠は含まれていなかったが、在米サウジアラビア大使館の関係者がハイジャック犯の後方支援を行っていた事実は示されていた。今後米国内でのサウジアラビアの印象が悪化する可能性がある。機密文書の公開と同じタイミングで米軍はサウジアラビアに配備されていたミサイル防衛システムなどをすべて撤去し、数千人の米兵を引きあげたことも気がかりだ。

 中東地域での地政学リスクが上昇すれば、原油価格の100ドル超えの可能性が格段に高まることになるだろう。原油をはじめとするエネルギー価格の高騰は、2度の石油危機が起こった1970年代のように、物価圧力が高いなかで景気回復が減速する、いわゆるスタグフレーションを引き起こしてしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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