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H2O、関西スーパーへの奇策=ステルス買収に東証が懸念か…上場維持めぐり審査

文=編集部
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関西スーパーマーケット(「Wikipedia」より)

 大阪、兵庫をホームグラウンドとする中堅スーパー、関西スーパーマーケットの買収劇は、阪急阪神百貨店などを運営するエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングと、首都圏が地盤のディスカウントスーパー、オーケー(横浜市、非上場)の勝負が続いている。3社は過去にも水面下で火花を散らした因縁があり、コロナ禍の小売業不振で、これが蒸し返された格好だ。

 これまでの経緯を振り返っておこう。関西スーパー株を7.69%持つオーケーは6月9日、1株当たり2250円での株式公開買い付け(TOB)をすると提案した。2250円は関西スーパーの上場来高値と同額で、「すべての株主が損をせずに売却できる価格として設定した」(オーケー)という。その後、提案を完全子会社化に切り替え、関西スーパーに協議するよう求めた。

 一方、関西スーパーは10.66%を保有する筆頭株主のH2Oとの提携の強化を模索。設置した特別委員会が「詳細に比較・検討した上で、取締役会に対し、H2Oの提案を受け入れるよう」勧告した。

 これを受けて、H2Oは8月31日、関西スーパーを子会社にすると発表した。関西スーパーは同社株とH2O傘下で非上場の食品スーパー、イズミヤ、阪急オアシスの株式を交換し、H2Oの子会社になるというスキームである。H2Oの関西スーパーへの出資比率は最終的に58%に高まる。

 関西スーパーはスーパー事業を引き継ぐ子会社を新設し、傘下にスーパー3社を収める中間持ち株会社となって東証1部上場と屋号(店舗の名称、看板など)を維持する。オーケーは「株主利益を最大にするという観点から、比較検討していただけたのか」と懸念を表明した。

 関西スーパーは10月29日に臨時株主総会を開催し、H2Oの子会社になる議案を諮るが、オーケーは反対票を投じる。「臨時株主総会でH2Oの子会社になることが否決され、関西スーパー取締役会から賛同が得られれば、1株当たり2250円でTOBを実行し、完全子会社にする」としている。

5年越しの攻防の決着がつくのか

 オーケーは1967年の設立。創業者の飯田勧会長をはじめ飯田家の兄弟は起業家として有名だ。兄の飯田保氏(故人)は居酒屋チェーン「天狗」のテンアライドの創業者、弟の飯田亮氏は警備保障業首位のセコムを立ち上げた。

 オーケーは徹底的な低価格路線で売り上げを拡大してきた。2021年3月期の売上高に当たる営業収益は前期比17%増の5089億円。35期連続増収を達成した。家具量販店のニトリホールディングスと並ぶ増収の連続記録をつくった。神戸新聞NEXT(21年9月7日付)は、「『恩をあだで返されたようなもの…』関西スーパー争奪戦、オーケー進出巡り攻防5年」というタイトルで、買収劇の内幕を報じた。

オーケーは、自社経営の根幹において「関西スーパーを参考にしてきた」とする。過去には関西スーパーの創業者、故北野祐次氏の厚意を受け、売り場づくりや生鮮品の鮮度管理などの手法を学ぶため社員を派遣したこともあるという。

 そんなオーケーが成長を期し、関東圏に次いで進出を図ったのが関西だった。オーケーは関西進出に関し、以前から「自社出店よりも、好立地に店舗網を有する関西スーパーのグループ化を通じた進出が望ましい」と考えていたという。2016年4~8月にかけて、関西スーパー株を約8%取得。資本業務提携を目指したとされるが、協議には至らなかった。関西スーパーは同年10月、かねて打診があったとするH2O との資本業務提携を発表し、H2Oが筆頭株主となった。

 兵庫県内のスーパー関係者は、「関西スーパーからすれば、オーケーに恩をあだで返されたようなもの。懇意だったH2Oの協力を得て、オーケーの介入を防ごうとした」と見る>

 オーケーに対抗するためH2Oがホワイトナイト(白馬の騎士)を買って出た背景には、こうした経営者同士の恩讐があったわけだ。

関西スーパーとH2Oの非上場2社の株式を交換するという奇策

 それから5年。小売業界の競争激化もあって、買収劇が再び蒸し返されることになった。オーケーが提示したTOB価格2250円は、関西スーパーの9月2日終値と比較すると64%のプレミアム(上乗せ幅)がつけられた。一般的なプレミアムは3割程度といわれるなかで、破格の好条件を出したといえる。完全子会社を目指しているため、TOBに応募した株主は2250円で買い取ってもらえるメリットがある。

 オーケーの二宮涼太郎社長は、「買収総額は670億円。無借金経営であり、手元資金で買うことが可能」(9月3日付ブルームバーク)と語っている。H2Oの対案は、同社の子会社の株式と関西スーパー株式を交換するというもの。H2Oの子会社が非上場のため市場価値(時価評価)ははっきりしない。オーケーのTOBとH2Oの対案のどちらが株主にとって有利なのか、簡単には判断できないところがポイントとされる。

 双方がTOBを提案しているのであれば、どちらが高いかすぐに判定できる。上場会社同士の株式交換でも、市場価値(時価)は算出できる。H2Oは関西スーパーの買収に100%子会社のイズミヤ、阪急オアシスの株式との交換という、いわば“間接話法”で臨んだ。

「1株2250円というTOB価格は、オーケーが非上場だからできた芸当。高値づかみになるのは間違いない」(小売業を担当するアナリスト)。だからこそH2OはTOB価格の引き上げ競争に巻き込まれることを回避した。オーケーの条件とはストレートに比較できない非上場の子会社との株式交換方式を選んだ。H2Oの提案は「後出しジャンケンの妙というか、“ステルス買収”とでも命名したほうがいいかもしれない、まさに奇策」(同)だ。

 こうした最中、ロイター(8月31日付)は<東証は(中略)関西スーパーがエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)傘下のイズミヤと阪急オアシスを12月1日付で株式交換により子会社化した場合、関西スーパーは実質的な存続会社でないと認められる、と判断した>と報じた。東証は同日、「関西スーパーマーケット株式について、合併などによる実質的存続性の喪失にかかる猶予期間入りする見込みだ」と発表した。期間は21年12月1日から25年3月31日までとなる。今後、東証は新しい上場基準に照らし、中間持ち株会社となる関西スーパーが上場基準に適合するかどうかを厳密に審査することになる。

 上場企業として難しい判断を迫られるのは、関西スーパーの株主も同じだ。H2O案は臨時株主総会に諮られ、可決には3分の2以上の賛成が必要になるためだ。3月末時点で関西スーパーの株主には伊藤忠食品や独立系の食品卸の加藤産業、さらにはフジッコ、上新電機などの上場企業の名前が並ぶ。これらの上場企業は、どちらに票を投じたのかを自社の株主に説明する義務が生じる。伊藤忠食品の親会社は伊藤忠商事(伊藤忠食品の株式の52%を保有)である。

 H2O案に賛成することによる経済的メリットを、きちんと説明できなければ、自社の株主から「利益の機会損失につながった」と責め立てられかねない。

 もし東証が、正式に「関西スーパーは実質的な存続会社でない」と判断するなら、関西スーパーは上場を維持するために新たな資本政策を考えなければならない。上場企業でなくなった関西スーパーを傘下に収めることになれば、H2Oは株主に対して、その得失をはっきりと説明する必要がある。

オーケーが関西スーパーに追加質問

 オーケーは10月7日、関西スーパーに「H2O傘下のスーパーとの経営統合後の経営体制や事業計画に疑問を投げかける内容」の質問状を送付した。統合が実現すれば、関西スーパーの福谷耕治社長が取締役に退き、H2Oの林克弘副社長が社長に就く人事案を発表したが、「業績不振で単独で存続できない場合を除き、稀なケースだ」とオーケーは主張している。

 9月28日に送付した質問状にも関西スーパーは回答していない、としており、今回の質問とあわせて10月11日まで適時開示するよう求めた。オーケーはジャブを次々と繰り出している。臨時株主総会前に関西スーパーがどう対応するのかにも関心が集まる。10月29日の臨時株主総会までに、まだ一ヤマも二ヤマもありそうな雲行きである。

BusinessJournal編集部

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