帝国データバンクの調査によると、2021年1~8月の旅行会社や旅行代理店の倒産・廃業が累計136件に上り、過去最多を更新した。前年同期(87件)の1.5倍で推移しており、年間200件台に到達する可能性が高まっている。旅行業界の現状について、帝国データバンク情報統括部副主任の飯島大介氏に話を聞いた。
大手各社が店舗&人員を削減へ
――旅行業界は今までにない厳しい経営環境に直面していますね。
飯島大介氏(以下、飯島) 倒産・廃業した企業は、主に地場の中小や、地元の修学旅行でパッケージツアーを組んでいた地域密着型の旅行会社で、規模が大きめの旅行会社も含まれているのが特徴です。2020年も倒産が200件を超える可能性がありましたが、「Go To トラベル」の恩恵で年後半にかけて抑制されました。しかし、コロナ禍による旅行需要減は長期化しており、経営環境は「極めて悪い」といえます。
――店舗型の大手の動向はいかがでしょうか。
飯島 現状はリストラなど人員整理に注力し、大幅なコストカットを断行せざるを得ない状態です。もともと、大手各社はショッピングモールや街中に店舗を構え、ネットに不慣れな高齢者、丁寧に説明を受けたい富裕層向けコンシェルジュ需要を取り込んできました。ただ、コロナ以前も旺盛な旅行需要があった半面、ネット専業の旅行代理店に押され苦戦を強いられてきました。そこでコロナ禍が直撃したことで需要が消失し、倒産や廃業が相次いでいるという構図です。特に店舗型営業では、客足が戻らない中では、実店舗はキャッシュを流出させる要因でしかありません。コロナ禍を生き残るために、店舗の大幅整理にも追い込まれているのが実情です。
ただ、店舗閉鎖と同時にコロナ禍後を見据えた「種まき」も始まっています。JTBは、国内の約2割に当たる100店舗以上を段階的に閉鎖しました。他方で、法人向けにはスマートフォンを活用してライブ中継を行う海外オンライン視察事業などの新サービスを開始し、個人旅行者向けにも専門性の高い社員がリモートで接客するなど、デジタル化を進めています。KNT-CT ホールディングスは、22年3月までに全国の個人向け店舗を約3分の1に縮小する一方で、アバターを通じたリモート接客の導入やパンフレットのデジタル化なども展開しています。
日本旅行は22年末にグループ全体の店舗数を20年比で半減し、人員も19年比で3割削減します。エイチ・アイ・エスは、新卒採用の凍結や大規模な店舗閉鎖を行う一方、企業向けに海外出張を伴う業務などを代行する「レンタルHIS」など新事業を開始しました。同社が持つ海外支店のネットワークを活用し、営業代行や現地視察、サンプル買い付けなど、幅広い海外商談のニーズに対応しています。
――旅行業界の今後の見通しについて教えてください。
飯島 緊急事態宣言が全国的に解除されたことで、旅行需要が本格的に回復することが見込まれる点は、旅行会社にとって希望となります。ただ、すでに1年超も忍耐を強いられるなか、需要回復を待てず、先に経営体力が限界に達する「息切れ型」の経営破綻がさらに増加する可能性が高いです。今後、富裕層の海外旅行が増えるのか、格安旅行の需要が高まるのかはわかりません。JTBや日本旅行は高齢者や富裕層向けのサービスに強いと定評がありますが、各社ともどういった需要が回復するかに左右されそうです。