東京商工リサーチの調査によると、2020年度の「習い事教室(教養・技能教授業)」の倒産(負債額1000万円以上)が、2月までの11カ月で合計41件に達したという。これは前年同期と同数で、01年度以降の20年間で年度最多を記録した19年度(43件)に迫る勢いだ。特に昨夏から増勢が顕著になっており、20年度は過去最多を更新する可能性が高まっている。「習い事教室」の現状について、東京商工リサーチ情報本部情報部の小川愛佳氏に聞いた。
少子化による競争激化にコロナ禍が直撃
――調査の概況から教えてください。
小川愛佳氏(以下、小川) 20年度(4~2月)の11カ月での倒産は41件です。そのうち新型コロナ関連倒産は13件となっており、全体の約3割を占めています。また、倒産した41件のうち35件は資本金1000万円未満の小・零細規模でした。月平均の発生件数は3.7件で、3月も同様のペースで推移すると、19年度の43件を上回り、過去最多を更新することになります。
さらに、休廃業・解散も増加しており、20年(1~12月)は96件と年間で過去最多を記録しました。「習い事教室」は講師などの自宅を教室として利用しているケースが多く、設備投資や借り入れなどの必要性が薄いため、債務を残さずに休廃業・解散で事業を畳むという選択が増えたのではないでしょうか。
――なぜ「習い事教室」の倒産が増えているのでしょうか。
小川 「習い事教室」は大手企業の直営やフランチャイズチェーンから、講師の自宅や賃貸の部屋を教室として利用する小規模な個人経営まで、事業形態が幅広いのが特徴です。ただし、いずれも教室に生徒が集まるという特性上、3密回避やソーシャルディスタンスの確保との両立が難しいという問題があります。
大手の音楽教室や英会話教室などはオンライン授業に切り替えていますが、小・零細事業者や機材・器具が必要なスポーツ教室などはオンライン化が難しいのが実情です。
もともと、「習い事教室」は少子化で競争が激化する中で倒産や休廃業・解散が増加傾向にありました。子どもの数が減少すると、生徒の奪い合いが起こります。同業者間の競争が激しくなればサービスの拡充や価格競争が激化し、事業環境が悪化します。そこに、新型コロナの感染拡大や緊急事態宣言などで休講や受講人数の制限などを迫られることになり、さらに厳しい局面に立たされています。また、生徒の側からも感染を避けるために休講や退会をする動きがあり、それらの影響が倒産や休廃業・解散の増加として表れているものと思われます。
――倒産の原因として最も多いのは何でしょうか?
小川 「原因別」では「販売不振」が37件(前年同期比15.6%増)と最多で、全体の9割を占めています。休講や退会による生徒数の減少は収入減に直結します。コロナ禍が長期化して売り上げが回復しない状況が続けば、今後も経営体力のない個人事業主や小・零細規模を中心に、倒産や休廃業・解散を選択するケースが出てくることが危惧されます。
――「習い事教室」といってもいろいろありますが、業種によって状況に違いはあるのでしょうか。
小川 「業種別」の倒産件数は、スポーツ教室やパーソナルジムなどの「スポーツ・健康教授業」が最も多く、14件です(前年同期比133.3%増)。次いで、「音楽教授業」が7件(同75.0%増)。また、「書道教授業」も前年同期の0件から2件に増えました。「スポーツ・健康教授業」は18年度の9件、「音楽教授業」は06年度の6件を超えて、すでに年度の過去最多を更新しています。
「スポーツ・健康教授業」はチームプレイの競技などをオンラインや個別で行うのが難しいケースも多く、休講を余儀なくされたことで、売り上げの減少が避けられなかったのではないでしょうか。
「音楽教授業」はオンラインで実施することも可能ですが、小・零細規模では対応が難しく、飛沫の問題で合唱や歌唱の授業も再開ができないなど、厳しい局面に立たされました。やはり、休講や生徒の退会などで資金繰りに行き詰まるケースが増えたと思われます。
一方、「外国語会話教授業」は前年同期の11件から3件(同72.7%減)と大きく数を減らしています。オンラインへの転換が進みやすい業態であり、テレワークの浸透などで時間ができた会社員の需要を取り込めたケースもあったと考えられます。
そもそも、教室側がオンライン授業を行っても、生徒側に受講するモチベーションがなければ休講や退会につながります。コロナ禍が長期化すればするほど、オンラインならではのメリットや対面より優れている点などをアピールしていかなければ、「習い事教室」の経営は厳しくなるでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)