半導体製造装置で世界3位の東京エレクトロンの株価は、12月に入っても買い注文が途切れず3日続伸した。12月7日の米株式市場では、主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が5%近く上昇し最高値を更新。これを受けて8日の東京市場で、東京エレクトロン株は一時4%高まで買われた。
日経平均株価が反落した影響で、東京エレクトロンの12月9日の終値は前日比130円(0.2%)安の6万2780円となり、時価総額は9兆8461億円。ソフトバンクグループ(9兆5641億円)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8兆3703億円)を上回り、6位に浮上した。
10月末に全上場企業の時価総額ランキングで10位に入り、ベスト10入りを果たした後も株価はずっと堅調なのだ。世界的な半導体不足の解消の兆しは見られず、さらに長期化するという見方から、世界の半導体関連株に資金が流入している。11月19日につけた6万4100円の上場来高値を更新するのではないかとの期待が高まっている。半導体業界で日本企業が競争力を保っているのはデバイスより製造装置の分野だからだ。
半導体メーカーの投資拡大を背景に製造装置メーカーは好決算に沸いている。業績は絶好調だ。21年4月~9月決算は売上高が前年同期比40%増の9325億円、営業利益は86%増の2746億円、純利益は79%増の2002億円だった。
22年3月期(通期)の予想を上方修正した。売上高は前期比36%増の1兆9000億円。従来予想を500億円積み増した。営業利益は72%増の5510億円。430億円引き上げた。純利益は65%増の4000億円で過去最高を更新する。従来予想を300億円上回る。
売上高営業利益率は29%。過去最高だった18年3月期(25%)の水準を4年ぶりに超える見込みだ。年間配当は1株当たり1284円(前年実績は781円)で503円増やす。高速通信規格「5G」の普及や自動車の電動化を背景に半導体メーカーの設備投資が旺盛で、半導体製造装置の受注は高水準だ。
半導体受託生産で最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は今後3年で11兆円の投資を計画。米インテルは米国内で2兆円を投じて新工場を設ける。韓国サムスン電子も半導体の新工場に2兆円を注入。半導体メーカーの巨額設備投資が目白押しだ。
米アプライドマテリアルズとの統合失敗が転機
東京エレクトロンが利益率を高めることができたのは、米アプライドマテリアルズとの経営統合を断念したことをバネにしたからだ。世界首位との統合で半導体製造装置の巨人が誕生するはずだった。両社合計の売上高は世界シェアの約3割となり、2位の蘭ASMLホールディングスの2倍になるはずだった。
オランダに持ち株会社を設立し、傘下にアプライドと東京エレクトロンがぶら下がるシナリオだった。持ち株会社の会長に東京エレクトロンの東哲郎会長兼社長、CEO(最高経営責任者)にはアプライドのゲイリー・ディッカーソンCEOが就く予定だった。
しかし、計画は白紙に戻った。15年4月、両社は経営統合解消を発表した。独占禁止法の審査を世界8カ国で申請。シンガポール、ドイツの2カ国では認可が下りたが、米司法省の承認を得られなかった。統合を主導した東氏は16年1月に引責辞任、副社長の河合利樹氏が社長に昇格した。東氏は日本経済新聞に連載した「私の履歴書」に「統合断念」(21年4月28日付朝刊)の一文を載せ、<無念、いまでも実現すべき統合だったと思う>と書いた。
<統合という大きな目標に向け社員は本気になっていた。高まった社員のエネルギーを新たな方向に集中させるのが急務だ>(日経新聞より)
<東京エレクトロンの新たな針路を発表した。半導体と液晶の製造装置に集中すること。株主還元をより充実させることなどが柱だ。企業のロゴも刷新した。東京エレクトロンを表すTELのEの真ん中にグリーンの正方形。人と自然環境を重視し、若い世代が中心となって革新的な技術を追う経営をする意思表明である>(同)
統合交渉の過程で、世界トップのアプライドマテリアルズから大きな刺激を受けたのが財産になった。アプライドから学んだことが、過去最高の利益をもたらす要因になった。「災い転じて福となした」のである。
(文=編集部)