住信SBIネット銀行は3月24日に予定していた新規株式公開を延期した。ロシアのウクライナ侵攻で投資家心理が冷え込んでおり、公募や株式の売り出しが難しいと判断した。上場延期の期間は現時点では未定だ。
2月15日、東京証券取引所から上場承認を受け、3月24日に東証1部(現在のプライム市場)に上場する予定だった。インターネット銀行の上場は初めて。大型案件として注目された。上場承認時の想定発行価格は1株1920円。想定発行価格に基づく時価総額は約3000億円。あおぞら銀行、めぶきフィナンシャルグループ(傘下に地銀大手の常陽銀行と足利銀行)と肩を並べ、銀行の上場としては最大規模だ。大株主の三井住友信託銀行とSBIホールディングスが保有株を売り出し、上場後の持ち分はともに28%に低下する。
公募増資で調達する95億円はBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)事業に充てる。BaaSは独自のプラットフォームを使い事業会社などに預金や融資などの金融サービスを提供する仕組み。住信SBIはネオバンクの名称でサービスを展開。日本航空や家電量販店のヤマダホールディングスのほか、三井住友信託にもサービスを提供する。信託銀行にとって手薄だった決済分野でスマホを介した金融サービスの充実を視野に入れる。
住信SBIは2007年9月に営業を開始したネット専業銀行。三井住友信託銀行とSBIホールディングスが共同で50%ずつ出資する。住宅ローンにAI(人工知能)審査モデルを採用しているほか、日々の入出金データを基に融資条件を決める機能を地方銀行に提供するなどフィンテックに強みを持つ。
BaaS事業に注力。顧客向けに独自の金融サービスを行っている航空会社や小売業との関係を深めてきた。新型コロナウイルス感染拡大でネット経由の需要が高まるなか、幅広い業種への金融プラットフォーマーとしての存在感を増してきている。
21年12月末の口座数は20年末より18%増えて510万口座と初めて500万の大台を突破。預金残高は6兆9939億円、貸出金残高は5兆1162億円と着実に増えている。それでもBaaS事業の業務粗利益は21年4~12月期で11億円と全体の3%弱にすぎず、経常損益は15億円の赤字だった。現状では、利益の大半は住宅ローンを中心としたネット事業で稼いでいる。上場で得た資金でBaaS事業を拡大する計画だ。
SBIは連結子会社にした新生銀行を軸に地方銀行と連携、「第4のメガバンク構想」を進めるなど、銀行業務を収益の柱に育てていく方針。ネット銀行の上場も、その一環である。
金融業界に黒船来襲
しばらく前から「巨大IT企業が銀行業に進出する」と言われてきた。日本の金融業界に、いよいよ黒船が来襲する。2019年、米グーグルが銀行口座サービスの提供を準備していることが表面化した。20年11月、スマホ向けアプリ・Google Payを刷新し、米シティグループやスペインの銀行大手BBVAの米子会社などと連携してPlexと呼ぶ口座を米国で開けるようにする考えを示した。
Plexでは普通預金と当座預金を利用できる。口座維持手数料や最低残高などの条件を設けながら利便性を高める計画だ。Plex で得られた取引データを用いて信用スコアリングを行えば、送金・決済コストをゼロにすることが可能になる。これは銀行のATMに壊滅的な打撃を与える可能性があると指摘されている。
グーグルは米金融当局の支持を得て、21年にサービスを始めるとしてきたが、昨秋、スマホ経由の銀行口座サービスの提供を見送った。グーグルが前面に立つかたちでサービスを提供することに対して、金融機関の反発が出ることを懸念したためとみられている。
国内では、みずほフィナンシャルグループ(FG)がグーグルと提携し、デジタルサービスをテコ入れする。22年度中にもグーグルのクラウド上で顧客の取引データを分析し、投資信託や住宅ローンの提案など顧客ごとに適したサービスを提供することにした。システム障害への対応でデジタルサービスの開始では出遅れたが、グーグルの力を借りて挽回を図る。
グーグル側にはみずほFGとの協業で結果を出し、金融分野で足場を築く狙いがある。みずほFGの取引先企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援にもつなげる。米国ではIT大手による金融関連サービスの強化の動きが相次いでいる。米アップルはゴールドマン・サックスと連携して19年、クレジットカードの提供を始めた。
グーグルは米アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトを追い上げるために、金融サービスに力を注ぐ。みずほFGとの提携が日本市場参入の第1弾となる。GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)という名の巨大な黒船の来襲といっても過言ではない。
住信SBIネット銀行など日本のフィンテック企業が巨大な黒船を迎撃するのは容易ではなさそうだ。