ソニーグループとホンダ(本田技研工業)は電気自動車(EV)で提携する。年内にも共同出資会社を設立し、共同開発したEVを2025年に発売する。同社がEVの設計や開発、販売を行う。生産はホンダの工場に委託する。ソニーが車の頭脳にあたるソフトウェアや車内でのエンターテインメントの開発を担う。ホンダは駆動装置や安全機能などのメカニックの部分で力を尽くす。両社の強みを組み合わせ、新たなEVを開発。先行する米テスラなどを追いかける。
ソニーとホンダの提携は急転直下でまとまった。3月4日の共同記者会見でホンダの三部敏宏社長が「昨年夏頃に当社から、『両社でモビリティの将来性を検討しよう』と提案し、若手で構成されるメンバーでワークショップをスタートした。ホンダはその場で両社のメンバーの化学反応に大きな可能性を感じた」と説明した。
ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長は「昨年末にトップ同士で話す機会があった。モビリティの変化と将来性について方向性を共有できると感じたことで検討が加速した」と三部社長の発言を引き取った。若手技術者のワークショップからわずか1年足らずで、共同でEV事業を進めることで合意したという。
ホンダはEVに5兆円投資
ホンダは21年4月、2040年に新車のすべてを走行時に二酸化炭素(CO2)の出ないEVか燃料電池車(FCV)にシフトする。北米では米ゼネラル・モーターズ(GM)とEV事業で包括提携している。22年4月12日、今後10年間でEVやソフトウェアに5兆円を投資すると発表した。EVや車載用電池などを含む研究開発費全体では8兆円を投じる。「空飛ぶ車」の開発などが含まれている。
EVの普及を速めるために30年までに世界で30車種を揃える。年間生産台数で200万台以上を計画する。24年前半に100万円台で商用の軽自動車のEVを投入する。
一方、ソニーは20年、自動運転機能を備えたEVの試作車「VISION-S」を公開。新年早々、米ラスベガスで開かれたテクノロジー見本市「CES」で試作車を披露した。EV開発の責任者、川西泉執行役員はCES会場でオンライン取材に応じ、「やることのリスクより、やらないことのリスクのほうが大きい」と語った。ソニーは自動車や産業機械に欠かせない画像センサーの有力なサプライヤーだ。これまでの産業界の常識に従えば、自動車メーカーに多くの顧客を持つソニーが完成車に本格参入するのはタブーだった。だが、自動車産業自体が歴史的な転換期を迎えている。現実から仮想空間へとビジネスが拡大するなかで、ソニーの可能性は無限大なのだ。吉田社長は「安全に移動しながら娯楽も楽しめる、その両方を満たす商機がある」と述べた。
自動車業界は100年に一度の大変革期に突入した。電動化、自動化、コネクテッド化の3つの技術革新だといわれている。コネクテッドカーとはインターネットへの常時接続機能を備えた自動車を指す。EVにはIT企業を中心に異業種からの参入が相次いでいる。中国の新興企業が安値で参入し、欧州などへの輸出が本格化している。米アップルの参入も取り沙汰され、ソニーはホンダとの提携をテコにEVの事業化で先手を打った。
ホンダは二輪から四輪、そして小型ジェット機に参入して市場を席巻する。ソニーはウォークマンで音楽を歩きながら聞くという新しいライフスタイルをつくり、その後もプレイステーションなど、新しい魅力を次々と生み出した。この先進の技術集約型企業によるEV連合は、自動車業界だけでなく産業界全般に驚きをもたらした。
ホンダとソニーはいずれも独創性が看板の企業だ。他社と組まずに何でも自社でやる“孤高の会社”と呼ばれてきたが、EVでは手を結んだ。両社を結びつけたのは何なのか。ホンダの創業者・本田宗一郎氏とソニーの創業者・井深大氏の技術者としての理念が、強力な磁石の役割を果たした。ホンダとソニーは戦後が日本の生んだグローバル企業だが、ルーツはベンチャーだ。歴史的・文化的にシンクロしていることがよくわかる。
本田氏と井深氏は肝胆相照らす仲
本田氏と井深氏はともに、戦後まもない時期に町工場から出発し、日本を代表する世界企業に育てた。2人は根っからの技術者で公私にわたり40年の交遊があった。井深氏は2歳年上の本田氏を慕っていたという。2人は終生、発明少年のような好奇心を持ち続けた、ものづくりの天才である。本田氏が他界した後、井深氏は『わが友 本田宗一郎』(文春文庫)を著した。2人の最後の対話はこうだ。
<井深 (創業当時)たしかに人材の育成ということをしているヒマはなかった。
本田 食うに困っていたのだから仕事をやるしかなかったからな。
井深 人間というのは仕事さえさせれば、その仕事を通して育ってくる。育たないのは脱落していくものだ。
本田 仕事をしていれば自然に覚えるものだよ。
井深 (私のところで)人集めをする目安は、まず仕事が好きな人であることが第一条件ですよ>
2人の対話では、ものづくりへの熱い想いが語られている。ものづくりの要諦を本田氏はこう言い切る。
<何千でもいいから、作ることだね。もったいないようだけど、捨てることが、一番巧妙な方法だね。捨てることを惜しんでいる奴は、いつまでたってもできないね。物を苦労して作った奴ほど強い奴はないね。物を作ったことがない奴は、皆だめだね>
「日本発、世界初のものを創ってこそ、人より先に進むことができるのだ」。井深氏のモットーは、これだった。「ソニーにしかできないことを、ソニーがやらなくなったら、ソニーでなくなる」。ソニースピリットは井深氏が残したこの言葉に収斂されている。人まねをせず、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する。2人の創業者の思いは、最先端のEV連携でも色あせることはない。
(文=Business Journal編集部)