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急速に息吹き返す商船三井、純利益656%増の理由…非・海運事業に果敢に進出

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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商船三井のHPより

 海運大手の商船三井は、脱炭素関連分野の強化で長期的な成長性を目指している。業務の一つに、国内での海洋温度差発電事業がある。また、東アジアの新興国地域で同社は洋上風力発電への取り組みを強化し、関連作業の支援を行う船舶の運航体制も整備している。収益源を多角化し、ウクライナ危機などによる世界経済の“ゲームチェンジ”への対応力を高める意図がありそうだ。国内企業のなかでも、商船三井の新しい取り組み強化のスピードは迅速と評価できる。

 ただ、そうした取り組みは、今後の競争激化に対応するために必要な条件ではあるが、それだけで十分とは限らない。世界の海運業界では、急速かつ大規模に脱炭素への取り組みを進めたり、世界全体でのタンカー運航オペレーション体制を強化したりする企業が増えている。競争が激化するなかで商船三井は国内外の企業との連携や買収戦略などを強化し、収益源の多角化に取り組むだろう。ウクライナ危機によってエネルギー運搬などのための海運業の重要性は一段と高まった。同社経営陣は、そうした環境の変化を事業運営体制強化のチャンスと捉えているように見える。よりダイナミックに改革が進む展開が期待できそうだ。

現在の商船三井の業務の概要と展開

 現在、商船三井の業績は好調だ。2021年4〜12月期の純利益は前年同期比656%増の4,871億円だった。大幅増益の要因として、世界的な海運市況の逼迫が大きい。新型コロナウイルスの発生以降、世界的な“巣ごもり需要”の急増が海運需要を押し上げた。昨年夏のデルタ株の感染再拡大によって世界全体でタンカー、コンテナ、船員、さらには陸上でのトラック輸送などの物流が大幅に停滞した。その影響は依然として深刻とみられる。

 米国では労働市場が急速に改善し個人消費が盛り上がった。港湾の混雑が深刻な西海岸を避けて、東海岸へタンカー運航を切り替える荷主も増えているようだ。その状況下、中国では感染再拡大が深刻化し、世界最大のコンテナ取扱量を誇る上海の港湾施設の稼働率は低下しているとみられる。供給制約の解消には時間がかかる。海運市況のひっ迫は続くだろう。コンテナ輸送を軸に、商船三井の収益は増加基調を維持する可能性がある。

 その一方で、商船三井は急速に海運事業以外の分野で新しい取り組みを増やしている。象徴的な取り組みが、海洋再生エネルギーを用いた発電事業だ。その一つに海洋温度差発電事業がある。海洋温度差発電は海水の温度差を利用して計画的な発電を目指す技術として注目されている。低緯度の地域では、海面から水深100メートル程度までの海水の温度は年間を通して26~30℃程度に保たれている。その一方で水深が深くなるにつれて海水温は低下する。海洋温度差発電では、表層の海水と水温が1~7°C程度の深層水の温度差を用いて発電を行う。

 具体的には、表層の海水の熱を利用してアンモニアなどの液体(作動流体)を蒸発させ、その蒸気を用いて発電を行う。タービンから排出された蒸気は深層水で冷却されて液体に戻る。海水の温度は変動が少なく、季節変動の予測も行いやすいと考えられている。そのため、経済と社会への計画的かつ持続的な電源として世界的に注目が高まっている。商船三井は養殖に使われる取水管を利用することによって海洋温度差発電のコストを引き下げ、実用化を目指す。

海運事業で得られたノウハウと脱炭素の結合加速

 以上の取り組みを別の目線から考えると、商船三井の経営陣は加速化する世界経済の変化に対応するために、海運ビジネスで得た経験や専門技術と、脱炭素との結合を加速させてようとしているようだ。脱炭素ビジネスの強化は、商船三井にとって主要な成長戦略に位置付けられる。それによって商船三井はビジネスチャンスを増やそうとしている。その取り組みは大きく2つに分けて考えると良いだろう。

 一つ目が、海洋再生可能エネルギーの利用技術の創出だ。商船三井は海洋温度差発電以外にも複数の取り組みを進めている。検討レベルのものも含め主な事業として、世界各国で導入が加速している洋上の風力発電がある。また、波の力を利用して発電を行う波力発電の分野で商船三井は英国の波力発電装置メーカーであるボンボラウェイブパワーに出資した。

 海洋温度差発電と波力発電に共通するのは、洋上風力発電に比べて事業化が遅れていることだ。商船三井は脱炭素の切り札である洋上風力に加えて、競争が激化していない(コスト面を中心に実用化へのハードルが高い)海洋再生エネルギーの実用化を確立することによって、社会インフラ企業としての地位を確立しようとしている。今後は、潮流発電、海流発電の分野でも商船三井が他の企業との合弁事業やメーカーへの出資を行う展開が予想される。

 もう一つの分野が、船舶分野での脱炭素の取り組み強化だ。同社は次世代バイオディーゼルを用いたフェリーの実証試験航海を実施した。それに加えて、タンカーなど船舶の燃料切り替えが加速している。燃焼時に二酸化炭素の排出が少ない液化天然ガス(LNG)を燃料に用いたタンカー、あるいは燃焼時に二酸化炭素を発生しないアンモニアや水素を用いた船舶の運航が目指されている。そのためにも、商船三井は海洋再生エネルギーの利用技術の実現を急ぐだろう。それは、港湾施設の脱炭素推進にも大きく影響する。

加速する収益源多角化の取り組み

 今後、商船三井の競争環境は激化する。脱炭素に関して、商船三井は2050年のネットゼロ・エミッション達成を目指している。しかし、世界の海運業界ではデンマークのA.P.モラー・マースクがその達成時期を2040年に前倒しした。マースクは脱炭素を急ぐことによって持続可能な社会インフラ企業としての競争ポジションを確立しようとしている。中国では国有の海運最大手、中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が共産党政権の支援を受けながら事業を急拡大し、2021年12月期の純利益は前年から9倍増だった。

 ウクライナ危機によって、世界経済はブロック化し始め液化天然ガスの争奪戦などが熾烈化している。そうした需要を取り込むために、海運各社はクリーンなタンカーを増やし、輸送能力を引き上げなければならない。さらには買収などによる事業規模の拡大も進み、世界の海運業界の再編が加速するだろう。そうした取り組みを他社に先んじて実行する経営体力をつけることが、各社の長期存続に決定的なインパクトを与える。日本のように資源を輸入に頼る国にとって、海運企業の競争力は国全体でのエネルギー調達力に決定的な影響を与える。デジタル化によって海運など物流業の重要性も一段と高まる。

 事業環境の急速な変化を成長のチャンスにするために、商船三井は海洋温度差発電など新しい取り組みを増やし、収益源の多角化を急がなければならない。それが、バリューチェーン全体での脱炭素の推進を支えるだろう。地域別には、国内に加えて、中長期的な経済成長と世界経済のサプライチェーンの心臓部としての役割期待が高まる東アジアやアセアン地域の新興国での洋上風力発電や関連する作業船の運航体制を強化するだろう。

 異業種企業との提携や出資も増えるだろう。また、海運事業では同社と日本郵船、川崎汽船のコンテナ事業の統合によって誕生した“オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)”に加えて、ドライバルク事業やエネルギー運搬事業でも他社との連携を進めたり、資産を取得したりすることによって収益性の向上が目指されるだろう。商船三井経営陣が新しい収益源の確立のために資金の再配分を加速し、事業運営の効率性を高める展開を期待したい。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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