海運大手の川崎汽船が、社外取締役に筆頭株主の投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントの内田龍平氏を選んだ。6月21日の定時株主総会で提案し、議決された。
オリンパスが筆頭株主で「物言う株主」の米バリューアクト・キャピタルから取締役を受け入れたことを1月に発表し、川崎汽船は2社目。川崎汽船、オリンパスのような大企業が、物言う株主を取締役に受け入れるのは極めて珍しい。オリンパスは6月25日、株主総会を開き、バリューアクト・キャピタルのパートナーであるロバート・ヘイル氏の取締役就任の承認を受けた。
エフィッシモには「旧村上ファンド出身者が設立した」という枕ことばが常について回る。同社は高坂卓志氏ら村上ファンド出身の若手3人が2006年、シンガポールで立ち上げた。
エフィッシモは2015年、川崎汽船の株式を約6%取得し、大株主として登場。その後も着々と買い増し、16年には34.22%まで持ち株比率を引き上げた。ちなみに、3分の1超の株式を持つと、定款変更・合併など経営の重要事項を株主総会で拒否できる権限を持つことになる。
川崎汽船が16年6月24日に開催した定時株主総会では、エフィッシモが村上英三社長(当時)の取締役再任に反対票を投じたため、村上氏の賛成率は56.88%と、薄氷を踏む思いでの再任となった。
その後、川崎汽船はエフィッシモとの対話を進めた。翌17年6月の株主総会での村上社長の賛成率は97.29%へと急上昇した。
川崎汽船は19年4月1日付で明珍幸一氏が新社長に就任。エフィッシモが3つのファンドで保有している川崎汽船株は32.78%(18年9月末時点)。3分の1の寸前で止めている。「いつでも3分の1超にすることができるぞ」という、無言の圧力だ。
明珍氏はエフィッシモから社外取締役を受け入れることを決断した。内田龍平氏は02年に三菱商事に入社以来、投資に携ってきた。09年、旧産業革新機構に転じ、投資事業グループのヴァイス・プレジデントを務めた。12年12月、エフィッシモに入社。ディレクターとして上場企業の投資管理を行っている。
株式市場は内田氏の社外取締役就任に、一時は好意的だった。この情報が流れた4月26日の株価は一時、1664円を付け、2月21日の年初来高値1666円にあと2円に急接近した。「(エフィッシモが)株主還元を提案するのではないか」との期待から買われた。しかし、6月21日の終値は1253円と25%の下げで、一時の高揚感は消えた。
エフィッシモは4月26日、川崎汽船株の保有目的を「投資及び経営陣への助言、重要提案行為を行うこと」から「純投資」に変更した。