●海運バブル崩壊の後遺症
同社が前期(13年3月期)、1010億円のリストラ費計上で過去最大の最終赤字(1788億円)を記録し、2期連続の業績赤字に転落したのは、大手3社の中で率先して「海運バブル」に踊ったのが主因。
海運バブルが発生したのは、鉄鉱石や石炭向けのばら積み貨物船市場。中国の鉄鉱石需要の急拡大で03年頃からばら積み貨物船が不足し、その用船料(船舶賃貸料)が高騰する海運バブルが発生した。
特に「ケープサイズ船」と呼ばれる10万載貨重量トン以上の超大型ばら積み貨物船は、その運送能力の高さから世界中の海運会社で奪い合い状態となり、バブル発生前まで1日当たり7000〜2万4000ドルで推移していた用船料が急激に値上がりし、08年6月のピーク時には23万ドル台まで高騰した。
この中国需要を先読みしたのが商船三井だった。同社は中国需要を当て込み、海運バブル発生前にばら積み貨物船の大量用船契約を済ませ、バブル期は世界最大のばら積み貨物船隊を運航していた。しかも荷主との船荷長期契約は一定割合にとどめ、大半を航海ごとに船荷料がその時の相場で決まる「フリー船」契約にしていた。
この「先見の明」(当時の商船三井関係者)により、同社は巨額の収益を上げたが、当時の業界関係者の間では「博打経営」と揶揄する見方が強かった。そうした見方を尻目に、02年3月期は1000億円まで達しなかった同社の経常利益は、08年3月期はその3倍を超える3022億円となり、日本郵船を抜いて一気に業界トップの座に上った。
しかし、この「先見の明」は08年9月に発生したリーマンショックで潰れ、「博打経営」が現実化した。
しかも同社は、建造費が最も高かった07〜08年に大量のケープサイズ船を発注していたため、運航が高コストでしかも荷主のいないフリー船を大量に抱える事態に陥ってしまった。前期連結決算ではフリー船に起因する赤字額は約700億円に上り、船荷長期契約で稼いだ黒字550億円を食い潰してしまった。低迷する海運市況に赤字の続くフリー船。加えて、バブル末期に高値で契約した用船料と船荷料の逆ザヤで、荷を運べば運ぶほど赤字が膨れる悪循環に陥ったのだ。
このトリプルパンチにより同社の長期債務格付けはわずか1年の間に2回も下げられ、社債調達金利は急上昇した。証券関係者は「羽振りが良かった頃は5年物国債に0.2%程度上乗せした金利で引く手あまただったが、今は1%程度上乗せしないと買い手がつかない」とため息をつく。
●V字回復シナリオへの荒療治
そこで「14年3月期の黒字転換が至上命題」(商船三井関係者)となった同社が、なりふり構わず施した荒療治が、損失先食いのリストラ費計上だった。