本日発売の月刊誌「サイゾー8月号」。今回は、サイゾーでしか書けない刺激満載のニュース記事の中から、以下記事をピックアップしてお届けします。
(「Wikipedia」より)
解雇規制とは、労働者の解雇(会社による雇用契約の解除)を規制するもので、労働契約法によって、合理的理由と社会的相当性がない解雇は無効になると定められている。常識的に見て、「これでは解雇されて仕方がない」と認められる理由がなければ、解雇してはいけないというのだ。このルールを守っていては解雇が難しいということで、「金銭によって解雇を可能にする仕組みのルール化」などが、安倍内閣の産業競争力会議で議論されている。
解雇規制の緩和については、識者の間でも賛否両論が分かれている。賛成派からは、正社員を解雇しやすくなれば、怠けている中高年正社員が解雇されるかわりに、彼らの雇用維持で割を食っていた若年層や非正規社員が「空いた席」に座れ、雇用が改善するという意見が挙がっている。
その一方、反対派からは、日本の解雇規制は国際的に見て今でも緩く、これ以上緩めれば失業が増えるだけでなく、労働者が解雇の恐怖からものが言いにくくなり、ブラック企業がはびこりかねないという懸念が指摘されている。
では、実際に解雇規制が緩まると、どうなるのか? 会社のお荷物になっているダメ社員をさっさと追い出せればせいせいするし、生産性が上がる……。そんな衝動に駆られる経営者が少なくないからなのか、経済界には規制緩和を支持する声が多い中、緩和反対派の懸念がまさに現実のものとなりかねない事態が、ある企業で起こっている。
その企業とは、日本IBM。同社の雇用問題については、すでに数多く報じられているが、今回改めてその実情を見てみよう。
日本IBMは今、解雇規制緩和反対派の懸念を先取りするかのような、会社が辞めさせたい社員をすぐに会社から叩き出すロックアウト解雇に揺れている。同社の終業時間(定時)は、午後5時36分。同社社員らによると、ロックアウト解雇の通告は決まって午後5時頃の呼び出しから始まる。6月12日付で解雇された女性社員Aさん(45)の場合もそうだった。
Aさんは5月31日午後5時、担当業務の進捗報告のために会議室に呼び出され、直属の上司に報告していると、別の上司とHRパートナー(人事部)が突然入ってきて、唐突に「解雇予告通知」を読み始めた。
「貴殿は、業績が低い状態が続いており、その間、会社は職掌や担当範囲の変更を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社はもはやこの状態を放っておくことができないと判断しました」
彼女は、ほかの社員との会話を禁じられ、定時までに急いで荷物をまとめ、長年働いた職場を去らなければならなかった。仕事の引き継ぎどころか、苦楽を共にしてきた同僚たちへの挨拶さえできずに。
Aさんは有名私大を卒業後、日本IBMに正社員として入社し、2003年からはアウトソーシングの営業を支援する部署で働いていた。彼女は「プロジェクトをいくつか同時に持っていて、日常業務もこなしていました。わずか数行の紙キレで解雇されるいわれはありません」と悔しさを隠せない。
日本IBMには、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)に所属する労働組合、JMIU日本アイ・ビー・エム支部がある(以下、組合)。組合の大岡義久委員長は、次のように説明する。
「会社の主張するAさんの解雇理由は、とても納得できるものではありません。なぜなら、昨年7月に始まった一連の解雇で、会社が振りかざす解雇理由がほとんど同じ文言で、その人ごとの具体的な事情や理由がまったく書かれていないからです」
数多くの解雇問題に取り組み、Aさんらが起こした解雇撤回(地位確認)裁判の弁護団にも所属する並木陽介弁護士も、「こんなやり方は見たことも聞いたこともない」と驚く。
Aさんの事例のほかにも、日本IBMは社員の権利として認められている労働組合の活動を攻撃する、労働組合法にふれる行為を行っていた疑惑も持たれている。
26年間日本IBMに勤めていたBさんは、昨年9月20日、Aさんと同様に突然上司から呼び出され、解雇を告げられた。そして、Bさんが解雇撤回を求め会社を訴えた裁判の第1回口頭弁論(同12月21日)の意見陳述で、「Uの話」を明かすと、法廷内にはどよめきも起きた。
意見陳述によれば、Bさんは以前、上司から親指と人さし指で「U」のかたちをつくって見せられ、「これだろ?」と質問され、「Uですか。ユニオン、組合のことですね?」と答えると、「活動やっているのか」「これ(U)はよくない」と言葉を重ねられた、という。別の上司も「組合に入っていると不利な査定がなされるという事実を知っていますか」と迫ったという。