まず前期に、ばら積み貨物船約130隻の船価見直しや用船契約料の時価見直しにより、1010億円の損失をリストラ費として一気に吐き出した。これにより、今期は約400億円の経常利益押し上げ効果が生まれるという。
さらに今期はばら積み貨物船、自動車輸送専用船、タンカーの減価償却期間を15年から20年に延長したことで、年間の減価償却費が約100億円減少する。また、減速航海による燃費節約などで約76億円の経費節減も予定している。
そんな荒療治に追い風も吹いてきた。円安だ。同社の場合、1円の円安で20億円の増益が見込める。そこで今期は円安による増益310億円を見込んでいる。これらの結果、同社は今期の経常利益改善幅を886億円と試算。前期の経常赤字286億円を差し引き、今期は約600億円の経常黒字を見込んでいるという。
最終赤字の主因だったばら積み貨物船事業の膿を抉り出したことにより、「今期の最終損益黒字転換見通しが確実となり、社内の雰囲気も明るくなってきた」と同社関係者は胸をなで下ろす。
●関連会社の経営悪化
だが、これで問題が解決したわけではない。なぜなら、同社が約30%の株式を保有し筆頭株主となっている海運準大手・一汽が、海運バブルの破裂で一気に経営悪化に見舞われているからだ。
商船三井はこれまで2度にわたって一汽の第三者割当増資を引き受け、合計約300億円の金融支援を行ってきた。それでも経営悪化に歯止めがかからず、「前期末は400億円の資金集めに薬師寺正和社長が取引先を駆けずり回っていた」(証券関係者)といわれている。
そこへ昨年7月31日、一汽が7年前に起こした貨物船座礁事故をめぐり、中国の船主が起こしていた訴訟で英国高等法院より第一審判決が下り、165億円の損害賠償金支払いを命じられたのだ。一汽は同院に控訴する方針と伝えられているが、控訴審でも一審と同じ判決を下される可能性が高いとみられている。
そうなると、30%の株式を所有する商船三井にとっては持ち分法投資損が発生、40億円強の経常減益要因になる。証券アナリストは「一汽が損害賠償金支払いに追い込まれると債務超過は必至で、商船三井への業績悪影響は今のところ計り知れない」と分析する。さらに、「周囲からの圧力で商船三井が一汽を救済するための吸収合併を迫られる可能性が高い。そうなれば一汽の不良資産を処分しなければならないので、200~300億円程度の損失では済まない」との声すら聞かれる。
海運市況も見通しは暗く、海運業界関係者の間では「14年以降も船舶過剰が解消する気配はない。造船も盛んで、逆に過剰圧力が強まっている」との見方も少なくない。
こうした中、前出の証券アナリストは「リストラと海運市況好転待ちの商船三井のV字回復シナリオでは現実味が乏しい。海運事業偏重のビジネスモデルそのものを練り直す時期に来ている」と指摘する。
(文=福井晋/フリーライター)