年明けから東京株式市場は波乱に見舞われている。国内ではオミクロン株の感染者が急増、海外では米国のインフレ進行が加速化して、2月にはロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。抜群の消化能力で定評のある市場も、重量級のトリプルパンチは織り込むことはできず、調整局面を強いられている。日経平均株価3万円、および東証株価指数(TOPIX)2000ポイントの壁はさらに分厚くなってしまった印象だ。
ただ、一筋縄ではいかないのが株式市場であり、冴えない場況のなかで逆行高を演じているものはある。業績好調で高い株主還元が予想される銘柄だ。目下のところ、その象徴になっているのは上場企業きっての老舗として知られる海運株の両翼、日本郵船と商船三井であろう。
「利回りが10%近い銘柄が出るなんて、サプライズ以外の何物でもない。ましてや海運株だよ。時代は変わったね」(証券記者OB)
こうベテラン投資家が興奮するのも無理はない。日本郵船の予想配当は1200円、商船三井は1050円であり、権利確定日になる期末3日前の3月29日までに保有、すなわち買っていれば、100株につき、それぞれ6月に予定される株主総会後に12万円、10万5000円の配当金が支払われる。年初来の株価上昇でやや下降しているものの、配当利回り(3月18日時点)でいずれも9%を超える。配当課税等の約2割を引いても、株主の手元には郵船ならば9万円以上、商船三井では8万円以上が残る。銀行や郵貯の預金では考えられないパフォーマンスだ。
個別銘柄について過去の経緯に通じる者ならば、それが海運株であることも驚きだろう。市況の低迷によって数年前までは、両社いずれも5円(現在ならば50円)前後の配当だった。日本郵船は赤字決算で配当を維持できなかったこともある。それだけに長く保有をしていた投資家の喜びはひとしおのようだ。
「二十数年前にパートの預金で日本郵船株を買って、亡き夫の商船三井株を相続で引き継ぎました。随分長い間含み損だったのじゃないかしら。なんだか臨時のボーナスをもらったみたい」(90代女性)
ちなみにこの株主は日頃、新聞の株価欄をほとんど見ていないという。やはり投資の神様は強欲な者を嫌うのだろうか。
権利落ち日
問題はこれからであろう。権利落ち日(今期末の配当を受ける権利がなくなる日)にあたる30日には、利回り分(配当分)の株価はいったん下落することが多い。「窓(下落した分)はすぐに埋まるのではないか。一粒で二度美味しいになる」(証券記者OB)との強気の見方はあるが、どうであろうか。なるほど現在の海運市況の高騰は今しばらく続くものとみられている。
両社ともに慎重な見通しを立てる傾向はあり、今期がそうであったように、来期前半には幾度もの業績の上方修正がなされ、公約している株主還元策に沿って、中間期に想定以上の増配が実施される可能性はある。そう進むのならば、今春の再現は難しくないだろう。
しかし、株価の水準を決める大きな要因になるのは現状ではなく、あくまで今後である。いかに海運会社を取り巻く環境が良好であっても、高止まりの気配が生じてくれば、株価の行き足は止まるものだ。また両社の長期の株価推移が「天井三日底百日」であることからも、高値掴みをした場合のリスクは、より大きくなる。
さらに夏の参院選も気がかりな要因になるだろう。与党が勝利して安定政権を維持することになれば、特に高配当銘柄には売り圧力がかかりやすい。岸田首相が以前に表明した、配当への課税強化が再び浮上する公算があるからだ。