コロナ禍の飲食業界の中で孤軍奮闘していた焼肉店の倒産が増加している。東京商工リサーチの調査によると、2021年度の焼肉店の倒産は18件で、過去最少だった前年度の12件から一転して、1.5倍に増えた。その背景には、居酒屋大手のワタミが「居酒屋ワタミ」から「焼肉の和民」に業態を変更し、ラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングスもダイニングイノベーションとフランチャイズ契約を締結し、「幸楽苑」から「焼肉ライク」に業態変更して出店するなど、異業種参入が相次いだ影響もあるという。焼肉店の現状について、東京商工リサーチ情報本部情報部課長の後藤賢治氏に話を聞いた。
異業種参入の裏で淘汰が加速
――焼肉店の倒産が前年度比1.5倍となりました。
後藤賢治氏(以下、後藤) 2021年度は2年ぶりに増加に転じましたが、2012年度以降では3番目の低水準にとどまっています。実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)や雇用調整助成金、感染拡大防止協力金などのコロナ関連支援で倒産が抑制されている一方、コロナ禍で経営体力を消耗した焼肉店も少なくありません。また、一連のコロナ関連支援の希薄化が今回の倒産増につながったとみています。
今回、「販売不振」が原因の倒産、また「負債1億円未満」の倒産は、ともに16件で全体の約9割を占めています。ちなみに、2012年度以降の倒産最多は2012年の33件でした。これは、2011年の食中毒事件が影響し、全国的に焼肉業界が冷え込んだ時期にあたります。
――焼肉店には異業種参入も相次ぎました。
後藤 大手飲食チェーンによる参入の影響が大きく、競争が激化しました。たとえば、小規模店の近くに業態変更や新規出店で焼肉店がオープンすると、小規模店は価格競争では大手に勝てないため、特色を出さないといけなくなります。また、大手飲食チェーンによる焼肉店は安価なセット料金を売りにするなど、消費者の囲い込みも活発化しています。さらに、長引くコロナ禍でデリバリーや持ち帰りの飲食スタイルが定着し、焼肉店以外との競争も激しいのが実情です。
――コロナ禍で増えた焼肉店ですが、今は淘汰が進んでいるといえそうですね。
後藤 当初は飲食店の中でも換気能力の高さなどが売りになりましたが、他の飲食店も感染防止対策の徹底が進み、優位性が低くなってきたことも影響しているでしょう。また、焼肉店は火を使い、食材の輸入も多い業態なので、原材料費や光熱費の高騰なども利益を圧迫する要因になっています。そうした状況下では、大量に仕入れを行える大手がより強く、小規模店にとっては苦しい状況が続きます。
――配膳ロボットに関しては、大手で導入が進んでいるようですね。「時給約123円」というニュースも話題になりました。
後藤 配膳ロボットの導入は、人手不足や人件費高騰の対策、また感染症対策にもつながります。今後も大手を中心に導入する店舗が増える可能性はありますが、小規模店ではコストや店舗のサイズ的に導入が難しい面もあると思います。
――今後の焼肉店業界の展望についてはいかがですか。
後藤 コロナ禍でも生き残った小規模・零細の店舗は、独自色を打ち出すことで固定客の確保に成功していると思います。アフターコロナでは、競争激化とコスト上昇、そしてコロナ関連支援の希薄化の影響により 一定の淘汰が進むでしょう。一時はブームといえた焼肉店ですが、今やそれだけでは生き残るのが難しい局面を迎えています。今後は燃料費や食材費の高騰が収益を圧迫することが懸念され、焼肉店は他の飲食店よりも一足早く、収益改善という課題に直面することになります。規模の大小に関わらず、それらをクリアし、集客を確保できる店舗が生き残っていくでしょう。