「もらえてラッキーだった」
「足りません。雀の涙です」
個人事業主なら最大100万円を受け取れる持続化給付金。数名のフリーランスに給付金の使い道を聞いてみると、さまざまな声が聞こえてきた。喜ぶ人もいれば嘆く人もいるなど、事業内容により悲喜こもごもの様相だ。そこで、印象に残った声を紹介してみたい。
悠々自適の個人タクシードライバー
「半年ぐらいはどうにかなるね。今は1日5時間ぐらいしか働いてないよ」
千葉県内で個人タクシーを営む山田邦夫さん(仮名)は、のんびりとした口調で語り始めた。
「緊急事態宣言が終わるまでは駅付近がゴーストタウンでね。月収は15万円ぐらいしかなくてさ。1日働いて5000円なんて日もあったよ。借金を抱えた法人ドライバーなんか真っ青な顔をしていたけど、俺たち個人タクシーは国や県、市などの給付金をもらえたから、あくせくしなかった」
中には、合計で140万円を給付されたドライバーもいたそうだ。山田さんの場合、25年前に購入したマンションのローン返済も終わり、子どもたちも巣立った。今は年金も手にしており、月に15万円も稼げば十分だという。
「いいときは60万円ぐらい稼げたから、月収はかなり減ってるけど、それでも十分だ。正直言えば、持続化給付金をもらえなくても大丈夫だったけど、もらえるものはもらわないとな」
最近は、終電後は途端に乗客がいなくなるという。以前は深夜3時くらいまで走っていたが、今は働く時間をずらして売り上げのマイナスを減らしているそうだ。
60万円の家賃ですぐに消滅
「100万円は2カ月で消えました」――都内で焼肉店を経営する宮崎治夫さん(仮名)の状況は深刻だ。月の家賃は60万円。せっかく手にした持続化給付金も、ひと月ちょっとで消えうせた。家賃支援給付金や感染拡大防止協力金、新型コロナウイルス感染症特別貸付など、あらゆる支援金も申請している。
「4月と5月は最悪でした。店を開けても、お客さんが来ないんですから。仕方なくランチを始めましたが、それでも10万円ぐらいにしかなりません。でも、東京アラートが解除されてから少しずつ客足は戻ってきています」
8月29日の土曜日は「給料日後」「週末」「焼肉の日」が重なって、今年一番の売り上げだったという。移動式のビニールシートで隣の席との仕切りをつくるなど感染対策も徹底しており、来店客も安心しているようだ。
「朝の来ない夜はないですから、希望は捨てないようにしています」と笑顔で締めてくれた。
「売上5割減」の壁に苦しむクリーニング店
「収入は3割から4割減ったわ」――クリーニング店を営む泉田朋美さん(仮名)は、ため息まじりでつぶやいた。
「うちのお得意さんはサラリーマンなんだけど、テレワークが増えたことでワイシャツが減ったのね。週に1~2日しか出社しなくなったでしょ。1週間に5枚持ってきた人が2~3枚になってるの」
しかし、売り上げの落ち込みは4割程度。持続化給付金の支給条件である5割減に満たないため、申請できないという。
「8月も25日に5割を超しちゃって(苦笑)。月の売り上げが5割に近づいてくると『お客さん来ないで~』なんて思うんだけど、店を閉めるわけにもいかないし、この先どうしたらいいかと……。市の給付金は要件を満たしたけど、20万円しかもらえなかった。とてもじゃないけど、やっていけないわ」
ライバル店も同様の落ち込みであり、業界全体が青息吐息だという。「ホステスのバイトも考えたけど、コロナに感染しやすいし……」とこぼしている。
確定申告をしていないフリーターの悲劇
「昨年は確定申告をしてなくて、しまったと思ってます」――運転手業務やネット販売など、いくつかのバイトを掛け持ちしてきたフリーターの今田弘さん(仮名)は開口一番、こう悔やんだ。言うまでもないが、確定申告をしていないフリーターなどは持続化給付金の対象にならない。
「夜にやってたデリヘルの送迎は、客の激減で仕事がほとんどなくなり、休眠状態です。今は雑貨品のネット転売に力を注いでいます」
2000円で仕入れた人気商品を2500円で売るなど、薄利多売の仕事をしているが、ひとつだけ光明があった。無観客になった競馬業務の補償である。
「土日はウインズの仕事をしているのですが、給料は75%ほど補償されるので、家賃はどうにかなってます。空いた時間をネット転売の方に使えますし、今はこのまま無観客競馬が続いてくれと思っています(笑)」
9月の競馬開催が引き続き無観客になると、今田さんは心の中でガッツポーズをしたという。
もともとがテレワークだったフリーランスは仕事も減らないが、飲食店などは大打撃を受けた。そして、景気は落ちるところまで落ちた。これからは緩やかに持ち直していくだろう。それまでどうにか踏ん張るために、個人事業主は給付金や支援金を上手に活用したいものだ。
(文=井山良介/経済ライター)