新型コロナウイルス感染症の治療費や入院費は、原則(所得によっては2万円を上限とした負担のあるケースも)、公費で負担されることになっているが、入院や隔離生活には何かとお金がかかる。また、陰性反応が出た後の治療費や入院費に関しては自己負担になってしまう場合もある。そんなときに助けとなる医療保険はあるのだろうか。
ファイナンシャルプランナーの畠中雅子氏によると、コロナ禍で保険金の給付条件に特例措置が取られているという。
「本来、入院給付金は『病院で治療を受ける』ことで支給されるお金ですが、新型コロナウイルスでの治療については、ホテルや自宅などで療養した場合にも入院給付金が支払われています。また保険商品の中には、オンライン診療のみでも通院給付金が支給されるケースがあります。コロナ禍で、保険にもさまざまな特例が生まれているのです」(畠中氏)
「入院給付金」をもらえる保険が有効?
コロナ禍で収入が減り、保険料の支払いが難しくなってしまったという人も多いだろう。通常、掛け捨ての医療保険料を支払わなかった場合、翌々月には失効してしまうのだが(月払いの場合)、コロナの影響で支払いができないことを保険会社に申請すれば、支払い猶予が設けられるようになった。
「支払い猶予の申請を忘れて保険自体が失効してしまっても、『復活制度』があります。申請までの間に病気をしていると難しいですが、保険会社や契約内容によっては保険を復活させられる場合もあるので、自分の契約内容を確認しておくといいでしょう」(同)
また、終身保険、個人年金保険、養老保険などの保険に加入している場合は、自分の保険を担保にしてお金を借りられる「契約者貸付」という制度がある。生命保険会社によっては、契約者専用のカードを使って、提携銀行のATMでキャッシングできるケースもある。
「ATMで『その他の取引』を押し、表示される『生命保険取引』というメニューを選択して4桁の暗証番号を入れると、自分が借りられる金額が表示されます。コロナ禍で借りた場合は実質金利がゼロで、多くの保険会社は金利ゼロでの申し込み期限を12月まで延長しています。期限を過ぎると通常の利子がかかりますが、コロナの状況次第では、金利ゼロでの申し込み期限がさらに延長される可能性もあります。その場でスムーズに借りられる上に金利ゼロなので、この契約者貸付を利用して助かっている人は多いと思いますよ」(同)
最近、テレビCMなどで「働けなくなったときの保険」というものを耳にするが、これは「就業不能保険」の一種だ。病気やケガで働けなくなったときに収入を補填してくれる保険はコロナ禍でも有効だが、審査の条件がネックになっているという。
「ほとんどの就業不能保険は、働けなくなった状態が180日間継続することで給付の対象となり、期間が短いものでも60日間はあります。新型コロナ感染症で働けなくなったとしても、2カ月間入院しっぱなしというのは考えにくいですよね。コロナ禍では、『入院給付金』をもらえる保険の方が有効なのではないでしょうか」(同)
入院給付金とは医療保険の主契約に当たる部分で、入院日数に応じて日割りで入院給付金をもらえるものや、入院1回につき10万~数十万円もらえるタイプなどがある。また、三井住友海上あいおい生命の「新医療保険Aプレミア」のように、集中治療室に入ったときには集中治療一時金が上乗せされる医療保険も存在する。
畠中氏は、「入院日数にかかわらず、まとまったお金を期待するのであれば、一時金タイプの医療保険を選ぶのも手」と助言する。
海外でコロナ感染なら超高額の医療費請求も
では、アフターコロナの時代に医療保険以外に活躍しそうな保険は何か。まず、国際的な人の往来が緩和されるにしたがって、海外旅行保険は必須になってくるだろう。これまでクレジットカート付帯の保険だけで済ませていた人は、その補償内容で十分なのかを見直すべきかもしれない。
「日本では新型コロナ感染症の治療費はタダですが、海外で感染して隔離された場合、1000万円を超える医療費を請求されることもあり得ます。これから海外に行くのであれば、どこでどう感染するかわからないリスクを考えて、クレジットカードの補償に加えて、疾病補償くらいは上乗せしておいた方がいいでしょう」(同)
日本国内で新型コロナ感染症によって死亡した場合は、通常の疾病による死亡保障に加え、災害割増の対象にもなるという。
「たとえば、3000万円の死亡保障に入っていて、1000万円の災害割増特約もついてきたら、もらえる死亡保険金額は4000万円になります。しかし、この災害割増特約は今まで適用されるケースが少なかったため、保険に詳しい人は外したり、もともと付けていないケースも増えています」(同)
小さな子どものいる家庭の世帯主が亡くなってしまった場合、残された家族には「遺族年金」が支払われるのが一般的だが、これを当てにして民間保険に入らないのはNGだ。畠中氏は「遺族年金の給付には、すごく時間がかかることを知らない人が多い」と指摘する。
「遺族年金は『後払いの制度』で、偶数月に支給されるので、申請のタイミングによっては初回の給付まで半年かかる場合もあります。葬式だけで多額のお金が飛んでいって、小さな子どもを抱えて働くこともままならず、お金が足りなくなったときに初めて遺族年金の給付が遅いことを知る人も多いでしょう」(同)
民間保険であれば、書類さえ揃っていれば、数千万円などの大きな金額であっても1~2週間で支給されるそうだ。「死ぬのは先のこと」と考えていたら、この違いに気づけないかもしれない。
「今回、コロナ禍でこれだけの特例措置ができて、保険会社が助け合いの方向に動きました。医療保険に入っていることによる安心感を、私自身も再確認したかたちです。たくさんの保険に入るように薦めるわけではありませんが、自分は入らないままで大丈夫なのか、今一度考えてみると良いのではないでしょうか」(同)
アフターコロナの時代は、保険の見直しもこれまで以上に重要になりそうだ。
(文=松嶋千春/清談社)