ビジネスジャーナル > 企業ニュース > パチンコメーカー「高尾」倒産の裏側
NEW

パチンコメーカー高尾が倒産…信頼を失った“カイジHIGH&LOW問題”とは?

文=山下辰雄/パチンコライター
【この記事のキーワード】, ,
パチンコ台(「Wikipedia」より)
パチンコ台(「Wikipedia」より)

 パチンコホールの相次ぐ閉店、パチンコ雑誌の休刊、メーカーの人員整理など、暗い話題には事欠かないパチンコ業界。そうした中で、人気シリーズ「弾球黙示録カイジ」や激アツ柄のキレパンダなどで知られるパチンコ機器メーカー・高尾が5月30日付で民事再生法の適用を申請した。パチンコ・パチスロユーザーにとって青天の霹靂といえるこの一件を、業界人はどのように受け止めたのか。パチンコ雑誌のベテラン編集・H氏に話を聞いた

模倣台、カイジ問題、社長殺害…

――高尾の件を聞いたとき、どう感じましたか?

H氏 ビックリした、の一言に尽きます。「カイジ」の他にも「一騎当千」「ピラミッ伝」「クイーンズブレイド」みたいな、かわいくて少しエロい女の子キャラの台をつくるのが上手ですし、固定ファンがついていましたから。

――「ベノムの逆襲」や「ダークフォース」のように、初見で「何だこれは?」と思わせる尖った台も高尾の真骨頂ですね。

H氏 そうそう。金太郎飴のような台ばかりの近年において高尾は個性的な台が多いので、演出やスペックから大きなパチンコ愛を感じるメーカーの一つです。個人的には「蛭子能収」や「銭形平次」も好きでした。

――どちらも他社の模倣台ですね。「こんなことやっていいの?」って驚くくらい斬新でした(笑)。さて、そんな高尾がどうしてこうなったのか。

H氏 やっぱり、2018年の「カイジHIGH&LOW」の問題が転機になったように感じます。そのときの対応や補償も、ホール側が満足いくものではなかったと聞きますし。

――営業資料に書いてあった数値と、実際に導入された台のスペックに大きな違いがあったというものですね。

H氏 あれでホールから信頼を失ってしまった。その直後に内ケ島正規社長が殺害されるなど、会社を根本から揺るがす出来事が続く中、関係各所から信頼を取り戻す前に新型コロナによる逆風をもろに受けて売り上げが減少。資金繰りの目途がつかなくなった、と。

――2015年にマルホン工業、奥村遊機、去年は愛喜が破綻し、今年は高尾。一方で、目立ったヒット作もないのにつぶれないメーカーもあります。

H氏 某老舗メーカーは「パチンコの機構に関する莫大な特許料が入ってくるから、台がヒットしなくても大丈夫らしい」と噂されたこともありました。でも、特許が切れたり、予想外の赤字が積み重なったりしたら、果たしていつまでもつのか……。

――2000年代はじめは“ヒット”といえば10万台クラスを指し、“大ヒット”といえば30万台とか、それ以上でした。それが近年では1万台でも“ヒット”、3万台で“大ヒット”といわれる時代ですから、隔世の感がありますね。

H氏 今は全国のパチンコホールが1万軒を割っているので、1万台ほど売った台は全国の全店舗に導入された場合、1店舗につき1台弱。もし、大手ホールが10台ほど入れたら、その陰で8~9店舗は1台も入れられないという計算になります。

――それのどこがヒット台なんだ? ってなりますね(笑)。最初から台数限定でつくる台もあるので、仮に3000台限定だと3店舗に1台しか入らないことになる。

H氏 雑誌やウェブで新台を紹介しても、読者から「近所で見たことがない」とか「うちの市には1台も入っていません」という嘆きの声が届くことも(苦笑)。

悪循環が止まらないパチンコ業界

――では今後、パチンコメーカーはどうやって生き残ればいいのでしょうか?

H氏 まずは、当たり前ですけどヒット台をつくること(笑)。まあ、それが一番難しいんですけどね。幸いなことに今はパチンコの人気が再燃しつつあるので、「海物語」「歌パチ」「MAXスペック」「1種2種混合」などに続く、新たな人気台が出てきてほしいですね。

――連チャン性能の高い台が次々と出てきてパチンコは楽しそうな反面、パチスロは超氷河期。パチンコ・パチスロ以外に事業の柱をつくっている企業も多いです。

H氏 「1機種でも大ヒットすればビルが建つ」とか「人気シリーズの売り上げでその他の機種の開発費をまかなう」なんて時代は終わりました。そもそも、パチンコホールの減少に歯止めがかからないとメーカーは生き残れません。

――販売台数は落ちても台の販売価格が上がっているので、多くのメーカーは何とかしのいでいる状態ですよね。極端なことを言えば、メーカーはパチンコホールに負担をかけ、パチンコホールはユーザーから搾取して耐えている。

H氏 それについてはノーコメントで(笑)。まあ、実際に勝てないからユーザーが離れ、ユーザーが減ったことで多くのパチンコホールがつぶれ、その結果としてメーカーも苦境に陥っているのが現状。

――それを変えるためには何が必要なのでしょう?

H氏 規則を変えられないのなら、その規則内で最大限楽しめるスペックを考える。アイデアを出すのは開発者だけでなく、パチンコ好きの営業や遊技経験のない総務の人でもいいんです。何気ない会話や意見から、いかにヒントを得るかが開発者の腕の見せ所ではないでしょうか。

――業界全体としての取り組みも大事ですね。

H氏 台の販売価格の再考をはじめ、業界のイメージアップ、新規ユーザーの獲得など、多くの課題にメーカーとパチンコホールが協力して取り組むべきだと思います。新台の導入ペースを落としてホール側の負担を減らすという意味では、2011年にタイヨーエレックがサミーの完全子会社となったように、メーカーのM&Aや台の共同開発だって必要かも。

――なるほど。とはいえ、業界内で大手と中小の格差は広がる一方なので、勝ち組のメーカーやホール企業は口で言うほど危機感を抱いていないかもしれません。

H氏 それが問題なんです。市場規模がこれ以上小さくなれば、大手企業だって自社の維持に必要な売り上げを確保できなくなるかもしれないんだから、大手こそ業界復興のために率先して旗振り役を担ってほしいですね。

* * *

 コロナ禍でも公営ギャンブルはインターネット投票の割合が伸び、過去最高の売り上げを記録している競艇場や競馬場も多い。一方でパチンコパチスロ業界は(建前上は遊技だが)ギャンブル業界で一人負け状態。既存ユーザーの流出が他のギャンブルへの“浮気”で済むうちに業界を立て直し、また以前のように活気あふれるパチンコホールに戻ってほしいものである。

山下辰雄/パチンコライター

山下辰雄/パチンコライター

パチンコライターとしてBusiness Journalにて多くの記事を寄稿。

パチンコメーカー高尾が倒産…信頼を失った“カイジHIGH&LOW問題”とは?のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!