
みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーの経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者・松下一功です。
コロナ禍前に始まった高級食パンブームが、少しずつ縮小しています。以前は専門店「乃が美」を筆頭にメディアにも多く取り上げられていましたが、似たような高級食パン専門店が増え、目新しさが少しずつ薄れていってしまいました。
そして、乃が美は8店舗が閉店するというニュースもありました。今回は、高級食パンブームが失速した理由や再起の可能性などについて、ブランディングの観点から解説します。
縮小下で高級食パンやフルーツサンドがブームに
まずは、パン業界全体について振り返ってみましょう。乃が美大量閉店のニュースはインパクトが強く、高級食パン専門店だけが失速しているような印象を持つ人もいるかもしれませんが、実際にはコロナ禍前からパン業界全体が右肩下がりになっていました。
帝国データバンクの「パン製造小売業者の倒産動向調査(2019年)」によると、2019年の倒産数は前年比2.1倍の31件。調査を開始した2010年以降で最多となっています。内訳は「1000万円~5000万円未満」の小規模倒産が7割で、チェーン店よりも町の小さなパン屋さんが姿を消していることがわかります。
しかし、コロナ禍になって内食需要が高まり、パンの消費も増えていきました。さらに、フルーツをたっぷり使ったフルーツサンドがブームとなったことで、パン業界を下支えしたといえるでしょう。また、コロナ禍でフードロス問題に対する意識が高まったことで、フードロスを防ぐためのオンラインサービスやアプリが広まりました。
その一方で、作物の不作や世界情勢を背景にした食材の値上げなどもあり、パン業界全体を取り巻く環境は、実に複雑なものとなっています。
そして、食品を中心に物価高が止まらない中、乃が美の特徴ともいえる「高級」という部分が逆風にさらされてしまったことも一因でしょう。しかし、その「高級」というのは、あくまで後付けされたものです。乃が美の根本にある価値は「卵アレルギーの人でも安心して食べられる」「そのまま食べられるほどやわらかく、ほんのり甘い」という点です。それらを実現するために食材や製法にこだわり、結果的に一般的な食パンよりも高くなってしまったわけです。
さらに、価格というのは原価で決まるのではなく、その商品が持つ価値で決まります。そういう観点から見ると、乃が美にはきちんとした理念があるといえます。その根本価値をより明確にしていけば、高価格でも売れる「非価格経営」を持続できる可能性があると思います。
「乃が美」の出店戦略が残念な理由
一方、経営コンサルタントとしては、乃が美の出店具合が残念でなりません。というのも、価格を下げずに一気に全国展開したことが、逆風に耐えられなかった理由のひとつかもしれないからです。