みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーの経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者・松下一功です。
前回は、最近流行している「アンバサダーマーケティング」について、どこか違和感を抱く理由や、本来のアンバサダーマーケティングとはいったい何なのか、などをお伝えしました。
後半となる今回は、ブランディングにアンバサダーを取り入れる具体的な方法や、その際の注意点についてお伝えします。
「ファン=オタクの意見を尊重」が鍵に
前回、マーケティングに合っているのがインフルエンサーで、エンゲージメントを高めるのに合っているのがアンバサダーだと、ご説明しました。また、マーケティングとエンゲージメントは同時進行できない、ともお伝えしました。
では、ブランディングの一環としてアンバサダーを取り入れるには、どんな方法があるのでしょうか?
2月18日に放送された『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)を思い返してみると、コンビニエンスストアの新作スイーツ情報を発信する女性、有楽製菓「ブラックサンダー」のファンコミュニティーサイト「黒い広報室」、かつお節専門店「にんべん」の「にんべん だしアンバサダー」が紹介されましたね。
アプローチは違っていても、いずれも「その商品が好き」という気持ちが根本にありました。企業側も、ファンの方々の「オタク」ならではの意見を重視していて、見ていて清々しくもありました。
そう、ブランディングにアンバサダーを取り入れるには、ファンであるオタク、いわばコアなファンの意見を尊重することです。そのためには、コアなファンを見つけ、もしくは育てて、パートナーになる必要があります。
コアなファンをパートナーにする2つの方法
コアなファンをパートナーにする方法は、大きく2つあります。すでにディープな情報を発信している人を見つける方法と、その商品やサービスを好きな人を、より好きになってもらうよう育てる方法です。
前者の例は、『ガイアの夜明け』の冒頭で紹介された、コンビニスイーツファンの女性です。コンビニスイーツが好きすぎるがゆえに、新作が発売されればすぐに購入し、味や写真を7年間毎日、個人的に発信しているそうです。ここまで熱心なファンの方を探すのは大変ですが、地道にSNSなどを調べていれば、その片鱗を感じる人を見つけることはできるでしょう。
個人的におすすめなのは、後者の方です。『ガイアの夜明け』でいうと、「ブラックサンダー」と「にんべん」のやり方です。この2つに共通しているのは、独自のファンサイトを持ち、熱心なファンたちに意見交換の場を与え、そこで得た声をサービスに活用しているという点です。
ファンが自由に出入りでき、発言でき、意見交換できる場所があることは、エンゲージメントを高めるための第一歩です。ファンはコミュニティーサイトでの交流から商品やサービスへの理解を深めることができ、企業はファンのリアルな声を聞くことで、新たな施策を実行することができます。
新商品の使用感や味などの感想を聞くのはもちろん、菓子メーカーならば、たとえば「20周年を記念して、かつて期間限定で発売していた味を復刻しようと思いますが、何味がいいでしょうか?」と聞いてみたとします。すると、「去年の○○味がいいです!」「何年前か忘れたけど、○○味は大人買いするほどハマった!」といった意見が次々に投稿されるでしょう。
そして、「ファンコミュニティー限定総選挙」などと銘打って投票を行い、上位にランクインした味を復刻発売すれば、当然ファンコミュニティーのメンバーは喜ぶでしょう。世間にも「この味はファンの人たちが選んだ味なのか」と強いインパクトを与えることができます。
すると、ファンはますます深い愛情を持って接するようになり、やがては企業と共に商品やサービスを成長させる、かけがえのないパートナーとなることでしょう。
ファンコミュニティーの主役はあくまでもファン
このときに、ひとつだけ注意したいのが、ファンコミュニティー内の主導権はファンにあるということです。企業は、いわば黒子です。ファンがストレスなく交流できるよう、サポート役に徹することが絶対なのです。
そして、可能であればファンコミュニティーへの参加は無料とするのがいいでしょう。参加費を設定してしまうと、参加者側のハードルが上がってしまいますし、場合によっては参加費に見合ったサービスを求められる可能性もあります。
ファンコミュニティーの運営は、決して楽なものではありません。しかし、運営費をケチらずに、収益の柱とせずに運用することで、「よりよい商品をつくりたい」「ファンを喜ばせたい」といった気持ちが伝わります。ファンは、その真摯な姿勢に好感を持ち、より深い愛情を持つようになると思いませんか?
ブランディングにアンバサダーを取り入れることは決して簡単ではなく、一朝一夕でできることではありません。アンバサダーを広告塔ではなく、商品やブランドの揺るぎないファンであり、共に成長していく助言者であり、パートナーであると認識しましょう。そうすれば、相乗効果が次々に生まれてくる、唯一無二の存在となることでしょう。
(松下一功/共感ブランディングの提唱者、安倍川モチ子/フリーライター)