1994年の発売開始以来、1本30円という驚きの低価格と、その値段では到底考えられないようなリッチなチョコレートの風味とザクザク食感で、老若男女を問わず愛され続けて来たお菓子「ブラックサンダー」。全国のコンビニで販売中の「ブラックサンダーアイス」も好評だが、同社にはこのスティックタイプとはまた別の“幻のアイス”があることをご存知だろうか。
その名も「ブラックサンダーカップアイス」(税込250〜300円)。“カップアイスなんてあったっけ?”と首をかしげる人もいるだろうが、それもそのはず。なんとこの商品、東京の工場直営店と、愛知の工場直営店・製造元の洋菓子店の3カ所でしか販売していない限定商品なのだ。それにもかかわらず、その美味しさに魅了された人がSNSで次々と入手報告を重ねており、今その存在が広く知れ渡りつつある。
そこで今回は、そんな“幻のブラックサンダーカップアイス”の秘密に関して、「ブラックサンダー」を製造・販売している有楽製菓株式会社の、東京工場マーケティング部・商品戦略課の牧宏郎氏に話を聞き、大評判の激レアアイスの制作秘話を語ってもらった。
紆余曲折を経ても“ザクザク食感”にこだわり続けた「ブラックサンダー」
まず牧氏に、「ブラックサンダー」というお菓子が、どのようにして日本でこれほどまでに愛されるようになったのかについて、振り返っていただいた。
「1994年から販売を開始し、今年でご愛顧27年目を迎えました。2004年にはコンビニでの販売を開始したことで、全国のみなさまのお手元にも届けられるようになりました。人気に火がついたのは、2008年に日本の某体操メダリスト選手にお気に入りだとおっしゃっていただいたことや、2013年に“一目で義理とわかるチョコ”をコンセプトとした宣伝を打ち出したことですね。知名度がガンと上昇し、2018年になる頃にはシリーズ累計の年間販売数・約2億本を突破いたしました」(牧氏)
「ブラックサンダー」のしっかりとコーティングされたチョコレートとビスケットのザクザク食感は、とても30円とは思えぬ満足感だ。だが、牧氏がこの満足感と低価格を両立するのはなかなか大変だとも語ってくれた。
「発売当初は複数の商品を生産する工場ラインを用いて生産していました。当時は原料が安かったこともあり、30円という低価格も比較的楽に実現していたのですが、不況の影響で原料価格が高騰すると、それまで以上に製造効率を高め、たゆまぬ改善を余儀なくされました。2011年に豊橋夢工場が竣工したタイミングで、生産ラインを『ブラックサンダー』一本に特化する決断をしたのですが、これも効率化にとって大きな要因でした。このようにして多角的な生産コスト低下を目指したことで、現在でも変わらぬ30円という価格とクオリティーの両立を実現しています」(牧氏)
ブランドのこだわりを維持しつつ、さらなる進化を遂げた“限定商品”誕生秘話
そんなこだわりの詰まった商品を生み出している豊橋夢工場を含む、全国でわずか3カ所の販売所でしか売られていない「ブラックサンダーカップアイス」。なぜ、このような限定商品を開発するに至ったのか。
「この商品は、2018年9月より有楽製菓豊橋夢工場の直営店と洋菓子店のマッターホーン豊橋本店にて販売を開始した商品となります。開発経緯としては、当社現会長の河合伴治が、『工場まで足を運んでくださるのはブラックサンダーを愛してくださっているファンの方だろう』、そして『わざわざご足労いただいたことに報いるような“工場でしか食べられない限定商品”を考えよう』と、思い立ったことがきっかけです」(牧氏)
工場でしか食べられないものということだが、なぜ“出来立ての「ブラックサンダー」”などではなく、あえてのカップアイスだったのだろう。
「『ブラックサンダー』はチョコレートの油脂結晶が落ち着き、しっかりと固まった状態、いわゆる店頭に並んでいる状態が一番美味しい商品。出来立てだから通常よりも美味しいというものではないんです。ですから、違うアプローチを取りました」(牧氏)
しかし、そんなアプローチは、開発チームにとってかなり困難な道のりだったという。
「本品のアイスの中には『ブラックサンダー』のビスケットが入っているのですが、アイスにそのまま『ブラックサンダー』のビスケットを入れると、水分をビスケットが含んでしまい、特徴的なザクザクとした食感が薄まってしまうのです。
それゆえ、開発部は現会長・河合の『ブラックサンダーのカップアイスを!』という要望を実現するために、日夜頭を悩ませていたんです。そして、ついに開発部はチョコレートでビスケットをコーティングして水分吸収を防ぐ、という方法を編み出し、ブランドの代名詞である“ザクザク感”を維持したままカップアイスを作ることに成功しました」(牧氏)
この商品、ネット上ではその美味しさとともに、新幹線の車内販売で有名な、通称「シンカンセンスゴイカタイアイス」になぞらえて、「チョクエイテンスゴイカタイアイス」という愛称でも呼ばれているそうだ。
「そうなんですよ。アイスは空気含有量(オーバーラン)が低いと風味が強く、濃厚になると言われています。『ブラックサンダーカップアイス』は、直売だからこそ実現できる空気含有量の低さであるため、固くはありますがその分濃厚に仕上がっております。また、それゆえにお越しいただけた方しか味わえないお召し上がり方である、電子レンジで温めて食べるという方法もご紹介しています。
温め時間は500wの電子レンジで3種パターンをおすすめしていまして、1つ目は河合会長お気に入りの“まだ硬さを感じられる10秒”。2つ目が、開発者がおすすめする“スプーンがスッと入るくらいの柔らかさになる15秒”。三つ目は豊橋夢工場の直売所の店員がおすすめする“なめらかな食感が楽しめる20秒”となっております」(牧氏)
ちなみに豊橋夢工場では、電子レンジでの加熱法をまとめた、手作りの手引きも用意しているそうだ。
爆発的人気を博したからこその、うれしい悲鳴とは?
発売開始の2018年9月から2021年9月末までで、累計1万5000個ほど売り上げたという同商品。しかし爆発的人気の裏では、頭を悩ませる事態も起きていたという。
「夏場のハイシーズンなどは、どうしても欠品することもございます。弊社としては、できるだけ欠品にならないよう努めているのですが、先ほどご説明したビスケットにチョコレートをコーティングする部分から人の手でつくっているため、どうしても生産数が限られてしまうためです。そういった背景があり、チョコレートのコーティング工程は別の場所でなるべく済ませるようにして、直営店での生産効率を上げられるようなプランも検討しています」(牧氏)
2021年の9月に、昨年発売し総出荷本数1000万本を突破した大ヒット商品「ブラックサンダー至福のバター」を再発売するなど、ファンの気持ちを高ぶらせ続けてくれる「ブラックサンダー」。その幻の一品「ブラックサンダーカップアイス」は、今後自社オンラインショップでの取り扱いも検討していきたいそうだが、当面は現在の3カ所での販売となるそうだ。なので、同商品を味わいたい方は、ぜひとも現地に足を運んでみてほしい。
(文=A4studio)