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コンビニで集荷中の宅配業者を取り締まり…「駐車監視員が点数稼ぎ」批判の誤解

文=A4studio
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駐車監視員(「Wikipedia」より)
駐車監視員(「Wikipedia」より)

 今年9月、とあるTwitterユーザーが投稿した一枚の写真が大きな反響を呼んだ。そこには、「これだけ厳しく取り締まっていたら物流コストも上がるだろう」という主旨の発言とともに、駐車監視員がコンビニエンスストアに集荷にきたヤマト運輸の宅配業者を駐禁で取り締まっている様子が写っていたのだ。このつぶやきは2.1万「いいね」を集め、「残念ながら、彼らにとって宅配業者は良いカモですよ」といった駐車監視員批判ともとれる発言も多かった。

 そこで今回は、宅配業界における駐禁取り締まりの現状がどんなものなのか、そして駐車監視員に対する批判は的を射ているのかなどについて、物流ジャーナリストの坂田良平氏に聞いた。

SNSで批判される「駐車監視員は宅配業者をカモにしている」は事実無根

 まず、道路交通法における「違法駐車」とはどのようなものなのか。

「路上駐車=違法駐車と思っている方もいるかもしれませんが、それは正確ではありません。違法駐車となる条件を簡単に説明しますと、標識や標示で駐車が禁止されている場所、またトンネルや坂の頂上付近、交差点や横断歩道から5m以内が駐車禁止と定められています。ほかにも、道路に面している自動車用の出入口から3m、そして消防用施設から5mなどのエリアも駐車禁止。車の右側に幅3.5mの余地がない状態での駐車も違法とされています」(坂田氏)

 話題となったツイートには、緑色の制服と黄色の反射ベストを着た駐車監視員たちが、宅配業者を厳しく取り締まる様子を批判する言動も多く寄せられていた。

「駐車監視員は、2006年6月1日に改正された道路交通法以後に登場しました。それまでは警察が行っていた駐車違反の取り締まり業務を、警察と共に行うようになった民間法人の従業員を指します。今でも警察は取り締まりを行っていますが、警察庁が彼らに業務委託をすることで、警察の業務は大幅に効率化し、違反車両は年々減少していきました。彼らは、業務中は公務員として扱われる『みなし公務員』であり、彼らへの暴行や脅迫は公務執行妨害にあたります。そんな彼らが宅配業者をカモにしている、と批判が集まってしまった背景には、『駐車監視員はポイント稼ぎをしている』という事実無根の噂が広まっている現状が関係しているように思います。

 よく世間で言われる噂ですがこれは事実無根です。駐車監視員たちに『取り締まり数のノルマ』などはありません。そもそも、彼らは年間契約で警察から業務委託をされているので、年間の業務委託費が決まっています。ですから駐禁を多く取り締まったからといって収入や待遇が上がったりすることはないわけです。

 とはいえ、ネット上で『駐車監視員が厳しく宅配業者の駐禁を取っている』と受け取られてしまう原因もあると思います。それは駐車監視員が交通渋滞や事故の発生率を下げるために巡回数を増やしている地域と、宅配業者が多く出入りする人口密集地域が重なっているケースがあるためです」(同)

正確な配送への使命感と荷役場所の定めがない都市計画が宅配業者を圧迫

 これらの理由に加えて、そもそも宅配業者は駐車違反を犯しやすい背景を持っているという。

「まずは、徹底して指定時間内に届けなければならないという風潮が、宅配業界で大きな呪縛になっている点ですね。時間内に届けるのは宅配における大きな使命ですが、それにドライバーが縛られるあまり、駐車違反が起きるケースは少なくありません。例えば、午前中配達指定なのに目的地周辺に11時58分に着いてしまい、しかも近くに駐車OKのスペースがない、という切迫した状況で判断を誤ってしまう場合もあるでしょう。宅配業界や消費者たちが多少の時間の誤差に寛容であれば、時間に遅れていても駐禁エリアは避けようとドライバーが考える心の余裕ができるわけです」(同)

 こうした心理的圧迫とは別に、宅配業者が駐車違反をしてしまいがちな都市構造の欠陥があるという。

「宅配業を含む物流業には船、列車、飛行機、車などいろいろありますが、宅配のようなトラックや軽貨物自動車を利用して荷物を運ぶ自動車運送事業では、荷物の積み卸し、業界用語で言うところの『荷役』を行う場所が確保されていないケースが多くあります。飛行機は飛行場以外に着陸してはいけませんし、列車はレールに沿って駅に停まります。船も港に停泊します。ですが、小回りが利く車を使った宅配では、配達先のマンションやオフィスビルなどに『荷役場所』が設けられておらず、路上駐車をせざるを得ないことがたくさんあります。これは都市計画のなかに『荷役場所』を設けなければならないという発想が乏しいからです。これこそ、宅配業者が駐車違反をしてしまいがちな大きな原因と言えるでしょう」(同)

 つまり国の法整備不足や自治体の対応不足のしわ寄せが、今日まで宅配業者を苦しめ続けているということなのかもしれない。

業界や世間がより関心を持つことが、宅配業者の駐禁問題を改善に導く鍵

 では、こうした現状に宅配業者はどう対応しているか。

「例えば大きな繁華街などのエリアには自社で営業所を設け、そこに一度トラックを停めて荷物を降ろし、そこから配達員がリヤカーなどを使って届けるといった対応をしています。当たり前と思う方も多いかもしれませんが、そもそも都市計画として『荷役場所』を定めていればこうした苦労は減り、駐車違反につながることも少なかったはずです」(同)

 国や行政は、なぜ都市計画としての宅配業者向けの荷役場所を多く設けられないのだろう。仮に新たな荷役場所の設置が難しくとも、特例として宅配業者は見逃すといった法律や条例が、なぜ作れないのか。

「そもそも、国や行政がこの問題を深刻なものとしてあまり捉えていないからではないでしょうか。現状の都市構造を変えるというのは、多くの時間と予算がかかるものなので、そうした諸問題を考えると、今宅配業者たちが苦労しつつも配送を実現できているのであれば、それでいいだろうと判断されている可能性は高そうです。

 こうした問題に、宅配業界が大規模なロビー活動を積極的に行っていればまた現状も変わっていたのかもしれませんが、残念ながらそうした動きは少なく、このような状況が長年続いているのです」(同)

 今後、宅配業界の駐車問題を解決するにはどういったことが求められるのか。

「こうした問題に宅配業界、さらにいえば世間全体がもっと関心を持つことです。今回SNSで話題になった宅配業者の駐車違反では、こうした根本的な問題にまでは至っておらず、駐車監視員などを悪者にして話が終わってしまっていた印象があります。駐車監視員は自分たちの職務を忠実に行っているだけで、彼らが悪いなんてことはありません。問題点の根っこまで思考が至らず断絶してしまうこと、それこそが一番の問題ではないでしょうか」(同)

 ネット上における駐車監視員批判から見えてきたのは、宅配業界が抱えるより根深い問題だった。我々がこうした問題の深部まで考える思考を強く持てば、状況が改善される機会は格段に増えるのかもしれない。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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