数日前、ほろ酔いで乗車してきたサラリーマンらしき客が、ため息をつきながらこんな話をしてきた。
「聞いてよ、運転手さん。この前、都内で10カ所に営業しなければならないのに会社の車が全部使われていたので、仕方なく自分の車で営業したんだ。もちろん、営業先ではコインパーキングに駐車したんだけど、最後にビルの前の道路に駐車したのね。そこはほかの車なんか通らない奥まった袋小路で、通行の邪魔にはならない場所なんだ。でね、20分後に営業を終えて戻ってきたら、『駐車違反』の貼り紙があった。駐車禁止の看板はあったし、俺が悪いのは確かだけど、もっとほかに取り締まるべき危ない駐車があるだろうっての!」
さらに「その場所なら大丈夫だと、タカをくくっていた」と語り、酒の勢いもあって最後はヤケ気味だったが、それはさておき。
今のご時世、平日の昼間に都内で駐車違反をすると、かなりの確率で取り締まられる。僻地ならまだしも、特にターミナル駅に近いエリアはハイリスクだ。言うまでもなく、駐車違反を専門に取り締まる人たちが狙っているからである。
駐車監視員が多いエリアとは?
15年ほど前まで、駐車違反を取り締まるのは警察官の役目だったが、2006年の道路交通法改正で新たに「駐車監視員」が存在するようになった。緑色の制服に身をまとい、違反車両の写真を撮って貼り紙をする光景は、今や当たり前のものとなっている。
駐車違反の摘発を民間に一任したことで取り締まりが強化され、個人的な体感だが、違反車両は昔より減っているように感じる。コインパーキングのオーナーにとっては、うれしい状況だ。
そして、「悪質性・迷惑性・危険性の高い違反に重点を置く」との警察発表とは裏腹に、「取り締まりがしやすい駐車違反」に重点が置かれている感じも否めない。
ある交通ジャーナリストは「駐車監視員とは、警察が民間に任せることで仕事を効率的にした制度です。金は入るし、仕事は減る。警察にとっては手放せない制度ともいえます」と語る。
以前は警察によるレッカー移動やタイヤロックを目にしたが、これは時間がかかる上に、業者にお金を支払わなければならない。警察にとっては、現在の駐車監視員制度のほうが何倍も効率的というわけだ。
前出の交通ジャーナリストは、次のようにも話してくれた。
「ヤクザが乗っていそうな黒塗りのベンツは、よほど悪質な駐車違反でない限りスルーするケースが多いと、駐車監視員経験者に聞いたことがあります。後で文句を言われて、トラブルになるのが面倒だからです」
面倒なトラブルは避けたい――駐車監視員も人の子、というわけだ。
また、駐車監視員が多いエリアについても聞いた。
「言うまでもなく駅に近いほど重点的で、住宅街にはほとんどいません。駅に近い場所=おおむね半径500m以内の場合、広くて交通量が少ない場所でも、コインパーキングなどに停めたほうが無難です。駐車監視員のテリトリー内での駐車違反は、いつステッカーを貼られるかわかりませんから。また、“ここなら大丈夫だな”と感じる場所ほど、駐車監視員にとっては“やりやすいエリア”でもあります。なぜなら、貼り紙をしている間に運転者が出てきて、ああだこうだと言われる確率が低いからです」(前出の交通ジャーナリスト)
冒頭の違反者がそうであったように、運転者の勝手なイメージは通用しない時代になっているのだ。
駐車違反で出頭はするだけ損?
もうひとつ、大きな勘違いを指摘しておきたい。駐車違反のステッカーが貼られた際の対処についてだ。
「ステッカーが貼られたら、その足で警察に行く人も少なくないですが、それだと反則金(駐車違反は1万5000円)のほかに違反切符(2点)も切られてしまいます。ステッカーが貼られても、そのままにしていれば、後日、実際に誰が駐車違反したかわからない警察は車の所有者のもとに『放置違反金支払い命令書』を届けるしかなく、それにしたがって違反金を支払えば、違反点数は加算されずに済みます」(同)
早い話、運転者ではなく車の所有者が取り締まられるわけだ。もちろん、レンタカーやカーシェアリングの場合は出頭する必要があるが、ゴールド免許の人は特に覚えておきたい事実である。
(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)