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警察が“見逃していた交通違反”を急に取り締まる本当の理由…元警察官が明かす検挙の裏側

文=井山良介/経済ライター
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警視庁の交通取締用四輪車(「Wikipedia」より)

「いきなり数名の警官に囲まれて切符を切られた。まいったよ」

 親友のタクシードライバーが嘆いていた。聞けば、コロナ禍の12月、東京・銀座の路上で買い物客を乗せるべく付け待ちをしていた際、「交差点から5m以内」の駐車禁止で違反切符を切られたという。

「交差点から5m以内に停めていたのは確かだし、駐車禁止区域だけど多くのタクシーが付け待ちしている、いわば“暗黙の了解場所”だったんだ。無事故無違反を続けてきて、個人タクシーを夢見ていたのに……ついてねぇや」

スルーしていた交通違反を急に取り締まる理由

 これまでは看過されてきた交通違反を、警察が急に取り締まるようになったということなのだろうか。交通課に勤務経験のある元警察官に聞くと、次のような答えが返ってきた。

「おそらく、そこに駐停車する車両について、市民から『検挙しろ』なんてクレームが入ったんじゃないかな。俺が勤務していた頃の話だけど、スピード違反を挙げたところ、その違反者から『俺みたいなのを挙げるより、○○交差点付近の迷惑駐車をどうにかしろ!』と警察署に電話が入り、対応の意味で違反を挙げに行ったことがあったね。このように、何かしら迷惑行為やトラブルがあって、警察に連絡が入った可能性は高いよ」

 近年、「信号のない横断歩道で歩行者がいるのに停止しない車の検挙」が増えているのも、交通事故の要因となっているためだ。「その違反により事故が増える」「その違反を『なんで見逃している!』とクレームが入る」、この2点は検挙が増える理由だという。

 また、元警察官はこう付け加えてくれた。

「最初の緊急事態宣言の際、交通量は減ったけど、車が減ったことで、いわゆる放置駐車が増えたよね。駐車違反の検挙数は年間では数パーセント減ったけど、緊急事態宣言時は増えたんだ。こうした社会事情も違反摘発の要因になるから、頭に入れておいた方がいいよ。

 もうひとつ、これは推測だけど、これまで見逃していた違反を検挙するよう、警察のトップに通達があったのかもしれないね。コロナ禍の特別給付金や持続化給付金などで国の財政は悪化したでしょ。その補填という意味での通達があったのかもしれないよ」

 車を運転する以上、無意識のうちに交通違反をしてしまっていることも少なくない。混雑している駅前で家族を待つために10分以上も駐車したり、「交通の流れに乗る」という意味で20キロほど速度超過したり……。

「いずれも、警察官が“見逃している”というのが実情だからね。交通違反である以上、いつ挙げられてもおかしくない、ということは理解していた方がいいよ」という言葉はもっともだ。

3万円で見逃す白バイ、議員に頼んでもみ消し

 筆者が若かりし頃、少々の違反は見逃してもらえるケースもあった。ほろ酔いで運転中、白バイに捕まり「すいません、仕事の付き合いで断れず……家族が路頭に迷います」と情にすがり、見逃してもらったという話や、「面倒を見ている市議会議員に頼んで、もみ消してもらった」なんて話も聞いたことがある。

 いずれも決してほめられた行為ではないが、近年はこうした“お目こぼし”すらなくなってきているという。

「10年くらい前、俺の友人が白バイに捕まったんだが、3万円を渡して見逃してもらったことがあると言ってた。そのときは白バイが単独行動だったので通用したけど、2人以上だったらまず無理だよ。互いの目を気にするしね。昔の見逃しは単独検挙が条件だよ。

 でもね、今は警察官がひとりでも通用しないと思うよ。なぜなら、車載カメラを意識するからね。たとえカメラが映らない場所で泣きついても、違反者がやり取りを録音しているかもしれないでしょ。お金で見逃したりしたら、後で脅されかねないからね」(前出の元警察官)

 良くも悪くもおおらかだった時代と異なり、今は相互監視社会へと突き進んでいる。昭和と令和で、社会の空気は明らかに違っているようだ。

(文=井山良介/経済ライター)

井山良介/経済ライター

井山良介/経済ライター

1976年生まれ。経済をメインとするフリーライター。野球に関する書籍の編集もしており、プロ野球や高校野球に関する執筆も多い。

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