今年6月、大阪・吹田市の交番で警察官が刺され、拳銃を奪われるという事件が世間を震撼させた。また神奈川では、横浜地検職員と厚木署員が、実刑が確定した男を収容する際に逃走を許すという事件も起きている。7月には、熊本で家宅捜索の際に容疑者が逃亡し、熊本県警の署員3人に怪我を負わせるという事件もあった。
市民の安全を守る警察官たちが、逆に市民を不安に陥れるような失態を起こす事例が相次いでいる。その原因を、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏に聞いた。
警察が力ずくで制止できる場面は限られる
最近、特に目立つのが、容疑者や受刑者の逃走を許してしまうケースだ。逃走犯が狡猾なこともあるだろうが、警察官に緊張感が足りないのではないだろうか。それとも、いざとなると相手を取り押さえることすらできないほど、警察は弱体化しているのだろうか。小川氏は、「そもそも逃走は警察の失態と十把一絡げにできるものではない」と語る。
「最近の逃走の事例で一概に警察を批判するのは筋違いです。厚木の逃走事件では、逮捕状がないので警察官が力ずくで制止することはできません。服を引っ張ることさえできないのです。あの件は検察の領域で、発表の遅さも含めて検察の判断です。警察としては、体を張って公務執行妨害で逮捕するしかなかった案件なのです。熊本の件も、ガサ入れの時点で起きた逃走なので厚木と同様に警察は無理に制止することができません」(小川氏)
小川氏によると、厚木のケースと同じように保釈中に逃亡している例は全国で26人もいるという(2018年末現在)。
「古今東西、ホシ(容疑者)は逃げるものです。昔も、報道されていないだけで逃走や拳銃の強奪未遂はよくありましたよ。当時のマスコミは中継車などにお金がかかるから大きな事件しか報道しなかったので、一般の方にまで伝わることが少なかっただけなんです。今は技術の進歩で簡単に中継できるのでニュースになることが多くなり、結果的に『増えた』という印象になっているのでしょう。警察が逃走を許すのは今に始まったことではありませんし、そもそも逃走を100%防ぐのは難しいのです」(同)
7月に東京・目黒で男性が見知らぬ男性に傘で目を突かれて失明した事件では、容疑者が19日後に逮捕された。これも広い意味では「逃走」の一種であり、こうしたケースも多いという。
警察の怠慢が目立つケースも
確かに、メディアの報道により「逃走=警察の失態」というイメージがついてしまった面はあるようだ。しかし、なかには言い訳のしようがないケースもあるという。
「最近は逃げられ方が悪いケースがあります。富田林署や松山刑務所の逃走事件は完全に警察や刑務所のミスですね。腕っぷし以前の問題で、まさに怠慢です。また、この2件は捕まえるのにも時間がかかっていたことも、警察の失態。警察にいた者からしてみればあり得ない不祥事なので、世間から『逃走=警察の失態』と思われるのも仕方ないですね」(同)
大阪の富田林署で起きた脱走事件は、同署に勾留されていた容疑者が弁護士と接見後、接見室のアクリル板を破壊して逃走。約1カ月半後に山口で逮捕されたものだ。