愛媛の松山刑務所の事件は、大井造船作業場で受刑者が脱走。同受刑者は広島・尾道市の向島に潜伏したことが判明したため、同島内で捜索を行ったが確保できず、脱走から23日後に広島市南区のインターネットカフェ店員からの通報を受け、同区内で逮捕された。ちなみに、同刑務所の作業場は今回を含め17件20人の脱走が起きており、脱走の多い刑務所としても有名だった。
逃走を許しただけではなく、捕まえるまでに時間がかかる原因に、警察官のやる気のなさがあるという。
「県をまたいで逃走されると、所轄外の警察官は『なんで人んちのポカの尻拭いしなきゃいけないんだ』とモチベーションが上がらないわけですよ。松山刑務所の捜索でも、島にいるとわかっているのに動員人数が少なく、昼間だけ、夜間だけと、一日中捜索しているわけではありませんでした。これは、愛媛県警管内での事件に広島県警が捜索にあたっていたからではないでしょうか。富田林署の事件も、大阪府警の失態なのに、容疑者がどこにいるかわからず情報も少ないとくれば、他県の警察は自分たちの仕事をほっぽり出してまで一生懸命にはやらないのです」(同)
人手不足と“公務員化”が進む警察の実態
大阪・吹田市で起きた拳銃強奪事件も記憶に新しいが、拳銃の強奪について、小川氏はこう語る。
「今も昔も拳銃の強奪、未遂は多いです。しかし、最近は刃物を持って奪いに来たり、交番勤務がひとりの時間を狙ってきたりと凶悪化している気がします。私も奪われそうになったことがありますが、当時は相手が素手で、タイミングも交番に複数の警官がいるときでした」(同)
拳銃強奪の事件が起こると、逃走事件同様に警察の弱体化が指摘される。しかし、小川氏によると「著しく弱体化しているとは言えない」という。
「体育会系あがりの警察官は今でも多く、警察学校でも逮捕術などをみっちり仕込まれるので、安易に警官の弱体化とは言えないでしょう。ただ、ひとつ言えるのは警察の人手不足が大きいということです。人員の充足率が低いために、深夜の交番勤務はひとりというケースも多い。『交番では背中を見せない』というのが鉄則ですが、ひとりではどうしても限界があります」(同)
さらに、「警察志望者の動機も失態を招く遠因ではないか」と小川氏は話す。
「私たちの頃は、みんな警察官になりたくてなっていた。しかし、最近は安定した公務員になりたくて警察官になる者も多く、そのモチベーションに大きな開きがあります。これも、逃走やその他の警察の不祥事を招いている原因なのかもしれません」(同)
一連の不祥事の根っこには、適性のある人材の不足という要因がありそうだ。となると、すぐに問題の解決は難しく、今後も同様の事件が起きるかもしれない。
(文=沼澤典史/清談社)