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地方の国立大学(旧帝大)、東京圏の合格者急増→地元人は減少…教育格差が鮮明

文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト
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東北大学(「Wikipedia」より/XIIIfromTOKYO

 3日付「毎日新聞」記事は、旧帝国大学と呼ばれる7つの国立大学の合格者で、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)の高校出身者が急増する一方、東京圏以外の高校出身者が減少していると報じている。各旧帝大では、大学が所在する都道府県周辺の高校出身者が大幅に減り、その分、東京圏出身者が増加する現象が起きているというが、背景には東京圏と地方の教育格差の拡大があるようだ。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 旧帝大とは、東京大学、京都大学、名古屋大学、東北大学、北海道大学、大阪大学、九州大学の7大学を指す。毎日新聞記事によれば、2008年度と23年度を比較すると、旧帝大の合格者数は東京圏の高校出身者が1.68倍に急増した一方、東京圏以外は約11.5%減少したという。東北大学は同期間で合格者のうち東京圏出身者は1.98倍に増えた一方、東北6県の出身者の割合が減少。北海道大学も東京圏の合格者数が2.73倍となる一方、道内出身者の合格者は減少。東大以外の他の旧帝大でも同様の動きがみられるという。

 大雑把にいうと、地方の旧帝大では東京圏からの入学者が増える分、地元出身者が入りにくくなっている、つまり入試という競争の場で負けやすくなっているということになるが、背景には何があるのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。

「都市部の大学進学率の上昇が大きく影響しています。文部科学省『学校基本調査』の23年卒の大学・短大進学率(現役)は平均60.9%でした。1位は京都府(73.0%)、2位は東京都(72.9%)、3位は神奈川県(68.2%)など上位は都市部に集中しています。関東圏でもっとも低い茨城県でも56.5%でした。一方、地方部は東北6県中3県、九州・沖縄8県中6県がワースト10に入るなど、都市部に比べて低い水準となっています。

 大学進学率に差が生じる背景には、所得格差や親の大学進学に対する理解度などがあります。都市部のほうが所得の高い世帯が多く、大学進学は当然と考える保護者が多数です。しかし、地方だと所得の低い世帯が都市部に比べて多く、保護者も大学進学に対して後ろ向きになりがちです。

 また、都市部では私立中学受験が盛んであり、私立中学以外にも塾・予備校が多数あります。私立の中高一貫校は受験対策を手厚く行っていますし、公立高校も受験指導に熱心な教員が多くいます。仮に高校での指導が不十分でも塾・予備校を活用して受験対策をすることが可能です。一方、地方では手厚く受験対策を行う高校の絶対数が都市部に比べて少ないのが実情です。こうした事情が、旧帝大合格者に都市部出身者が増えていることにつながっていると考えられます」

中高一貫校の存在

 一般的に大学受験に強いとされる中高一貫校だが、その数だけをみても地方と東京圏の差は歴然だ。東京都には私立・都立・国立あわせて180校以上の中高一貫校があるが、たとえば北海道大学のある北海道は約10校ほどとなっている。

 大手予備校関係者はいう。

「系列の大学を持たず、かつ難関大学の合格実績が高い中高一貫校では、高校2年次までに高校3年次までの全履修範囲を終えて、高校3年次はまるまる大学受験対策に当てられるなど、中学1年次から大学受験を想定したカリキュラムが組まれている。入口となる中学入試の競争は激しく、自ずと学力の高い子が入ってくることになるが、そうした中高一貫校は東京圏・大阪圏以外では数が少ない。今年の首都圏の中学受験の受験率は過去最高となるなど、首都圏の中学受験熱は高いままだが、地方では中学受験するケースは珍しいという状況で、小学校4~6年次に厳しい受験勉強を経験した場合とそうでない場合の学力の差は無視できない。

 加えて、今ではどの大手予備校もオンライン授業を提供するようになったおかげで、以前より環境は改善されているが、東京や大阪など大都市圏の予備校など受験対策専門の豊富さに比べれば、地方は圧倒的に劣る。

 以上のように東京圏・大阪圏とそれ以外の地方では、大学受験対策という環境面での格差が大きすぎ、また東京圏・大阪圏では中学受験を経験して受験というものへの意識が高い中学生・高校生が多いともいえる。旧帝大生は就活でも大企業から人気なので、東京の上位の高校の学生の一部が『ちょっと東大に合格するのは難しそうだから地方の旧帝大に志望校を落とそう』と考えて地方の旧帝大に流れるケースは珍しくない。そうして彼らが地元出身の受験生と同じ土俵で競うことになると、結果的に現在のような現象が起きる」

 別の大手予備校関係者はいう。

「これまで地方の国立大学は、地元の都道府県の上位公立高校の学生が入るところという位置づけで、あまり東京圏から受験生がどっと押し寄せてくるという現象はみられなかった。そのため、地方の上位公立高校では『そこそこ頑張っていれば●●大学に入れる』という雰囲気があり、危機意識が薄くなりがちだったという面は否めない。そこに、バリバリに中学受験で勉強して中学時代から東大を意識してきたような東京の受験生が多数、流れてきてしまうと、地方の学生は入試で競り負けてしまう」

地元枠創設は難しい

 このような傾向を受け、地方の旧帝大で地元出身者の合格者を一定数に保つよう地元枠を設置するなど、なんらかの対策を講じるべきなのか。

「地元枠創設は難しいと考えます。学力の低い地元出身者がこの地元枠を利用する可能性があります。入学し、学力の低さが問題になった場合、『大学の地元偏重策がまずかった』などの批判を受けかねません。現在でも公立大は地域住民の税金で運営されているという事情から地域枠を設けています。国立大でも医学部などでは地元に残る医師を養成する目的で地域枠を設けています。いずれも『地域住民の偏重』と批判されることはほぼありません。しかし、国立大が地元出身者の割合を増やすためだけに地域枠を設けると『地元偏重』『逆差別』などと批判されかねません。現実的には難しいのではないでしょうか」(前出・石渡氏)

(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。

Twitter:@ishiwatarireiji

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