ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 大学入試英語、難化の嘘
NEW

大学入試英語「量増加で難化」の嘘…東大、エッジ利いた問題で真の思考力問う

文=日野秀規/フリーライター、協力=富田一彦/代々木ゼミナール英語科講師
【この記事のキーワード】, ,
大学入試英語「量増加で難化」の嘘…東大、エッジ利いた問題で真の思考力問うの画像1
東京大学(「gettyimages」より)

 共通1次、センター試験から大学入学共通テストと、時代の変化に合わせて大学入試は変遷を遂げてきた。そのなかで近年、英語の試験問題が顕著に難化していると全国紙に報じられたことで、受験生の間に不安が広がっている。その実態について、大手予備校・代々木ゼミナール英語科講師で東大英語などの講座を担当する富田一彦氏に解説してもらった。

「ボリューム増=難化」ではない

 報道によると、大学入学共通テストの難化はその文章量に顕著に表れているという。1989年の共通1次試験では100分の筆記試験の総単語数は2728語だったが、2023年の大学入学共通テストになると、80分のリーディングの総単語数は6014語であり、読みこなすボリュームは大幅に増加したという。当然、受験生の負担も増していると思ってしまうが、それはまったく違うと富田氏はいう。

「試験問題の分量が多くなったこと、イコール難化というのは違います。それは表面的な現象をなぞっているだけで、英語試験の本質をとらえた解釈とはいえません。そもそも、私は共通テストが難化してきているとは特に思っていません。ただし、2021年にセンター試験から大学入学共通テストに変更になった際に、英語試験の性質が変わったのは確かです。

 センター試験の英語は、冒頭に発音や文法、語句の並べ替えなど、英文法の理解力を問う問題が配置されていました。この部分が、共通テストに変更になった時にまるまるカットされてしまったのです」

 大学入学共通テストには民間試験が導入されることが決まっていた。そこで、民間試験との問題のダブりを避けるため、文法問題は大学入試センターが作問するテストでは扱わないことにしたのだという。ところが、結果的に民間試験の導入は頓挫する。すると、文法問題がなくなったことで東大や上位国立大学を受験する層にとっては、英語試験は難化どころかむしろ易化し、点差がつきにくくなってしまった。合否選別に支障をきたしかねないこの事態を後追いでカバーするために、作問者が文章題で点差がつくように工夫をした結果、文章量が増えたというのが近年の変化の顛末だ。

「誤解してはいけないのが、点差がつくのは量が増えたから、ではありません。試験の題材となる文章の傾向が変わったのがその理由で、具体的には説明文から物語に移ってきているのです」

 説明文は要点がわかりやすく提示されていることが多い。一方、物語には要点はなく、読み取るべき事柄がほうぼうに散らばっている。受験生にとって、要点が短く1カ所にまとまっている説明文は要領よく処理することができ、高得点を取りやすい。それが物語になると、断片化した情報を全体から読み取る必要があるため、要領だけ良い受験生には太刀打ちできず、上位層のなかでも点差がつくようになるのだ。

「文章の性質上、物語のほうが説明文より総単語数が多くなるのは自然なこと。それは量を意図的に増やしているのではなく、あくまでも文章の性質に付随する現象です。昔の英語問題でも、物語文はよく出題されていました。読解力、理解力を問うために、いわば試験が原点回帰しているわけです」

東大や難関私立も難化していない

 上位層が受験する東京大学や早慶上智など、難関私立大学の英語試験についても変化がみられるのだろうか。

「東大の英語試験については、大手予備校による近年の難易度判定を確認しても、例年並みという判断が続いています。私自身も特に難化したという印象はありません。東大の英語試験には明確な方針があります。それは『あてはめ式で解ける問題は出さない』ということ。習得した知識を組み合わせたり変形したりと、自分なりに使いこなして問題を解く『基礎力』を見ています」

 その一例として、昨年の東大入試では性同一性障害を題材とする文章が出題された。ポイントを押さえれば済む説明文ではなく、読み進めるうちに要所や主題を把握できる読み物であり、性質としては変化後の共通テストと軌を一にするものだ。高校の教材では、このような「エッジの利いた」題材が使われることはない。東大の受験生ならば、毒にも薬にもならないような文章でなく、より現実や新しい価値観に即した題材でも思考力を発揮してほしいという意図が込められた作問だと富田氏は言う。

「上位私大では、学校の特色を出すために試験が変化している面はあるでしょう。近年話題になっている早稲田大学の政治経済学部でいえば、数学を必須科目にしたり、英語も小手先では解けない問題に変わってきています。明らかに受験生が嫌がる方向に変えているのですが、本格派の学生を集めたいという大学の意向が試験問題に反映されているわけです」

受験生に求められるのは「ノウハウの暗記、あてはめ」でなく「伸びしろ」を身に着ける意識

 特に上位層が受験する大学の英語試験について、ことさら難化を言い立てるのは正しくないというのが富田氏の意見だ。そこで最後に、来年受験を控える受験生や保護者に求められる心構えについて聞いた。

「そもそも、歴史をさかのぼっても英語という言語は日本語に比べて極めて変化が少ないのに、英語試験だけが目まぐるしく変わる必要性がないし、実際にそうなってもいません。今も昔も、上位層が集まる大学では一見難しそうでも、きちんと読みこなせば必ず解ける良問が出題されています。そこは信頼できるし、作問者の方々をほめたいくらいです。受験生や保護者の方々には、英語試験の難化を心配するより、ノウハウの暗記でなく文法や文章読解の基礎力をしっかりと身に着けてほしいですね」

 上位大学では学生の「伸びしろ」を測る問題が出題される以上、暗記してあてはめるだけの勉強では伸びしろが生まれず、合格もできない。そう肝に銘じてほしいと、富田氏はアドバイスする。

(文=日野秀規/フリーライター、協力=富田一彦/代々木ゼミナール英語科講師)

富田一彦/代々木ゼミナール英語科講師

富田一彦/代々木ゼミナール英語科講師

1959年生まれ。東京大学文学部英語学英米文学専修課程修了。1986年より代々木ゼミナール講師
代々木ゼミナールHP・富田一彦講師の紹介ページ

Twitter:@TOMITA_yozemi

大学入試英語「量増加で難化」の嘘…東大、エッジ利いた問題で真の思考力問うのページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!