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認知症で保険金が消える?60代以上は今すぐ保険を見直さないと老後破綻を招く恐れ

2025.12.28 2025.12.28 01:03 経済

認知症で保険金が消える?60代以上は今すぐ保険を見直さないと老後破綻を招く恐れの画像1

●この記事のポイント
・現役時代に加入した保険を放置すると、年金生活では高額な固定費となり家計を圧迫する。定期付終身や古い医療保険は、高齢期のリスクに合わないケースが多い。
・認知症を発症すると、保険に入っていても給付金を請求できず「保険金が消える」恐れがある。指定代理請求制度など、請求できる体制づくりが不可欠だ。
・受取人名義の放置や保障内容の不整合は、相続トラブルや資金不足を招く。高齢期の保険見直しは、節約ではなく家族を守るための重要なリスク管理である。

「現役時代に入った保険だから、老後も安心だ」――多くの人がそう信じて疑わない。しかし、その思い込みこそが、老後の家計を静かに、そして確実に蝕んでいく。

 年金生活に入った60代以降、保険は「安心の拠り所」であると同時に、「見直さなければ危険な固定費」に変わる。特に問題なのは、保険料負担だけでなく、認知症や相続と結びついたときに起きる“取り返しのつかない事態”だ。

 なぜ高齢期の保険は、見直さなければ「負の資産」になり得るのか。現場を知るFPの見解も交えながら、その構造を解き明かす。

●目次

年金生活を圧迫する「現役時代の遺物」を整理せよ

 まず直視すべきは、年金生活における固定費の重みだ。

 総務省の家計調査を見ても、無職世帯(高齢夫婦)の実収入は月20万円前後にとどまる。一方で、現役時代に設計した保険をそのまま継続している世帯では、毎月5万〜8万円近い保険料を払い続けている例も珍しくない。

 特に注意が必要なのが、60代以上の加入者に多い「定期付終身保険」である。

 これは、ベースは一生涯の終身保険で、そこに一定期間だけ高額な死亡保障(定期保険特約)を上乗せした商品だ。本来は「子どもが小さい」「住宅ローンが重い」といった現役世代のリスクに備える設計であり、子どもの独立とともに役割を終える。

 それにもかかわらず、保障額を見直さないまま高齢期に突入すると、「守るべき対象がいないのに、死亡保障だけが重い」という歪な状態に陥る。

「定期特約を外すだけで、月の保険料が2万〜3万円下がるケースは多い。年金生活に入った後は、“万一の死亡”より“生きている間の資金”をどう確保するかが重要です」(ファイナンシャルプランナー・荒井友美氏)

 浮いた保険料を生活費や医療・介護の備えに回すほうが、はるかに合理的だ。

「昔の医療保険」は今の医療現場で役に立たない

 医療保険もまた、見直しを怠ると“形骸化”する代表例だ。一昔前の医療保険には、
・入院5日目から給付
・入院日数に応じた日額保障
といった設計が一般的だった。しかし現在の医療現場は、入院の短期化が著しい。

 厚生労働省の統計でも、平均在院日数は年々短縮しており、日帰り手術や1〜3日の短期入院で治療が完結するケースが急増している。その結果、「入院したのに、保険金が1円も出ない」という事態が現実に起きている。

 さらに問題なのが、通院治療、抗がん剤の外来投与、分子標的薬・免疫療法といった医療の主流が変化している点だ。古い医療保険では、こうした治療が保障対象外になっていることも少なくない。

「医療保険は“安心のため”と思われがちだが、実態は『使えない保障に払い続けている』ケースも多い。高齢期は、無理に保障を増やすより、現金を厚めに持つ発想も重要です」(同)

認知症が招く「保険金の埋没」という恐怖

 高齢期の保険で、最も深刻なのが認知症リスクである。本人が認知症を発症し、「保険に加入していることを忘れる」「給付金請求の意思表示ができない」といった状態になると、どれほど手厚い保障も事実上“存在しない”のと同じになる。

 保険会社は、契約者が病気になったことを自動的に把握して連絡してくれるわけではない。請求がなければ、保険金は支払われない。実際に、「親の遺品整理で、未請求の保険証券が見つかった」というケースは、FPの現場では珍しくない。

 さらに厄介なのが、医療保険や給付金請求は原則“本人請求”という点だ。家族が代わりに手続きをしようとしても、法的な裏付けがなければ拒否されることがある。

 このリスクを軽減するために必ず確認したいのが、「指定代理請求制度」だ。これは、
 ・あらかじめ家族(配偶者・子など)を代理人に指定
 ・本人が意思表示できない状態でも、代理人が給付金請求できる
という制度で、多くの生命保険会社が導入している。

「制度自体は無料でも、設定していない人が非常に多い。高齢期の保険では“入ること”より“請求できる状態にしておくこと”の方が重要です」(同)

 併せて、保険契約者代理制度や、家族信託任意後見制度との組み合わせも検討余地がある。

受取人名義の放置が「相続トラブル」の火種に

 もう一つ見落とされがちなのが、保険金受取人の名義だ。

 ・受取人がすでに亡くなっている
 ・離婚前の配偶者のまま
 ・疎遠な親族が指定されたまま
こうしたケースは想像以上に多い。

 受取人が死亡している場合でも、保険金自体が消えるわけではない。しかし、「戸籍の収集」「相続人全員の同意」「印鑑証明の提出」など、手続きは一気に煩雑化する。

 葬儀費用や当面の生活費として保険金をあてにしている場合、数カ月のタイムラグは致命的になりかねない。名義を「今の状況に合った相手」に変更するだけで、家族の負担は大きく減る。

保険の見直しは最大の「親孝行」であり「自己防衛」

 高齢期の保険見直しは、単なる節約術ではない。それは、「認知症」「介護」「相続」という避けられないリスクに備える実践的なリスクマネジメントだ。

 正月や盆など、家族が集まるタイミングで、
 ・保険証券を並べる
 ・保障内容を確認する
 ・代理請求制度・受取人を整理する
このひと手間が、将来の混乱と後悔を防ぐ。

「“まだ元気だから大丈夫”と思っているうちに動けるかどうかが、老後の安心を分ける分岐点になります」(同)

 保険は入った瞬間に価値が生まれるものではない。“使える状態にして初めて意味を持つ金融商品”だという事実を、今こそ直視すべきだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)