A:いま押すべきかどうか迷いがあり、もう少し様子を見る
B:ただちに事故に至るとは思えないが、とりあえず非常ボタンを押す
首都圏の主要路線で駅員、乗務員経験のある東日本旅客鉄道(JR東日本)の社員は、「『ボタンを押す』というひとつの行動で、人の命を守ることができるのです。迷わずに押してほしいところです」と話す。
この社員の話す内容は明確だ。「ボタンを押して列車を止めてしまうことには躊躇するのではないか」という筆者の疑問に対し、安全第一を旨とする鉄道員として次のように語る。
「あのボタンは列車を止めるのではなく、安全を確保するためのボタン。『電車が止まってしまう』のではなく、『電車が止まってくれる』ボタンなので、押すことを躊躇しないでほしいです。具合の悪い人がいたら、救急車を呼びますね。非常ボタンは救急のダイヤルみたいなもので、あとは専門家である駅員が対応します」
●ホームを歩行中に接触し、引きずられて死亡する事故も
12月は、駅ホームにおける人身事故が1年間で最も多くなる。国土交通省が公表した資料によると、2002年度から昨年度までの累計値で2130件に達する。このうち、月別の発生件数(累計)が200件を超えるのは、1月(225件)、4月(202件)、12月(236件)の3カ月で、新年会、歓迎会、忘年会シーズンに当たる。つまり飲み会の増える時期と重なるわけだが、酔客の絡む事故が60%を超えるのは12月だけという。
関東の鉄道事業者24社局と国土交通省は、そのような飲酒後の事故を防ぐため、今月1日から「プラットホーム事故0(ゼロ)運動」を行い、積極的に非常ボタンを押してほしいと呼びかけている。
1つ1つの事故現場では何が起きていたのか。鉄道事業者が国土交通省に報告した事故概要には、酔客の悲惨な最期が記録されている。
例えば、12年12月8日深夜、小田急電鉄小田原線の玉川学園前駅で、酒に酔った50代の男性が上りホームから転落し、線路に覆いかぶさるかたちで横たわってしまった。その後、通過列車の運転士がそのままの状態の男性を発見し、緊急ブレーキをかけたが間に合わず、この男性は死亡した。