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鉄道の人身事故、関東で増加、年間600件で毎日1人以上が自殺~警察は情報開示拒否

文=佐藤裕一/首都圏鉄道路線研究会
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鉄道の人身事故、関東で増加、年間600件で毎日1人以上が自殺~警察は情報開示拒否の画像1JR京浜東北線・神田駅で今年4月5日に発生した人身事故処理の様子

 国土交通省のデータによれば、国内の鉄道自殺は毎年500~600件台で推移している。最多だったのは、リーマンショック翌年にあたる2009年度の677件だが、07年度以降も11年度を除いて600件台が続いている。傾向としては横ばいだ。

 地域別で見ると、近畿は年間90~100件で横ばい、関東を除くその他の地域では減少傾向が見られるが、関東だけは増加傾向となっていた。

 その関東の鉄道自殺は、02~06年度には200件台だったが、リーマンショック前年の07年度に329件になり、以降345件(08年度)、380件(09年度)、324件(10年度)、364件(11年度)、376件(12年度)と推移した。10年度に一旦減少したものの、昨年度はピークだった09年度に匹敵するところまで戻り、毎日1人が鉄道自殺(未遂含む)している計算になる。

 自殺以外の原因も含めた人身事故全体として見ると、関東では、02~06年度は年間300~400件台。これが07年度に499件となり、以降536件(08年度)、577件(09年度)、546件(10年度)、601件(11年度)、625件(12年度)と伸びている。

 顕著なのは東京から千葉、埼玉、神奈川方面に向かう路線だ。07年度以降、異常と思える状態が続いており、「最近、多いよね」という鉄道利用者の直感は正しい。
※最近の発生状況は筆者作成の「鉄道人身事故マップ」参照。

 これに茨城、栃木、群馬、山梨を加えた関東エリアの人身事故を原因別で集計すると、異常事態の正体が自殺であることがわかる。

JR国立駅では、人身事故のすべてが自殺だった

 関東で起きる人身事故の約6割は自殺だ。昨年度の人身事故625件の内訳は、自殺376件、ホーム上で接触131件、ホームから転落36件、線路内立入り33件、踏切などの直前横断30件、その他19件。

 自殺が特に多いのは、02年度から昨年度まで累計21件のJR新宿駅をはじめ、JR東京駅(18件)、JR川崎駅(同)、JR戸塚駅(同)、JR新小岩駅(17件)、JR横浜駅(同)、JR荻窪駅(16件)、JR国立駅(15件)など。

 新小岩駅は上位に位置しているが、11年度に多発が始まる以前は、9年間で計6件という目立たない駅だった。

 別の意味で異常なのはJR国立駅とJR戸塚駅。ともに件数が多いだけでなく、戸塚駅は人身事故19件中18件が、国立駅は15件すべてが自殺だった。

 このような場所は駅間にも存在し、JR中央線の八王子駅~西八王子駅間とJR高崎線の桶川駅~北本駅間では、それぞれ22件、20件の自殺が起きている。そのうち八王子駅~西八王子駅間は、営業距離が約2.4キロと短く、住宅地の広がる地域にもかかわらず、鉄道自殺の数は日本で最も多い場所だ。

警察庁がまとめる自殺の詳細データ

 以上見てきた数字は、警察が認定している数字だが、その警察には「自殺統計原票」という様式で、自殺者の年齢、性別、職業、自殺の場所、自殺の手段、動機といった各項目をまとめたデータが存在する。

 このデータを分析すれば、地域ごとや場所ごとに、有効な自殺対策を検討できるかもしれない。だが、そのような自由な分析は、民間にはできない。政府と警察が情報公開法を盾に必要なデータを出さないのだ。

 「自殺統計原票」には、自殺者の年齢、性別、職業、自殺の場所、自殺の手段、動機の各項目について、細分化された分類のコード番号が記録される。例えば職業が飲食店店員なら職業コード「30」を記入する。自殺の場所も同様に、コード番号10が「駅構内」、11が「鉄道線路」となっている。自殺の手段もコード化されており、「飛込み」は14だ。

 さらに、原因動機にも53の詳細な分類があり、鉄道自殺の一つひとつについて、場所、手段、年齢、性別、職業、原因動機という分析が可能なのだ。

 ところが警察庁は、このデータの情報公開を求めた筆者に対し、自殺した個人が識別される可能性などを理由に、分析に必要な部分をすべてスミ塗りした文書を開示した。

該当者1名の情報を自ら公表する警察庁

 一方で警察庁は、毎年の「自殺の概要資料」という文書で、該当者が1人しかいない職業、性別、原因のクロス集計を公表している。

 同資料によれば、小学生の女児1人が09年に「親子関係の不和」と「病気の悩み・影響(うつ病)」を原因として自殺している。

 また、「議長・知事・課長以上の公務員」の女性が、08~11年に1人ずつ、「仕事の失敗」と「うつ病」(08年)、「身体の病気」と「うつ病」(09年)、「夫婦関係の不和」と「仕事疲れ」(10年)、「身体の病気」(11年)で自殺していることも出ている。

 一方では自殺した個人が識別される可能性のある情報は開示できないとしていながら、他方では該当者が1人しかいない情報を統計上の数字のようにして出している。この矛盾を指摘して異議申し立てをすると、警察庁はスミ塗りの妥当性などを審査する内閣府の機関、「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問。その審査会は、この矛盾を無視して警察庁の主張を妥当とする判断を下した。

 警察庁は自殺統計原票のデータを内閣府自殺対策推進室や内閣府経済社会総合研究所に使わせているが、民間には提供していないことも判明している。

 警視庁、千葉県警、埼玉県警、神奈川県警にも同様の開示請求を出したが、結果は同じだった。
(文=佐藤裕一/回答する記者団)

※より詳しい内容は「MyNewsJapan」または「回答する記者団」でご覧いただけます。

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