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グリコ障害、開発担当デロイトに原因か…なぜERP刷新失敗で1カ月も出荷停止

文=Business Journal編集部
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江崎グリコの公式サイトより

 江崎グリコのほぼすべてのチルド食品(冷蔵食品)が、社内のシステム更新作業に伴う障害により約1カ月も出荷停止となるという異例の事態が起きている。約340億円もの費用をかけてSAPのクラウド型ERPソフトウェアを導入して基幹システムを刷新するという作業だが、なぜ業務効率向上を図るシステムで逆に業務が止まるという事態が起きているのか。また、24日付「ダイヤモンド・オンライン」記事によれば、刷新プロジェクトを任された主幹ベンダは外資系コンサルティング会社のデロイト トーマツ コンサルティングとのことだが、外資系コンサルにシステム開発・更新を委託するリスクはあるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 江崎グリコは売上高3325億円、営業利益186億円、当期利益141億円(2023年12月期)という大手総合食品メーカー。創業は1922年(大正11年)であり100年以上の歴史を持つ老舗企業でもある。「ポッキー」「プリッツ」「GABA」「プッチンプリン」などの菓子類、「パピコ」などの冷菓、「BiFiX」などの乳製品、「カフェオーレ」「アーモンド効果」などの飲料、カレールー「PREMIUM 熟」「LEE」などの加工食品、「POWER PRODUCTION」などのサプリメント、美容食品など幅広い食品を手掛けている。

 同社は業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進してきた。旧システムからの切替を行っていた今月3日、障害が発生し、一部業務が停止。その後、一部商品の出荷が停止となり再開されたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品は再び出荷停止に。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大。出荷再開は5月中旬とされているが、具体的な日時は決まっていない。

「SAPを使って、原材料調達から生産・出荷・物流・販売管理・会計までを一気通貫で連携させる、いわゆる統合基幹業務システムを導入するというもの。300億円以上という開発費用から、開発には3~5年くらいの長い期間がかかっていると思われ、単に新システムを構築するというわけではなく、要件定義や設計の段階からあらゆる部門の業務をゼロから抜本的に見直す必要がある、相当大がかりなプロジェクトだったと思われる。

『システムが止まっても手作業で出荷できるのではないか』とも考えられがちだが、在庫管理から販売、会計までが一気通貫でつながっているので、各工程での商品・数量の動きがすべてシステムに反映されないと、何がどれだけ出荷されて、どれだけ売れたのか、数字を把握できなくなり、正しい会計処理もできなくなる。また、データの不一致が生じれば途中でエラーが生じて処理がストップしてしまうという事態も考えられる。

 あくまで推察だが、今回チルド商品の出荷が停止されたというのは、単価が安く商品ごとの販売数量が多く、かつ流通経路が多岐にわたるため、各工程で手作業によってシステムに入力・反映させるといったマンパワーに頼るイレギュラー対応が追い付かないという事情があるからでは」(大手IT企業SE)

国内ベンダと外資系ベンダの違い

 22日付「日経クロステック」記事によれば、プロジェクトの当初の完了予定は22年12月であったが延期され1年以上の遅れとなり、投資額は当初の予定金額の1.6倍にも膨れ上がっているという。

「統合基幹業務システムの刷新を検討していたグリコが複数のベンダに声をかけて、提案を募って検討した結果デロイトを採用したのか、デロイトのほうから提案したのかは分からないが、グリコがデロイトから『SAPを使えばこんなに業務が改善されて、運営コストもこんなに削減できますよ』という綺麗な提案を受けて、それに乗った結果ドツボにハマったというお決まりのパターンのようにも感じる。

 デロイトがSAPを使ったシステム開発で豊富な実績を持っていることは事実だが、業態や個別企業の業務実態によってはSAPが不向きなケースもあるし、デロイトに食品メーカーの業務実務に詳しいエンジニアがいたのかどうかという問題もある。また、ベンダに発注する企業側にも、システム開発に詳しく社内で要件を整理したりプロジェクトをマネジメントしつつ、ベンダを管理する能力もある人間が必要だが、グリコ側にそうした人間がおらず、プロジェクト体制がしっかり構築されていなかったという可能性も考えられる。

 日本企業では社内に大規模なシステム開発のノウハウを持っていないところも少なくなく、外部のベンダに頼り切りになってしまった結果、開発が失敗に終わるケースも珍しくない。特に統合基幹業務システムの開発・刷新は社内の複数の部署にまたがり業務そのものを変えていくため大規模かつ難易度が高く、プロジェクトが頓挫するケースもある。

 また、なんだかんだと無理も聞いてくれる国内ベンダとは対照的に、外資系コンサルのベンダはドライなので、プロジェクトの途中で突然中止や『ゼロからやりなおし』を提案してきたり、『これはできない』と言ってきたりと、簡単に梯子を外してくることもある。なので発注する側に企業側にも高いスキルが求められる。グリコに関していえば、延期もしてさんざん時間もお金もかけてしまい、もう引っ込みがつかなくなり強引にリリースまで持ってきたはいいものの、いろいろな部分で不備が発覚して火が噴いているという印象。正常化まではかなり時間を要するのではないかと感じる」(大手IT企業SE)

 過去には大規模システムの開発中止をめぐって発注元企業とベンダが訴訟に発展するケースもある。テルモは物流管理システム刷新プロジェクトが中止となり、2014年に委託先ベンダのアクセンチュアを相手取り38億円の損害賠償を求めて提訴。また、12年に基幹系システムの全面刷新を中止した特許庁は、開発委託先の東芝ソリューション(現・東芝デジタルソリューションズ)とアクセンチュアから開発費と利子あわせて約56億円の返納金の支払いを受けることで合意している。

BusinessJournal編集部

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