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小林敦志「自動車大激変!」

「プリウス」人気絶頂時から販売台数が激減…5代目の課題と“トヨタマジック”

文=小林敦志/フリー編集記者
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新型プリウス(「トヨタ自動車公式サイト」より)
新型プリウス(「トヨタ自動車公式サイト」より)

 2022年11月16日、5代目となるトヨタ新型「プリウス」が東京都内でワールドプレミアされた。今さら触れる必要もないが、プリウスは初代が1997年に世界初の量産型ハイブリッド車(HEV)としてデビューしている。

 当時、ある編集部にいた筆者は、長野県で行われたメディア向け試乗会に参加した。同行者が運転席に座り、いざ出発となり、イグニッションをオンにしてもエンジンがかからず、同行者と2人でメーカー担当者に「あの~、エンジンがかからないんですけど(ハイブリッドでもいきなりエンジンがかかると思っていた)」と困りながら質問したのを今も鮮明に覚えている。当時はそれほど、まだまだ“ハイブリッドとはなんぞや”というのが世間の反応であった。

 初代は1997年12月発売のため、同年の年間生産台数は398台に留まったが、フルカウント(1~12月)となる翌年の1998年でも年間生産台数は2万312台(月産平均約1692台)となっていた。

 2003年9月1日にデビューした2代目で、プリウスは一気に世界的認知度を高めた。2004年から2008年とされている“資源バブル”経済により、世界的にガソリン価格が今のように狂乱的に高騰。世界有数の自動車市場で生活にクルマが欠かせないアメリカをはじめ、日本だけでなく世界でも、燃費性能が高いとのことでプリウスが爆発的に売れることとなった。

 2代目のみのフルカウント(暦年<1~12月>締め年間国内生産台数)で見ると、2008年に最高となる29万9744台を生産している。そして、この流れを引き継ぐ形で3代目が2009年5月に日本国内で発売となった。それまでの1.5Lエンジンベースのハイブリッドユニットから、1.8Lエンジンベースのハイブリッドユニットになったこともあり、3代目デビュー以降もしばらく2代目が“プリウスEX”として主に法人ユース向けに併売されていた。

 3代目は国内だけでなく世界市場でも歴代モデルの中で最もヒットしており、国内販売台数では2012暦年締めで最高となる31万7675台(EX含む)を販売している。

4代目の攻めたデザインで人気失速?

 ここまで順調にヒットモデルとして躍進してきたプリウスだが、2015年12月に国内発表された4代目が登場すると、何やら暗雲が垂れ込めてきた。3代目とは異なりエモーショナルなデザインが災いしたようで、3代目から4代目への乗り替えがスムーズに進まないことなどもあり、販売台数が伸び悩んでいくのである。

 トヨタ内でのプリウス以外の車種のほか、トヨタ以外のメーカーでもHEVのラインナップが当たり前のようになっているという、2代目や3代目との販売環境の違いも大きかったようだ。また、このあたりから“ハイブリッド専売車(ハイブリッドユニット搭載車のみ)”の存在意義というものに疑問を持つ風潮も出始めてきた。ほぼプリウスのみがHEVというような黎明期ならば、ハイブリッド専売車というのは有効だが、社会的にHEVの認知が高まっていき、既存のガソリンエンジン車にハイブリッドユニット搭載車がフルモデルチェンジのタイミングや追加などという形でラインナップされるのが当たり前となっていた2015年当時では、もはやその役目を終えたのではないかともいわれるようになっていたのである。

 ただ、3代目の大ヒットで、3代目ユーザーの乗り替え受け皿として4代目は必要だったのかもしれないが、それにしては4代目は3代目に比べると“アク”が強すぎたのである。

 3代目プリウスの頃は、今以上に同クラスガソリンエンジン車に比べると価格が高めで割高感が先行していた。まだまだ珍しい存在でもあったので「たとえば、身分や収入が安定していた学校の校長先生が『最上級グレードでオプション全部乗せにしてもってきて』といって買われるケースなど、所得に余裕があり、先進的なものに興味のある年配のお客様も目立っておりました」と、セールスマンは当時を振り返ってくれた。

 3代目ユーザーすべてに当てはまるわけではないが、年配のユーザーの中には4代目のエモーショナルなキャラクターについていけず、3代目を乗り続けるケースや、他メーカーのガソリン車や輸入車も含むクリーンディーゼル車へ流れるケースも出てきた。そのため、トヨタ系ディーラーではHEVをラインナップする、ほかの新型車がデビューするたびに3代目ユーザーへ積極的にアプローチを行い、とにかくトヨタ車ユーザーを続けてもらうように、今も販売促進活動を進めているとのことである。

 ちなみに、3代目プリウスの中古車販売価格は現在でも高値傾向となっている。つまり、リセールバリューも高めに推移しているといっていいだろう。たとえばネット検索してみると、2009年式で走行12万kmのもので98万円となっている。車格は多少落ちるものの、2009年式で1.8Lエンジンを搭載するトヨタ「カローラ・アクシオ」では走行距離が2.5万kmで46.9万円であった。

 新車の深刻な納期遅延の収束が見えない中、納車前に下取り車の車検有効期限がきたなどの理由で納車前に手放し、“つなぎ”として3代目の中古車を買う人や、リース車両として設定して、新車の納車待ちをしている人に貸与するといったニーズが中古車価格をより高めているのではないかとも聞いている。

 3代目の大ヒットに比べると4代目の販売台数はパッとしない状況が続いていたが、コロナ禍となると、さらにその状況が加速した。グラフにある通り、2020事業年度の年間販売台数は5万9160台、2021事業年度では4万4935台となり、2012暦年締めで31万台以上を販売した時の月販平均台数の約1.8カ月分まで大きく落ち込んでいる。

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 もちろん、コロナ禍という非常事態に加え、2021事業年度締めでは半導体不足などの理由で生産遅延も起きているし、4代目は末期モデルとなっていたので、この数値だけで不人気モデルになってしまったとレッテルを貼るのは乱暴かもしれないが、それでも往時の勢いを失っているのは間違いない。

5代目デビューに「BEV?」の声

 理由はどうあれ、4代目が“低空飛行”を続ける中、5代目がデビューした2022年11月16日が近づくにつれ、ネットメディアなどではスクープ情報が目立つようになっていた。「本当に5代目って出るの?」、そんな疑問の声も多く聞かれた。日本のメーカーや社会はBEVなどZEV(ゼロエミッション車)レベルでの車両電動化で大きな遅れを取っているが、日本を除くG7(先進7カ国)や中国ではBEVが当たり前のようになっており、タイやインドネシアでも日本以上に盛り上がりを見せている。その中でHEV専売車の新型が出るとなれば、「本当に?」と思われても不思議ではないだろう。

 そして、そのような中5代目がデビューした。発表会場にいた人は「5代目がアンベール(初披露)された時に、そのエクステリアを見た一般メディア関係者と思われる人たちから『BEVなの?』との声が漏れていましたよ」と様子を話してくれた。「クラウン」との共通性を感じる顔つきは今後登場するトヨタ車のトレンドになるのかと思いながら、全体を見ると、確かにプリウスといわれなければ新しいBEVかと思ってしまう。

 すでに5代目はアメリカでも公開されており、そのアメリカのメディアの伝えぶりを見ていると、5代目がこのようなキャラクターとなったのは、アメリカのユーザーの声をより大きく反映させたように見える。4代目のデザインに対する不満はアメリカの方が強く、5代目で加速性能などをアピールするのも、「燃費はいいが、運転していてつまらない」という反応がアメリカの消費者ではより目立っていたようである。中国市場でも5代目は現地生産という形でデビュー予定との情報がある。中国では5代目のようなデザインを意識したクルマはそれほど珍しくないのだが、その可能性については“価格設定次第”といったような、意外なほど冷静な報道も目立っていた。

 ただし、“トヨタ七不思議”とも呼んでいいのだが、実際にディーラーに展示や試乗車が置かれるようになると、初公開時の“エグいなあ”とか“やりすぎ”といった印象がなくなり、“トヨタ車”然として街なかの風景に溶け込んでしまうといった声をよく聞く。

 クラウンではCMなどではオレンジに黒のツートンカラーとなっているが、市販レベルではパールホワイトや黒などが人気車となるようで、ディーラーの試乗車もほぼこのあたりのボディカラーとなっている。それもあるのか、「デビュー時に比べると普通のクルマに見える」という人が筆者のまわりでも多い。さらに時が流れ、納期遅延が深刻とは言いながら街なかにクラウンを多く見かけるようになれば、違和感を覚える人はさらに少なくなるだろう。国内販売シェアで圧倒的トップを誇るトヨタのクルマは街なかで見かける機会も多いので、見る側が“慣れる”のも早いのではないかとする人もおり、それを“トヨタマジック”と呼ぶ人もいる。

 本稿執筆時点でのクラウンの納期目安は2023年初秋以降となっている。クラウンをオーダーする時には「珍しくて格好いいし、街なかで目立ちそう」と思っていても、納車を待っている間に街でパラパラ見かけるようになり、当初の思いが薄れ、キャンセル希望者が目立ってこないかと、筆者は余計なおせっかいのような不安を抱いている。5代目プリウスもすでに長期の納車待ちや、早々に新規受注停止になるのではないかといわれているので、筆者としてはクラウン同様のおせっかいな不安を抱いている。

プリウスは使命を終えたのか?

 正式発売は2023年に入ってすぐとも言われており、本稿執筆時点ではまだまだ実態はわからないが、報道ではトヨタ社内でも“プリウスはその使命を終えた”というような意見もあったようだ。報道では豊田章男社長は「次期型はタクシー専用車でいいのではないか」といったようなことを開発陣に伝えたとのこと。時代背景は異なるものの、3代目が大ヒットしたのは、やはりタクシーなどで使っても遜色ないような、実用性を重視した使い勝手の良さ(耐久性は別)もあるのではないかと筆者も考える。

 今でもアメリカ・カリフォルニア州・ロサンゼルスあたりでは、3代目プリウスがタクシーとして活躍している。アメリカでもプリウスを新車としてタクシー車両に使うならば、4代目登場以降は日本でのプリウスα(現地名プリウスV/2021年3月に生産終了)に移行していた(ニューヨーク市内ではカムリハイブリッドなど別のトヨタのHEVが目立つ)。

 現状での日本国内での(香港でも“コンフォートハイブリッド”として走っている)タクシー専用車といえば、LPガスハイブリッドユニットを搭載するトヨタ「JPNタクシー」のみとなっている。背の高いMPVスタイルでスライドドアを採用するJPNタクシーもだいぶ見慣れてきたが、背の低いヒンジタイプのリアドアを採用するセダン型タクシーにこだわる事業者もまだ多い。

 トランクを持たせるかどうかは別としても、世界的に認知度の高いプリウスという車名のついたタクシーが空港にずらっと並べば、訪日したインバウンド観光客の多くも「日本に来たんだなあ」と実感するかもしれない。筆者はドイツの空港に降り立つとメルセデスベンツEクラスのタクシーがズラリと並んでいるのを見て、さらにそれに乗った時のなんともいえない気分に近いものを、訪日客に感じてもらえるかもしれない。

 そもそも、タクシーに自動ドアがなく自分で開け閉めする日本以外の国では、スライドドアで特に自動ドアのタクシーは馴染まないとの話もあるので、JPNタクシーの後継ではなく、5代目はJPNタクシーの格上でハイヤーにも使えるようなものにしてもよかったかもしれない。もちろん、法人ユースやレンタカーなど、とにかくビジネスユースに特化したプリウスにするというのは、方向性として間違っていないのは確かである。

 そして、その豊田社長のメッセージに対し、従来通りの個人ユースをメインとしたプリウスとして残すために、開発エンジニアが出した答えが5代目となっているようだ。

 内外装のデザインについては個々の嗜好性もあるのであえて触れないし、前述したように“トヨタマジック”で、時間の経過とともに早期に違和感はなくなってしまうだろう。

5代目プリウスの課題

 課題としては、タクシーも含め法人ユースをまったく除外してしまったような5代目のキャラクターである。3代目に比べアクの強くなった4代目だが、それでもデビュー時はまだJPNタクシーもなかったので、タクシー車両として導入する事業者もあったし、営業用に導入する企業もあった。結果がどうなろうと、5代目開発にあたっては法人ユースを意識しなかった(ほとんど意識しない?)ことが伝わってくる(そうはいってもトヨタレンタリースには導入されることになる)。

 2020年5月からトヨタ系ディーラーすべての店舗で全車種が購入できるようになったが、カローラ店以外でも4代目プリウスに抵抗を示すお客向けにカローラセダンのハイブリッドが勧められるようになったことは、現場としてはかなりうれしかったようだ。つまり、5代目があそこまでエモーショナルにキャラクターをふることができたのも、カローラセダンやステーションワゴンのツーリングでのHEVがあるので、それで十分実用性重視のニーズに対するフォローができる環境が整備されていたこともあったと考える。

 キャラクターを考えると、販売現場でも従来通りに社用車やタクシーとしては売りにくくなるだろう。そうなると気になるのが販売動向となる。HEVだけでなくBEVなどでも、それなりにプリウス以外の選択肢が増えている。しかも、現状ではセダンスタイルよりもSUVの人気が圧倒的に高い。5代目がどうのという前に、すでに不利な販売環境での勝負となっているのである。今までは所得に余裕のある人もプリウスユーザーとして多かったので、価格設定次第(より高くなる)では輸入車(主にBEV)に流れる従来モデルのユーザーも出てくるだろう。3代目でもより趣向性の高いスバルやマツダ車へ流れたお客が目立っていた。

 事情は定かではないが、東京都内の時間貸し駐車場でカーシェアリング車を置くスペースの多い場所に「マツダ3ファストバック」が多数並んでいる光景を目にすることがある。パッと見た印象が個人的には5代目プリウスと似ているので、5代目プリウスもこのように並んだ時、開発陣の高い志が成就したといえるのかなあなどと素朴な疑問を抱いた。

 スバル車は水平対向エンジンを搭載し(OEM<相手先ブランド供給>車除く)、過去には“スバリスト”と呼ばれる熱狂的なファンばかりが乗っている印象が強く、特に女性の中には“ドン引き”傾向を示す人も目立っていた。しかし、近年ではアイサイト(スバルが開発した運転支援システム)が高い評価を受け、かつてのマニアックブランドイメージは影を潜めるようになってきた。

 また、良好な視界を確保するためにグラスエリア(ガラスのスペース)を一定割合以上持たせて車体デザインを行うなど、ボルボ並みの安全にこだわって設計を心がけているとも聞いている。当然エモーショナルな見た目の実現は難しくなるが、それでもスバルブランドは世界的にも人気は高まっている。海外でも愛好家が好んで乗っていたが、今ではアイサイトなど安全運転対策への取り組みが評価され、世界的によく売れている。

 よりコアなユーザーを惹きつけていたブランドが、より多くの人にアピールできる部分を強化したクルマ造りへ路線を変えた。その一方、世界的な量産メーカーがエモーショナルなキャラクターをさらに強め、個性を強調するモデルチェンジを行い、ブランドイメージの再浮上を図ろうとしていることは、実に興味深い。

 韓国の現代自動車傘下の起亜(キア)自動車では、2016年にハイブリッド専売車として「ニロ」というコンパクト5ドアモデルをリリースした。その後2017年にPHEV(プラグインハイブリッド車)を、そして2018年にはBEVを追加している。2022年に2代目ニロを発表するが、2代目ではHEVとBEVのみとなった。また、2022年にはPPV(パーパス・ビルト・ビークル/タクシーやカーシェアリング向け専用車)として「ニロ・プラス」を発表している。

 このニロの流れを見ると、豊田社長の“タクシー専用車”というのは世界のトレンドを見据えたものであると考えられるし、5代目プリウスでは商品力アップのためにも、販売はHEVメインでも、フラッグシップ的存在としてBEVをラインナップすべきだったと個人的には考えている。

 国内でも日産「サクラ」などの登場により、BEVへの興味は高まっている。メーカーとしてBEVが最善の選択肢ではないと考えていても、“客寄せパンダ”効果は抜群。興味を示したとしても、今の日本ではBEVを乗るにはまだまだ敷居が高いので、PHEVやHEVに落ち着くはずである。売り切りに心配があるのなら、BEVだけKINTO(トヨタの個人向けカーリース)のみでの扱いにすればいいのではないだろうか。

 BEVをどうするかは別としても、開発サイドと販売サイドのコミュニケーションが少し足りなかったのかなあなどと、5代目プリウスを見ていて感じてしまった。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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