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東大卒メガバンク行員がMARCH卒に営業成績で敵わず「うつ病」に…高学歴の不幸

文=A4studio
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東京大学(「gettyimages」より)

 11月、とあるTwitterユーザーが呟いた「東大卒メガバンク行員の悲痛な叫びに涙が止まらない」という投稿が多くの「いいね」を集め話題を呼んだ。投稿にはあるニュースサイトのスクリーンショットが貼られていた。その内容はメガバンクに就職したという東京大学出身の男性が、その能力を生かせずに苦悩しているというもの。写真の一部には「社内で成績を評価されるのがキツかった。口のうまさと体力にまかせてガンガン数字をとってくるMARCH出身にはかなわない」という男性の悲痛な言葉が載っており、多くの反応が寄せられたのだ。

 この記事は、東大卒のライター、池田渓氏の2020年の著書『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)で紹介されたエピソードが元ネタとなっている。そこで今回は池田氏に、東大卒社会人が会社や組織で陥りがちな苦悩について聞いた。

メガバンク勤務の東大卒が味わった劣等感

 SNSで触れられた体験談は池田氏の友人の話だというが、なぜその友人はメガバンクに入社し苦悩したのか。

「彼は中高一貫の私立校から東大文科一類に入り、法学部を卒業した後はメガバンクに就職しました。つまり対外的に見れば彼はエリートでした。そういった経歴からか、本人は就職するまで『最前線で使い潰されない後方任務につくんだ』とぼんやりイメージし、職場にも『自分と同じような学歴で話の合う人がたくさんいるはず』と思っていたそうです。ですが、蓋を開けてみると配属部署の同僚の大半はMARCH(M:明治大学、A:青山学院大学、R:立教大学、C:中央大学、H:法政大学)などの他大卒。しかも、体育会系だったそうです。

 割り振られた仕事は、就職前に思っていたものとは違い、最前線の泥臭いリテール営業(中小企業や個人向けの営業)ばかり。というのも、中小企業が銀行に融資を頼むというような時代が終わり、バブル崩壊を経て、銀行が中小企業に『どうか融資させてください!』 と頼み込む時代に移り変わった頃だったからです。これはコロナ禍前の話で、今は感染拡大防止の簡単から訪問営業はやっていないそうですが。ただ当時はまだコロナはなかったため、営業部に配属されれば、東大卒だろうとMARCH卒だろうと関係なく、最前線に放り込まれていたということです」(池田氏)

 こうした体力とコミュニケーションが求められる環境下では、東大生はスキルを生かしづらいという。

「過酷なリテール営業で求められるのは、反射神経を活かしたコミュニケーションスキルです。こうしたスキルは、小・中・高・大と勉強漬けであまり人と関わってこなかった多くの東大卒より、勉強も遊びもバランス良くこなし対人スキルを強化してきたMARCH卒のほうがうまくこなせる傾向にあります。

 そして、東大卒の社会人というのは、東大を受験するまでに義務教育で9年間、高校で3年間、『明確な答えがあるペーパーテスト』を解き続け、勉学に励んできた存在です。東大の受験時も出題される問題のほとんどに『教科書的な解法』があるので、東大生の大半はそれを頭に叩き込んで合格を勝ち取ってきました。

 そのため東大卒の社会人は『すでにルールがある問題を最適化して処理すること』は得意ですが、逆にルールのない環境で道を開拓していく作業は苦手な印象があります。行動力やコミュ力もある一握りの天才型東大生であればいざ知らず、こうした理由もあって多くの東大卒がMARCH卒でもコミュ力のある人間に営業など特定の仕事では敵わないのです」(同)

東大卒は大別すると3タイプに分けられる

 池田氏によると「東大卒」を大きく3タイプに大別できるという。

「まず、教科書的な解法を頭に叩き込んで東大に受かった秀才型。次は、行動力と圧倒的な頭脳を持った一握りの天才型。そして、試験問題のパターンを分析して、暗記で対応できる問題のみを解いたことでギリギリ合格した要領型。この3タイプに分けられます。そして、社会に出てから苦境に陥りがちなのは秀才型と要領型です。

 彼らにとって東大卒という肩書きは『呪い』となることがあります。周囲からは『東大卒なんだからできるでしょ』と見られてしまい、自分は自分で『東大に受かったのだからなんとかできるはず』と思い込んでいて、世間と自分の双方が東大卒というレッテル貼りをしてくるわけです。先ほどお話ししたメガバンク勤務の友人は、こうした理由でストレスが積もり、最終的に産業医からうつ病の診断を下されました。彼が一番苦しんでいた時期には、私のもとへ夜中の3時頃に『死にたい』とLINEが届き、私が『死んだらいかんよ』と諭していたものです」(同)

 理想と現実のギャップに悩むのは人の常だが、天下の東大生でもそれは変わらず、むしろその東大卒という肩書が重くのしかかっているのかもしれない。

東大卒社会人への理不尽な僻みが彼らを追い詰める

 強力なレッテル貼りの背景には、世間に根強くある「東大卒へのルサンチマン」も大きいと池田氏。ルサンチマンとは平たくいうと、憤り・怨恨・憎悪・非難・嫉妬などの感情のことだ。

「地方公務員になった東大卒の知り合いは、その彼が来るまでは組織内の学歴ヒエラルキーでトップだった先輩たちから、出勤初日に『東大卒なら俺たちが教えなくてもわかるだろう』と、指導を放棄されるといういじめを受けてしまったそうです。上司の女性からも『あんたの相手なんてやってられん』と明確に敵意を向けられ、その後もことあるごとに、東大卒だから、という理由でろくな説明をしてくれない場面に遭遇してしまいます。そんな状況下ではスキルは発揮できませんし、スキルが発揮できないと東大卒も大したことないなと、さらに揶揄が加速することもあったようです。

 世の中には一定数、『自分より頭と学歴がいい人』に強烈な僻みや劣等感を感じている人間は確実に存在します。彼らにとって、職場環境で能力を生かせずに苦しんでいる東大卒社会人というのは、ルサンチマンを晴らす格好のターゲットなわけです」(同)

 こうしたルサンチマン的な感情は、メディア側にもあると指摘する。

「テレビ番組では東大生を扱った番組が非常に人気を集めていますよね。彼らが颯爽とクイズを解いていく様を褒めると同時に、『頭はいいけど社会性は低い』という視点で芸人やタレントが東大生の挙動不審さをいじって笑う場面も多く見受けられました。こうした番組は、東大生の弱い部分にマウントを取って溜飲を下げる、ルサンチマンに根ざしたものであることは明白でしょう」(同)

 東大卒社会人がトラブルなく会社や組織で働いていける時代は訪れるのだろうか。

「受験に際して『東大に入らずんば人にあらず』と強烈な学歴意識を刷り込まれて育ってしまった一部の東大卒のように、その性格が原因で社会と軋轢を生んでしまった事例も確かにあります。しかし多くの場合は、その人個人を見るのではなく東大卒という肩書きだけで判断することによって軋轢が起こっています。世間や周囲の人々がこれをやめるだけでかなり改善されるとは思うのですが、それが容易ではないから根深い問題になっているのでしょう。そもそも、学歴の高低という点において判断基準となるのは『学位』です。また、高等教育機関のランクという点においても、東大は世界的にはたいした順位にはありません」(同)

――東大卒というレッテルについては、その東大卒の個人の問題ではないということはいうまでもないが、かといってルサンチマンを抱く周囲の人々が諸悪の根源だと斬り捨てて解決に至るほど、簡単な問題ではないのだろう。世の中の人々から東大生へのルサンチマンがなくなれば解決するのかもしれないが、学歴偏重の社会である以上、相当難しい面もあるだろう。この問題を根本から解決するためには、学歴至上主義的な社会自体を改革しないといけないのではないだろうか。

(文=A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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Twitter:@a4studio_tokyo

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