ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 北海道新幹線、総事業費増額の衝撃
NEW

大赤字の北海道新幹線、総事業費6400億円増額の衝撃…JR北、既存路線も赤字

文=小林英介
【この記事のキーワード】, ,
大赤字の北海道新幹線、総事業費6400億円増額の衝撃…JR北、既存路線も赤字の画像1
北海道新幹線でも使用しているE5系(昨年5月、新函館北斗駅にて本稿記者撮影)

 衝撃の金額だ。国土交通省の「北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する有識者会議」は昨年12月7日、「北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の整備に関する報告書」をとりまとめ、公表した。それによると、北海道新幹線の総事業費は1兆6700億円と見込まれていたが、自然条件への対応や経済情勢等の影響により、事業費が約6450億円も増加する見込みであると報告した。

 報告書によれば、事業費が増加する影響として、(1)予期せぬ自然条件への対応、(2)着工後に生じた関係法令改正等への対応、(3)着工後の関係者との協議等への対応、(4)着工後の経済情勢の変化への対応の4点を挙げた。このうち(1)ではトンネル掘削で発生する土の受入地整備に関する費用が当初よりも増加したことなどにより約2700億円、(2)では働き方改革による労務費等の増加や、東日本大震災の影響による鉄道構造物の設計標準改訂等をうけ、耐震性のより高い構造物とする必要があること等により、1340億円の費用増が発生するという。

(3)では地域住民との協議により立坑部の騒音対策を要請され、防音ハウスを追加したこと等で670億円、(4)では資材価格等の上昇や事業認可当時は5%だった消費税率が現在は10%と変化していること等への対応として2050億円を追加する必要があるとしている。 

 国土交通省が昨年12月20日に発表した増額分の一部2922億円の財源措置によると、増額分の約66%となる1926億円はJRの貸付料で賄い、国は23%の664億円を、地元自治体は約11%の332億円を負担するとした。残りの3523億円は今後の工事状況により判断。財源構成等は今後示すという。

当初から48億円赤字の想定 収益の見込みない北海道新幹線

 現状、北海道新幹線の収支状況は「厳しい」の一言に尽きる。JR北海道が発表している北海道新幹線の収支状況を見ていくと、当初よりも営業収益の減少が続いている。

 新青森―新函館北斗間が開業した収支が反映されている16年度こそ「開業効果」もあってか営業収益は116億5300万円となった。しかし、翌年には96億7900万円へと20億円ほど減少し、18年度にも93億3400万円とさらに3億円ほど営業収益を減らしていた。そこに新型コロナウイルス感染症の拡大が追い打ちをかけ、20年には40億8000万円と18年度の半分以下に減少。新幹線以外の線区でも営業収益が大幅に減少していたが、新幹線の収益は21年度には45億5300万円と少し持ち直している。

 JR北海道が15年に公開した北海道新幹線の16~18年度の収支想定の資料によると、北海道新幹線は年当たり約111億円の収入に対して約160億円の支出となっており、約48億円の赤字が発生すると予想。赤字部分は「新幹線開業に伴う並行在来線分離受益や関連線区受益を加え、収支均衡が図られる計画」と記載があったが、あくまでも「収支状況は大丈夫」と利用者らを安心させるための文言だろうと予想する。

 本稿記者も北海道新幹線に乗車する機会があった。所用のため昨年のゴールデンウィークに東京へと向かったのだが、新函館北斗から東京方面へと向かう座席は混雑していた。ところが東京から北海道へと帰ってくる際、新青森を過ぎてからは乗客がほとんどいなくなり、本稿記者のみが車両に乗車している状況となった。いわゆる「貸し切り」状態であり、他の車両の乗客数もまばらだったため、空気輸送と化しており、収益が年々下がっていることを身をもって実感した。

大赤字の北海道新幹線、総事業費6400億円増額の衝撃…JR北、既存路線も赤字の画像2
新青森を過ぎ、本稿記者以外誰もいない車両(昨年5月、本稿記者撮影)

既存路線の維持も難航、赤字続きの路線を放置したまま新幹線を通すのか?

 JR北海道では既存路線の維持も難しくなってきている。22年6月にJR北が公表した21年度の道内線区別収支と利用状況では、100円の収入を得るためにどれだけの費用が必要かを表す「営業係数」(管理費を除く)が根室線(富良野~新得間)は2512円、留萌線(深川~留萌間)は1903円、次いで根室線(滝川~富良野間)が1731円、室蘭線(沼ノ端~岩見沢間)で1135円となっており、赤字を垂れ流しながらも運転を続けている現状がある。

 このうち留萌線は大雪のため今年1月28日から運転を取り止める事態となっており、2月6日には運転を再開したが、一部からは「路線を見捨てようとしている」「このまま留萌線の廃止まで運休し続けるのでは」などと厳しい言葉がJR北海道に投げかけられ、同社に対する風当たりが強いことを感じさせた。留萌本線の石狩沼田―留萌間は今年4月1日に廃止。残る深川―石狩沼田間は26年に廃止される見通しだ。

大赤字の北海道新幹線、総事業費6400億円増額の衝撃…JR北、既存路線も赤字の画像3
留萌本線の終端部から線路を眺める(2016年8月、廃止前の増毛駅にて本稿記者撮影)

 このように道内の路線でさえ赤字続きであり、正常な運行もできていない。ただ運行については天候の影響もあるため一概には指摘できないものの、赤字続きの路線を放置したまま収益も見込めない新幹線を通す意味はあるのだろうかと疑問を呈したい。道内路線の収益状況は全体として厳しいといわざるを得ない。どうしてこのような状況になっているのか、そして、どうして北海道新幹線では「収益が出ないのか」という懸念について、もう一度最初から考え直す必要があるのではないか。今後の動きに注目したい。

(文=小林英介)

小林英介/ライター

小林英介/ライター

ライター。1996年北海道滝川市生まれ。業界紙記者として働きつつ、様々な媒体でも活動している。

大赤字の北海道新幹線、総事業費6400億円増額の衝撃…JR北、既存路線も赤字のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!