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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

【検証】なぜターミナル駅の札幌駅は豪雪で完全麻痺?JR北海道は最善策を採ったのか?

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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冬の札幌駅に発着するJR北海道の普通列車。札幌駅のホーム部分は除雪の手間が省けるよう、線路も含めて屋根で覆われている。しかし、ホーム前後の駅構内の線路には屋根は設けられなかったので、2022年2月の大雪では手作業で雪を取り除く必要に迫られた。2014年3月7日 筆者撮影

 北海道札幌市では2022年2月5日の15時ごろから降雪に見舞われ、翌6日までの24時間の降雪量は60cmと記録的な大雪に見舞われた。札幌市内の積雪が最大で133cmとなった2月6日、JR北海道は午前9時以降に札幌駅を発着となる列車661本の運転を終日にわたって見合わせる。大雪は2月6日の夕方になって小康状態となり、翌7日には晴れ間も見えたものの、線路の除雪に手間取り、結局7日も札幌駅を発着する728本の列車すべてが運休となった。

 札幌駅を発着する列車は2月8日も朝から1本も運転できない状態が続く。それでも除雪作業の結果、まずは函館線小樽駅方面の列車が19時ごろから運転を再開した。千歳線の除雪作業は遅れ、新千歳空港駅方面の列車は2月8日午前6時30分ごろに、同じく苫小牧駅方面の列車も午前8時30分ごろにそれぞれようやく動き出す。

 なお、札幌駅を発着する列車のうち、函館線岩見沢駅方面の列車は2月9日18時ごろに運転を再開した。残る札沼線(学園都市線)方面もあいの里公園駅までは2月10日18時30分ごろ、あいの里公園駅と北海道医療大学駅との間は2月11日の夕刻以降、特急列車は一部が2月11日にそれぞれ動き出している。

 札幌市内がこれほどまでの大雪に見舞われたのは、今から25年前の1996(平成8)年1月以来のことだ。特に1月9日にはJR北海道全線で合わせて536本の列車が運休となり、同社が1987(昭和62)年4月1日に発足後、雪の影響で最も多くの本数の列車が運転できなかった一日となってしまった。今回の大雪は四半世紀前をさらに上回る本数の列車の運転不能もたらし、JR北海道への風当たりは大変強い。ほぼ丸2日間札幌駅から1本の列車も発着しなかった例は過去にないと言われている。

 今回の事態を踏まえ、「国鉄時代はどんなに大雪になっても列車は運転されていた」と鉄道に詳しい人まで発言しているが、そうでもない。1963(昭和38)年1月に福井、石川、富山、新潟の各県を襲った大雪によって北陸本線や上越線、信越本線を中心とする各線では1月23日から列車が長期にわたって全面的に運休となった。どうにか全線で列車が動かせるようになったのは13日後の2月5日、長距離を結ぶ特急列車を運転できるようになったのは26日後の2月18日と、鉄道の機能を完全に回復するまで1カ月近くを要している。この大雪で運休となった列車の本数は合わせて約1万9500本で、除雪作業に動員された作業者の人数は、国鉄職員はもちろん、自衛隊員、地元の消防団員など延べ66万人と空前の人数だ。現地では除雪車が足りなくなり、ロータリー式といって前方からかき集めた雪を羽根車で投げて除雪する雪かき車が北海道から送られたほどであった。

「サンパチ豪雪」との共通点

 俗に「サンパチ豪雪」と呼ばれる1963年1月から2月にかけての大雪では、新潟県長岡市にある今のJR東日本信越線の塚山駅で495cmの最大積雪を観測している。実はサンパチ豪雪がここまで列車の運転を止めたのは、単に積雪が多かったからだけではない。次に挙げる2点が大きな影響を及ぼした。

 一つは里雪型といって市街地に降雪が多かった点である。この結果、人力での作業が避けられない駅構内での除雪が増えた。駅構内での除雪作業がなぜ機械化できないかは後ほど説明しよう。さらには、線路から取り除いた雪を空き地に捨てようにも、線路際まで人家が密集していた結果郊外まで捨てに行く作業に忙殺されていたからだ。

 そして、もう一つは雪が止んだ後にこの地域では異例ともいえる寒波が襲い、日中の最高気温が多くの日で氷点下となった点も挙げておかなくてはならない。湿気を多く含んだ雪が凍り、その上に再び雪が積もった結果、除雪作業の困難さは著しく増した。サンパチ豪雪に襲われた地域では、雪に慣れているはずの人たちでさえ普段とは異なる雪の積もり方に、除雪車の取り扱いを誤って脱線させることさえあったという。

 実をいうと、いま挙げた2点はそのまま今回札幌市とその周辺とを襲った大雪にも当てはまる。まずは里雪型という特徴から見ていくと、おかげで札幌駅をはじめとして各駅では人海戦術で除雪作業が行われる羽目となった。なぜならば、線路の雪を押しながら左右どちらかまたは左右双方に排雪するラッセル式雪かき車、そして先ほどのロータリー式雪かき車とて、屋根のあるホーム、そして信号機や転てつ器といった機器が近くに多数設置され、線路が分かれたり合流する部分となるポイントでは除雪作業はできない。つまり、ホームの数が多く、線路が入り組んで敷かれた札幌駅のようなターミナルほど除雪に苦労させられるのである。

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札幌市北区にある札沼線(学園都市線)篠路駅に待機するJR北海道の排雪モータカー。ラッセル式除雪車として使用することができ、JR北海道は在来線用に47台、新幹線用に4台配備している。2014年3月7日 筆者撮影

地吹雪という難敵

 サンパチ豪雪比べて今回は積雪が少ないのではないかとの批判もごもっともだ。しかし、2月6日の札幌市とその周辺では、降雪そのものよりもさらに深刻な被害が生じる地吹雪が断続的に起きたと見られる点も挙げておかなくてはならない。

 地吹雪とは、いったん積もった雪が風で上空に吹き上げられ、水平方向に運ばれる現象を指す。一般に雪面から1mの高さの風速が毎秒4~5m、気温が氷点下4~5度以下になると起きやすいといわれる。降雪がなくても地面に雪が積もっていれば発生するのが特徴で、風によって運ばれる雪の量は風速の3乗に比例するという。

 2月6日の札幌市の気象データを見ると、14時から17時までの3時間、それから19時から21時までの2時間で地吹雪が起きやすい条件を満たしていた。気象データは測候所で記録された数値であるから、場所によっては他の時間帯でも頻発したかもしれない。

 いずれにせよ、地吹雪が恐ろしいのは、風で飛ばされた雪が障害物に当たることでできてしまう吹きだまりである。JR北海道が発表した写真を見ると、函館線厚別駅や苗穂駅、千歳線北広島駅などで待避していた列車の周りに吹きだまりができており、特に北広島駅のものは高さが2m近くあり、列車が雪に埋もれてしまったようだ。

 吹きだまりを防ぐ最も有効な対策は、線路の周囲に吹雪防止林と呼ばれる防雪林を植樹することである。JR北海道も宗谷線や石北線などに広大な吹雪防雪林を保有しているが、札幌市内のような大都市では線路周辺に敷地があるほうがまれでほとんど存在しない。北海道に限らず、里雪が被害を大きくしてしまう理由はここにもあるのだと言ってよい。

 吹きだまりの解消には除雪車が効果的だ。駅と駅との間に敷かれた線路の除雪はポイントがないから、除雪車でまかなえる。ところが駅に近づいて除雪車が進入しようにも、待避している列車に線路を空けてもらわないと入っていけない。待避中の列車を動かすためには吹きだまりを人力で取り除く必要があるのだ。JR北海道によると、列車が待避していた駅は17駅、待避している列車の本数は29本もあり、駅構内の除雪は想像するだけでも気の遠くなるような作業となる。

 2月6日は午前9時からではなく、朝の一番列車から運転を見合わせとし、駅で待避する列車が存在しないようにしていれば除雪作業ははかどったであろう。だが、これは結果を知っているから言えるのであって、JR北海道を責めるのは不公平だ。

シェルターとスプリンクラー

 今回の札幌市とその周辺の大雪でも平常通りの運転を続けた鉄道が存在する。札幌市交通局の地下鉄だ。「地下トンネルを走るから当たり前」という声も聞かれるが、よく知られているように南北線の平岸駅と真駒内駅との間の4.7kmは地上に築かれた高架橋を行く。地上区間の線路はアルミニウムでつくられた半円状のシェルターによって覆われており、線路上に雪は積もらないのだ。

 JR北海道の線路もシェルターで覆ってしまえばよいのだが、大変難しい。南北線のシェルターは2本の線路を覆うだけでも幅9m、高さ6.8mと巨大で、線路周辺の人家に対して日照を遮ったり、電波障害といった環境問題を引き起こしてしまうのだ。それから、シェルターの屋根に積もった雪が周囲の家屋や道路に落ちるので、影響のない場所に雪を下ろす除雪作業自体は欠かせない。札幌市交通局によると、シェルター上に積もった雪は人力で下ろしているという。

 国内にはもう一つ、今回の札幌市とその周辺の大雪でもびくともしないと思われる鉄道が存在する。新幹線のうち、東北新幹線の七戸十和田駅と新青森駅との間、上越新幹線の上毛高原駅と新潟駅との間、北陸新幹線の長野駅と糸魚川駅との間、北海道新幹線の新青森駅付近だ。

 いま挙げた場所はいずれも豪雪地帯で、10年に1回程度出現すると想定された積雪は、最も少ない東北新幹線の七戸十和田-新青森駅間でも177cm、最も多い上越新幹線上毛高原-新潟間に至っては470cmにも達する。しかし、これらの新幹線では真冬でも線路上にほとんど雪は積もっていない。それもそのはずで、線路周囲に設けられた検知装置が降雪を観測すると自動的にスプリンクラーが作動して線路上の雪を洗い流してくれるからだ。

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スプリンクラーは2m以上の積雪でも列車の定時運行を可能とする。ただし、大量の水に耐えるため、バラスト(砂利や砕石)の軌道ではなくコンクリート製の軌道が必須となる。北海道新幹線新青森-奥津軽いまべつ間 2014年6月30日 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の職員立ち会いのもと筆者撮影

 東北新幹線で用いられているスプリンクラーは1平方当たり毎分1リットルの水をまく。1時間当たりの雨量に換算すると60mmで、気象庁によると滝のように降る非常に激しい雨に相当するという。

 スプリンクラーは駅構内でも作動させられるので、JR北海道にはいますぐにもでも設置してほしいところだ。けれども、札幌市でスプリンクラーを作動させるには課題が多い。最も寒い1月の平均気温が氷点下3.2度となるため、スプリンクラー用の水が凍結する恐れがあるからだ。

 雪を洗い流すためのスプリンクラーの水は、新幹線の沿線に設けられた消雪基地と呼ばれる拠点で川から汲み上げられ、水資源の節約のために繰り返し用いられる。消雪基地は送水機能のほか、スプリンクラーの水が凍結しないよう、加熱機を用いて水温を1度単位できめ細かく管理する役割も果たす。水温の管理で最も大切なのは基地からスプリンクラーへの送水時ではない。スプリンクラーでまかれた後、雪とともに基地まで戻される返送時なのだ。具体的にはこのときの水温が2度ならばスプリンクラーの水は凍結しないし、しかも送水時に温めすぎるといった無駄も最小限に抑えられて都合がよい。

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東北新幹線七戸十和田-新青森間の金浜消雪基地では約2.7kmの区間に設置されたスプリンクラーに水を供給できる。写真はスプリンクラーに供給する水を温めるための加熱機で、燃料は灯油だ。2008年11月17日 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の職員立ち会いのもと筆者撮影

 スプリンクラーの北限となる青森市の1月の平均気温は氷点下0.9度で、東北新幹線の開業に先立って実施されたテストでは平均気温は氷点下3.5度であった。この条件で消雪基地に2度の水が戻ってくるためには送水時に約14度の水を供給すればよいという結論が得られている。

 送水時の水温をさらに上げて返送時の水温を2度に調節すれば、札幌市でもスプリンクラーを設置できる可能性はある。けれども、消雪基地から送水する水温を果たして何度に設定すればよいのかは不明だ。仮に平均気温が氷点下10度であったとすると、送水時の水の温度を40度まで温めれば水が凍ることなく雪は取り除かれるかもしれない。理屈では実現可能でもやはりスプリンクラー用の送水管をヒーターで温める工夫も必要となりそうだ。以上を考慮すると、果たしてどのくらいのエネルギーとコストとが消費されるのだろうか。やはり、今回のJR北海道の採った策が精一杯なのかもしれない。

(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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