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枝久保達也「考える鉄道」

JR北海道とJR四国、コロナで事業継続の危機の足音…東海、リニア計画見直しも現実味

文=枝久保達也/鉄道ライター
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キハ283系 スーパー北斗(「Wikipedia」より/Penpen)

 JR旅客6社の2020年度3月期決算が出そろった。昨年度は台風19号(令和元年東日本台風)の風水害による被害を除けば、ゴールデンウィーク10連休、訪日外国人旅客の引き続きの増加などの影響もあり、2019年中の業績は好調に推移していた。

 しかし、2020年に入り新型コロナウイルスの感染拡大により、2月中旬から3月にかけて鉄道需要が急激に落ち込んだことを受け、各社とも大幅な減益となった。

 各社の数字をみてみよう。まずはJR東日本だ。同社のグループ会社を含む連結売上高(以下同)は前年同期比1.8%減の2兆9466億円と微減ながら、連結経常利益(以下同)は同23.4%減の3395億円と大幅な減益となった。

 JR東日本は2019年10月12日に上陸した台風19号により、北陸新幹線長野新幹線車両センターが浸水被害を受け、新幹線車両10編成が水没。約2週間、一部区間で運転を運休し、その後も暫定ダイヤでの運行が続いた。また水没した10編成すべてが廃車となる甚大な被害を被った。

 だが、減収減益の最大の要因は、やはり新型コロナウイルスである。台風19号の被害を反映した第3四半期時点の連結業績予想は売上高3兆410億円、経常利益4180億円。最終的な業績と比較すると、第4四半期だけで、売上高で約1000億円、経常利益で約800億円の影響があったことになる。

 しかし影響は今年度に入って、ますます拡大している。JR東日本の深澤祐二社長は5月12日の定例社長会見で、4月は鉄道事業だけで1000億円減収する見通しと語り、さらに鉄道利用者が元に戻るまでには時間がかかるとの見解を示している。

JR東海、JR西日本、JR九州

 続いてJR東海だ。売上高は前年比1.8%減の1兆8446億円、経常利益は同9.2%減の5743億円だった。同社は東海道新幹線の輸送人員増加を背景に、第3四半期まで売上高、経常利益とも前年同期比を上回る好調で推移していたが、こちらも新型コロナウイルスの影響を受けて、最終的には減収減益に終わった。

 JR東海は今年3月14日のダイヤ改正で、車両を「N700A」タイプに統一し、「のぞみ」を1時間あたり最大12本運転可能な新ダイヤを導入した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受け、4月の東海道新幹線の輸送実績は前年同月比9割近い落ち込みとなっており、列車本数を削減。いまだに真価を発揮できずにいる。

 JR各社は新幹線、特急列車を中心に運行本数の削減を進めているが、JR東海の金子慎社長は運行本数を削減しても費用の削減につながるのは年間1%程度と説明している。これは人件費や修繕費、減価償却費など固定費の割合が高い鉄道事業に共通した特徴である。減収分が減益額に直結するため、需要減による業績の落ち込みをカバーすることができないのだ。

 また、本格化しつつあるリニア中央新幹線の建設工事も感染拡大を受けて、約半数の工区で工事を中断している。建設費用は国からの借り入れで概ねまかなえているものの、事態が長期化し、需要回復が遅れれば、リニア計画に影響が波及するのは必至である。

 JR西日本も第3四半期までは運輸収入が好調で、12月末時点の売上高は前年同期比2.0%増、経常利益は同7.3%増だったが、新型コロナウイルスの影響で業績が一気に落ち込み、最終的には売上高は同1.4%減の1兆5082億円、経常利益は同19.1%減の1484億円の減収減益となった。

 JR西日本の長谷川一明社長は、「経営的には会社発足以来の最大の危機であると認識している」として、5月16日から、一部の社員を一時的に休業させる「一時帰休」を実施し、1日当たり1400人を日替わりで休業させると発表した。ほかにも、JR九州が1日800人、JR四国が1日150人、JR北海道が1日1450人の規模で一時帰休を実施している。

 2016年10月に完全民営化を達成したJR九州も危機にあえいでいる。売上高は前年比1.8%減の4326億円、経常利益は同23.9%減の506億円と、上場後初の減収減益となった。JR九州はもともと、国から受けていた固定資産税などの減免措置が廃止となり、租税負担が増えることから、2020年3月期は減益を想定していた。しかし、第3四半期までの経常利益は前年比10.7%減で、通期業績予想の同14.0%減より健闘していただけに、第4四半期の新型コロナウイルスの影響が大きく響く結果となった。

 5月12日付西日本新聞によれば、JR九州の青柳俊彦社長は11日の記者会見で、新規投資は抑制せざるを得ないと語り、九州新幹線長崎ルートや博多駅の駅ビル拡張工事などは計画通り進めるとしながらも、開業時期に変更が出る可能性をにじませた。また、収入が8~9割減の状態が半年以上続けば、窒息状態に陥り、生きるか死ぬかの瀬戸際になると述べ、事態の長期化に警戒感を示した。

JR北海道、JR四国

 一方、すでに経営危機に瀕しているJR北海道とJR四国の影響はより深刻である。JR北海道は、売上高は前年比2.2%減の1672億円。営業損失は426億円で、経営安定基金運用益を加えた経常損失は135億円と過去最大の赤字を記録した。特に第4四半期だけで68億円の減収となり、昨年10月の運賃改定による増収分を完全に吹き飛ばしてしまった格好だ。このうち新型コロナウイルスの影響は、JR北海道単体で42億円、グループ全体で62億円と見込まれている。

 JR四国は、売上高は前年比1.9%減の489億円。営業損失は過去最大の120億円で、経常損失は7億円となった。状況は4月に入ってますます悪化。新型コロナウイルスの影響は4月だけで17億円の減収が鉄道事業に発生しているという。5月8日付日本経済新聞によると、JR四国の半井真司社長は同日の記者会見で、収入減により6月にも手持ち資金が尽きるとして、金融機関と借り入れの交渉中であることを明らかにした。

 鉄道需要の減少は長期化するとみられる。その結果として鉄道離れが起こった場合、JR北海道、JR四国とともに事業存続の危機が現実化することにもなりかねない。新型コロナウイルスの影響は、JR各社の経営を揺らがせるところまで拡大している。

(文=枝久保達也/鉄道ライター)

枝久保達也/鉄道ライター

枝久保達也/鉄道ライター

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。

Twitter:@semakixxx

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