大手電力会社がまた電気料金を値上げする。大手10社のうち、中部電力、東京電力、東北電力、沖縄電力、北海道電力が3月の家庭向け電気料金を値上げする。このうち、中部電力、東北電力、北海道電力は2024年3月期第2四半期(23年4~9月)で同四半期としては過去最高益(純利益)を記録しており、東京電力ホールディングス(HD)も経常利益ベースでは過去最高益となっており、大手10社は全社が黒字。業績が好調ながらも物価上昇で消費者の家計が苦しいこのタイミングで値上げをすることに批判も出ている。
21年以降、大手電力会社は値上げを繰り返し、電気料金が徐々に上昇している。今年1月にも5社が値上げをしたばかりだが、たとえば東京電力の電気料金の推移を振り返ると、平均的な家庭での電気料金(規制料金)は21年3月(6408円)から22年3月(8244円)までの1年間で1836円値上がりし、いったんは下がったものの昨年6月には881円上がり7690円に。8月には値下げされたが、今年1月には5円値上がり7464円となった。また、大手電力のなかでもっとも電気料金が高い北海道電力は、今年1月に23円上がり8272円となり、3月にも値上げを行う(金額はすべてNHK報道による)。
一方、大手電力各社の業績は好調だ。3月に値上げする5社のうち3社が純利益ベースで過去最高益を確保しており、24年3月期の連結業績予想は大手10社そろって黒字になる見通し。そうしたなかでの相次ぐ値上げに「儲けすぎ」との批判も強い。
電気料金決定の仕組み
背景には、必ずしも会社の業績とは連動しない電気料金決定の仕組みがある。電気料金には国の認可が必要な「規制料金」と、事業者が自由に設定できる「自由料金」があるが、利用者が多い規制料金は燃料費調整制度の影響を大きく受ける。電気料金は
・基本料金+電気量料金(電気量料金単価×使用量)+燃料費調整額+再エネ賦課金
からなるが、燃料費調整額は、予め設定された基準燃料価格に対して、調整を行う5カ月前から3カ月前の期間における燃料価格が上回れば、電気料金にプラスの調整を行うというもの(下回ればマイナスの調整)。たとえば、1~3月の平均燃料価格が6月分の燃料費調整に適用されることになる。よって、ウクライナ情勢による世界的な燃料価格の上昇や円安の影響で燃料費が上昇基調であることから、燃料費調整額は短期間での上下はあるものの長期的には上昇基調となっている。
また、政府による補助金の影響も大きい。政府は23年1月から国民のエネルギーコスト負担緩和を目的に、電気・ガス価格激変緩和対策事業として電力会社やガス会社に補助金を交付し、各社はこれを原資に料金を抑制しているが、24年4月に交付は終了となる。昨年9月に補助金の交付額が約5割減となった後の10月に電力各社は一斉に電気料金を値上げしており、5月以降は再度値上げされる可能性も高いとみられている。
「電気料金は燃料費の上下で算出され、国の認可も必要とするので、電力会社が100%自由に決められるものではない。また、燃料費調整額も燃料価格が上昇すればプラス調整できるものの、上限が+50%までと制限があるため、それを超えるレベルの燃料費上昇が発生すれば電力会社は自腹を切るかたちとなる。世界的に燃料費が高止まりしており、くわえて原発の再稼働も不透明ななか、今は大幅な黒字だといっても、すぐに赤字に転落するリスクを抱えている。実際、前年度の第2四半期(22年4~9月)は大手10社中9社が赤字だっただけに、おいそれと料金を値下げできる状況ではない」(全国紙記者)
今後の見通し
気になるのが今後の電気料金の変動見通しだが、第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト、永濱利廣氏はいう。
「現在の値上げは、単純に燃料費調整制度で電気料金が自動的に上がっているだけ。背景には、昨年夏から秋にかけて原油高や円安が進んだことに伴う輸入化石燃料の値上がりが遅れて今効いてきていることがある。ただ、昨秋に輸入化石燃料の価格はピークアウトしているため、4月の電気料金は下がるところが出てくる可能性もある。しかし一方で、政府の物価高対策が4月いっぱいで切れるため、5月から電気料金が大幅に値上げされることには注意が必要。輸入化石燃料が最も上がって厳しい昨年前半のタイミングで政府が電力会社の値上げを容認したため、値上げ幅が大きすぎた可能性もある」
(協力=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)