トヨタ自動車は、国内市場でSUV「ランドクルーザー」(ランクル)300シリーズを注文してから納車されるまで4年程度かかる場合があるとホームページ上で公表した。ランクルの300シリーズは昨年8月にフルモデルチェンジして国内市場で販売開始したが、発売前から注文が殺到、納期が大幅に遅れている。トヨタが、国内市場向けバックオーダーが積み上がっているランクル300シリーズを本格的に増産するなどの対応していない理由はなんなのだろうか。
「ランドクルーザーは日本のみならず世界各国でも大変ご好評いただいており、ご注文いただいてからお届けするのに多大な時間を要する見通しとなっておりますことを、心よりお詫び申し上げます」
トヨタは1月19日時点の情報として、ランクル300シリーズの納期が4年程度になる場合があることを示すとともに、納車遅れを謝罪した。トヨタ系販売店などはこれまで、ランクル300シリーズが納車まで2年以上かかると説明していたが、トヨタが対応していないことから注文は積み上がる一方で、納車まで4年程度に延びた。一部販売店によるとディーゼルエンジンの場合は「納車まで7年程度という噂も聞く」という。
ランクルは初代モデルから「どこへでも行き、生きて帰ってこられること」を一貫したコンセプトとするSUV。歴代すべてのモデルが信頼性や耐久性、悪路走破性を重視した本格SUVモデルとして一定のファンがいるのは事実だが、高額なため、購買層は限られる。ただ、壊れにくいことや、故障しても補修部品を安定調達できることから砂漠などの走行環境が厳しい中東地域など、海外市場では高い人気を保っている。
トヨタは昨年8月、ランクルを14年ぶりに全面改良した300シリーズを国内で販売開始した。新型車は新型ラダーフレームを採用するなど、一新して悪路走破性などを確保しながら、運転しやすく、疲れにくい走りを実現する機能を採り入れた。なかでもトヨタ車として初となる指紋認証スタートスイッチを採用。これは指紋情報が一致しなければエンジンが始動しないセキュリティ機構。海外市場で高値で売買されることから盗難被害の多いランクルならではの装備といえる。
ランクル300シリーズの価格は510万~800万円と決して安くはないにもかかわらず、発売前から注文が殺到した。発売1カ月前にトヨタの販売店で予約注文の受付を開始したが、2万台以上の受注を獲得、注文の受付を一時停止したほどだ。発売後に受注を再開したが、その後も注文の勢いは衰えていない。
ランクルはフレームをトヨタの本社工場で生産し、子会社のトヨタ車体の吉原工場が組み立てを担当する。吉原工場は生産能力に限度があり、受注が殺到したからといって増産するのは簡単ではない。加えて世界中の自動車生産工場が半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難で自動車の減産を実施していることも、増産する上での障害になっている面もある。
「転売」問題
ただ、トヨタが国内市場向けランクルの増産に乗り気ではないのは他にも理由がある。購入する客の目的が転売目的であることが少なくないことが透けて見えるからだ。ランクルは中東地域をはじめ海外市場で高い人気を保っており、なかでもSNSなどを通じて300シリーズの情報が拡散すると注目度が増した。一部では国内で800万円の上級グレードが倍近い価格で取引されているという。
海外市場への転売が目的と見られる注文が多いことはトヨタも把握しており、300シリーズの予約注文を受け付ける際、販売店が購入者に対して1年間転売しない誓約書を提出させるケースもあったという。しかし、効果はほとんどなかったようだ。
さらに、トヨタが国内市場向けランクルの増産に消極的なのは、海外市場向けのほうが「儲かる」ことが背景にあると見られる。自動車用鋼板やアルミニウムなど、自動車に使用する原材料価格が上昇しており、自動車台当たり収益を圧迫している。国内市場では自動車の販売価格の値上げに消費者が敏感に反応するため、値上げに対する抵抗感が強く、日本の自動車メーカーは原材料価格が高騰してもモデルチェンジや一部改良などを除いてほぼ車両販売価格を据え置いている。
しかし、日本の自動車メーカーも海外市場では原材料価格の上昇や為替変動に応じて順次、車両販売価格を見直しており、ここ1~2年は相次いで値上げに動いてきた。ランクルのような利益率の高いモデルならなおさら、価格を値上げしたランクルを海外市場に輸出したほうがトヨタにとって儲けは大きい。
トヨタの販売店からは「国内市場向けランクルを増産して海外市場に転売されるぐらいなら、いっそ国内市場への供給を絞って海外市場へ直接出荷を増やそうと考えているのでは」との疑念を持たれている。転売目的ではないランクルの国内のファンは蔑ろにされている。
(文=桜井遼/ジャーナリスト)