その後、両行とも当初の目的を果たすことはできなかった。日本振興銀行は10年9月、東京地裁に民事再生法を申請して経営破綻。清算会社となり、優良資産はイオン銀行に譲渡された。一方の新銀行東京は、東京都民銀行と八千代銀行を傘下に持つ東京TYフィナンシャルグループに売却されることが決まり、10年余でその幕を閉じた。16年4月1日をめどに東京TYの傘下に入り、将来的には傘下3行の合併も視野に入れられているという。
石原氏は03年、東京発の金融改革を旗印に「資金調達に悩む中小企業を救済すること」を理念とした新銀行構想を打ち出し、04年に都がBNPパリバ信託銀行を買収して新銀行東京に商号を変更した。
しかし、開業わずか3年で1000億円近い累積赤字を抱え、事実上破綻した。その後、400億円の公的資金を注入して事業を継続、累積赤字を消した。しかし、石原氏の影響力が及ばない知事が誕生するまで、売却は先送りされてきた。東京都は計1400億円を出資したが、赤字の穴埋めに消えた。
「公金をドブに捨てたも同然だ。そもそも、自治体が銀行経営に手を出したことが根本的な誤りだった」(金融筋)
東京TYはどうソロバンをはじいて、新銀行東京を買収したのか。新銀行東京の規模は小さい。15年3月末の預金は2615億円で貸出金は1843億円、店舗は1店しかない。対する東京TYの預金は4兆4913億円で貸出金は3兆2948億円、店舗数は161店。新銀行東京は東京TYの有力支店1つ程度の規模だ。
「東京TYが考えているのは、東京都との連携だ。東京都は議決権ベースで88.2%の新銀行東京の株式を保有する。新銀行東京は東京TY傘下に入り、東京都は株式交換方式で東京TYの株式を取得する。持ち株比率はそう高くないが、東京都が東京TYの株主になるということだ。東京都の指定金融機関はみずほ銀行だが、今後制度融資などで、東京TYが優先的に扱われるケースが増えてくることを期待しているのではないか」(金融筋)
メリットを享受したイオン銀行
元日本銀行行員の木村剛氏が設立し経営破綻した日本振興銀行の買収で、イオン銀行はメリットを享受した。10年9月、民事再生法を申請した日本振興銀行の債権・債務は第二日本承継銀行が引き継ぎ、整理を進めた。同行は11年12月、株式を19.8億円で、貸付資産の一部を5億円でイオン銀行に売却した。イオン銀行は12年3月31日付で日本振興銀行を吸収合併した。
イオン銀行は日本振興銀行の優良資産を引き継いだことで、業績を飛躍的に伸ばすことができた。13年3月期の経常収益は前期比25%増の433億円、14年同期は2.5倍の1080億円、15年同期は19%増の1301億円と急伸した。当期純利益もそれぞれ76億円、100億円、114億円と成長を続けている。
ライバルのセブン銀行(セブン-イレブンが38%、イトーヨーカ堂が3.9%出資。15年3月末現在)に対抗するため、イオン銀行は住宅ローンの強化やATM網を拡充し、イオンクレジットサービスからクレジットカード事業を引き継ぎ、業容を拡大しているが、日本振興銀行の優良資産の受け皿になったことを出発点としている。
イオン銀行にとって、日本振興銀行は拾い物だったのである。
(文=編集部)