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小林敬幸「ビジネスのホント」

新潟ご当地アイドルねぎっこ、12年かけ奇跡的ブレイク!なぜ中年男達をひきつける?

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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全国展開に臨む際の困難

 ねぎっこの話に戻ろう。09年、ねぎっこ史上で最も有名な事件が起こる。

 インターネット番組『勝ち抜き!アイドル天国!!ヌキ天』(GyaO)において、メジャーデビューが決まる4週目で、審査員の1人が、「今が一番良くて、これから成長できないのではないか。今後、どうプロデュースしていいかわからない」と反対票を入れたことで、ねぎっこは落選の危機に陥る。

 しかし、そこでリーダーのNaoが「私たちは、これまで自分たちで歌もダンスも全部考えてきました」と必死で訴え、異例の延長審査となる。

 その結果、6週勝ち抜き「ヌキ天クイーン」となり、待望のメジャーデビューが決まる。ところが、その後GyaOが経営不振となり、メジャーデビューできなくなってしまう。

 地方創生事業でも、地元で名が知られるようになってから、全国的なレベルまでステップアップするのが難しい。流通や宣伝において、全国規模で扱える百貨店と組み、マスメディアで取り上げられないと広がりが出ない。

 関係者が、「全国区になり得る商品・サービスだ」と思わなければPRを進めてくれない。「モノはいいんだけどね。地元で人気を取るのが精一杯で、これ以上成長できないのでは?」と常に問いかけられる。

 ねぎっこは、何年も前から「今が“てっぺん”で、これ以上伸びないのではないか」と言われ続けてきた。本人たちもファンも、本気でそれを心配しながら、「できるところまで」とがんばってきた結果、ここまで伸びてきたのだ。

 過去の映像と比べると、楽曲も歌唱力もダンスも容姿も、今は見違えるほどよくなってきている。これは、熱心なファンと長年交流し、その反応を見ながら磨き上げてきたものだ。そして、今回も「NGT48の発足により、成長が止まるのではないか」という不安を抱きながら、精一杯走っている。それがまた、ファンや支援者に「応援しなきゃ」と思わせるのだ。

 少しずつでもいいから、成長し続ける。そうすれば、継続して支援を得ることができ、さらに成長できる。ねぎっこから、まさにそういったことを教えられる。

経済情勢の悪化の影響をしのぐ

 もうひとつ、ねぎっこが共感を得られる要因がある。ねぎっこの苦労の歴史が、彼女たちのお父さん世代が仕事で苦労した歴史と見事に重なることだ。タレントスクールが廃校になった05年は、小泉純一郎政権の「痛みを伴う改革」が真っ盛りで、自分の仕事がなくなったり、頼りにしていた取引先が事業を撤退して苦労したサラリーマンも多かった。

 また、GyaOの経営不振でメジャーデビューが頓挫した09年は、前年に起きたリーマン・ショックの悪影響が日本経済に広がっていた頃だ。当時は、倒産や吸収合併など、サラリーマンにとっては思い出したくないような悲劇が身近な出来事だった。

 日本のサラリーマンが味わっていた苦労と同じような問題に、ねぎっこも直面し、なんとか乗り越えて生き残っている。苦労を共有しているかのようなファンが、両手を突き出して送る声援は、実にほんわかと温かいものだ。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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