電子部品メーカーのオムロンは北海道に大型のガラスハウスを建設し、ハイテク技術を応用してトマトを生産したが、輸入品に勝てず撤退した。
日本たばこ産業(JT)は、「たばこ製造の技術を生かす」と大見得を切り、「AB作戦・CD戦略」を展開、多角化に突き進んだ。「A」はアグリカルチャー(農業)、「B」はバイオ(生命工学)、「C」はケミカル(化学)、「D」はドラッグ(医薬品)である。「A」の新規事業として、すっぽんの養殖、メロン、トマト、マッシュルームの栽培を行ったが、日の目を見ないまま消え去った。
名だたる企業が資本力や経営ノウハウを駆使して農業に参入したが、いずれもうまくいかず、農業経営がいかに難しいかを浮き彫りにしただけに終わっている。
第二次ブームは、農業の規制緩和が進んだ00年代半ばだ。当時は小泉純一郎首相による構造改革が行われており、公共事業が大幅に削減されたため、建設業が雇用維持と受注減少を補う新規事業として、こぞって農業に参入した。しかし、やはり撤退が相次いだ。
セブン&アイHDとローソンが挑む、農業特区での大規模農業モデル
第三次ブームは、09年の農地法の改正以後だ。農地をリースすることで一般法人(NPO法人、特例有限会社、株式会社)の参入が原則自由化された。
農林水産省経営局の調べによると、農地法改正前の一般法人の参入数は430だったが、14年12月末時点で1712となっている。施行から約5年で3.9倍に増え、そのうち株式会社は250から1060と4.2倍になった。
セブン&アイHD、イオン、ローソンが農業に参入したのは、この時期にあたる。参入のハードルが下がったとはいえ、企業ベースで農業を採算に乗せることの難易度が下がったわけではない。
農業や医療は、いわゆる岩盤規制を打破するために、改革が求められている。安倍晋三首相が突破口としたのが、国家戦略特区での規制緩和だ。農業の国家戦略特区に指定された新潟市の事例は、「大規模農業のモデルケース」として成功が期待されている。
企業の農業参入には、大規模化が不可欠だ。一方で、農業従事者は企業の農地保有の拡大を警戒しており、「利益が出なければ、すぐ撤退する」と不信感が強い。実際、日本政策金融公庫の調査によると、農業に新規参入した企業の約2割が数年間で撤退している。
セブン&アイHDとローソンの国家戦略特区での大規模農業は、今後の農業のテストケースの意味合いを持っている。
(文=編集部)