小売り大手の農業参入が本格化してきた。セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、農業の国家戦略特区に指定された新潟県新潟市で野菜作りに乗り出す。同社の参入は、6月9日に行われた国家戦略特別区域会議で認められた。
農業生産法人は役員の過半が農業従事者であることが求められるが、新潟市の特区では1人いればいいという特例が利用できる。セブン&アイHDは、この規制緩和策に乗ったかたちだ。
セブン&アイHDは、傘下のセブンファーム新潟と地元の農家が提携し、10月に特例農業法人を設立する。1ヘクタールの土地を使い、イトーヨーカドーの店舗で発生する食品残さを堆肥に利用して、かぶや大根、じゃがいもなどを栽培し、収穫した野菜は新潟県内および首都圏のイトーヨーカドーで販売する。
同社は2008年8月にセブンファーム富里を設立して農業に参入、これまでに全国10カ所で野菜の生産を行っている。特例農業法人は土地の所有もできるため、大規模農業を行いやすいという利点があり、軌道に乗れば事業拡大も期待できる。
ローソンは、新潟市の特区で3月に特例農業法人のローソンファーム新潟を設立した。ローソンファームは全国で23カ所目だが、農業特区の規制緩和を活用した特例農業法人の設立は初めてとなる。
初年度は5ヘクタールの水田で、コシヒカリとこしいぶきを28トン収穫することを見込む。全量をローソンが620万円で買い上げ、新潟市内のローソンで「地産池消」をうたい弁当やおにぎりに使われる。ローソンファームでは野菜や果物作りを進めているが、米の生産は初めてだ。
秋には2ヘクタールで大根など野菜の生産も始める。さらに、2年以内に野菜などの加工工場も整備、3年以内に農地を100ヘクタールに広げる考えだ。
09年に農業に参入したイオンは、今春から子会社を通じて埼玉県で米の栽培を始めた。農林水産省の農地中間管理機構(農地集積バンク)を使い、18ヘクタールの水田を借りて埼玉県のブランド米である彩のかがやきを90トン生産、主に県内のイオンで販売する。3年間で、水田を100ヘクタールまで広げる計画だ。
農家の高齢化で農業の担い手が減少する中、小売り各社は自ら担い手になろうとしている。
何度もあった、企業の農業参入ブーム
企業の農業参入は、過去に何度も繰り返されてきた。
第一次ブームは、1990年代の半ば以降だ。規制緩和が錦の御旗となり、ビール会社がじゃがいもを生産し、自動車メーカーがインドネシアで生分解性プラスチックの原料となるさつまいもの生産に着手した。