リサイクル工場の関係者が横流しするケースもある。政府機関からリサイクル料を受け取るが、実際はリサイクルせずに海外に輸出する。完全な組織的詐欺なのだが、政府がひとつひとつのリサイクル事業者の現場に立ち入り検査をしても、横流しの発見や摘発はなかなか難しいという。
抜け道
この横流しには、もっと深い闇がある。日本と同じでEUでも企業や公共機関などの事業所で使われるパソコンや電気製品には、あらかじめリサイクル料は付加されていない。使用した事業者が、お金を支払って業者に引き取ってもらうことになる。その業者の中に、一般のリサイクル事業者の半額で廃棄品を引き取ってくれる事業者がおり、実際にはリサイクルなどせずに廃棄品をそのまま輸出してしまう。
バーゼル条約という国際条約は、廃棄物を他国に輸出することを禁止している。しかし、抜け穴が2つある。ひとつは、回収した廃棄品をゴミではなく中古品と偽って梱包すれば輸出できるということ。そしてもうひとつは、世界最大の消費国であるアメリカがバーゼル条約を批准していないということ。これらの抜け穴により、EUで集められた廃棄家電も、アメリカで集められた廃棄家電も、中古品としてコンテナに詰められて、船で海外へと運ばれていく。
筆者もコンサルタントとして以前、ある大企業の静脈物流のお手伝いをしたことがあるので、このような仕組みが成立している背景はよく理解できる。完成品を工場から販売店、そして消費者まで届けるのが動脈物流とすれば、静脈物流は消費者が利用し終えた製品を回収してリサイクルするまでの物流の仕組みを指す。
大金を払ってコンサルタントを雇ってまでリサイクルの仕組みをつくろうとする大企業の場合は、非常に真面目な仕組みを構築する。そのような真面目なリサイクルの場合は、いかに回収の生産性を上げるかが、コンサルタントが頭をひねるポイントになる。それはリサイクル品を効率的に回収するネットワークを設計することから始まり、最終的にはリサイクル処理の効率が上がるようにあらかじめ製品を設計するところまで、生産性向上のポイントは多岐にわたる。
そのような仕事を手掛けてみてよくわかることは、リサイクルで採算を取るためには非常に多くの手間暇がかかるということだ。裏を返せば、リサイクルにそこまでの投資をしない脱法事業者なら濡れ手で粟のごとく儲かってしまう。つまりリサイクル事業者の中で一番コスト競争力があるのは、リサイクルせずに廃棄家電をただ同然で海外に輸出する違法業者なのだ。