数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
日本には“都市鉱山”と呼ばれる世界有数の金鉱山がある。金の推定埋蔵量は6800トンで、世界の埋蔵量の16%に及ぶという試算があるが、これは廃棄された携帯電話などハイテク機器から取り出せる金の総量だという。
別のデータによれば、携帯電話一台からリサイクルされる金は価格にして約100円。10万台の携帯電話を集めれば、そこから1000万円相当の金を取り出すことができる。実際、リサイクルの最先進国であるEUのリサイクル工場では、廃棄機器から金の延べ棒がつくられている。
しかし、そのようなリサイクル最先端のEUですら、リサイクル工場の稼働率は高くない。潜在的な都市鉱山資源のうち回収される資源は1%程度で、実はリサイクルに出された家電製品の実に67%は工場に届いていない。いったい、その理由はなんなのだろうか。
リサイクル工場に届かない
先日、NHK BSで骨太なドキュメンタリー番組が放送された。スペインとフランスの共同制作『廃棄家電の悲しき行く末』という番組で、先端的なリサイクルの仕組みがなぜ機能していないのか、複数の国にまたがる取材を通じて、リサイクルの闇に切り込んでいる。その概要を紹介したい。
EUで販売される家電製品には、あらかじめリサイクル料が付加されている。廃棄されることになった家電はリサイクル業者が無料で引き取るとともに、業者はあらかじめ政府機関にプールされている代金を受け取り、リサイクルを行う。従業員の健康にも配慮した先端的なリサイクル工場で廃棄家電は分解され、最終工程で貴金属や鉄、ニッケルなどが回収されていく。
携帯電話5万台から4万ユーロ(540万円)の金の延べ棒が抽出されるが、それにかかるコストも大きい。だから廃棄家電のリサイクル業には、あらかじめ徴収されたリサイクル料収入が加わらないと成立できないのだ。
そのリサイクル工場の稼働率が低い理由は何だろうか。番組ではいくつかのケースを取り上げている。
そのひとつ、EU内でも特に家電の最終リサイクル比率が極端に低いスペインでは、リサイクルに出された家電がリサイクル工場に届く前に盗難に遭うという事象が報告されている。
スペインでは失業率が高い。仕事のない若者が、廃棄物の集積場に忍び込んで、お金になりそうな家電を盗んでいく。ブラウン管テレビにはたくさんの銅線が巻かれている。これを分解して転売すれば、テレビ一台当たり2ユーロ(270円)になる。パソコン本体からは4ユーロ相当、冷蔵庫からは10ユーロ相当の部材が取り出せるそうだ。こうして集積所に一時置きされた家電は、盗まれ空き地で分解され、プラスチックのケースはそのままゴミとして空き地に捨て置かれる。