グローバルな消費社会の闇
番組が突き止めたところによれば、廃棄家電を満載したコンテナの行き先は、いくつかに絞られるそうだ。多いのはアフリカのナイジェリアとガーナ、そして香港だという。番組では、アフリカのガーナにおびただしい量の廃棄家電や廃棄コンピュータ機器のゴミの山が広がっている様子を映していた。
香港の場合は、もっと複雑だ。香港の港から新界に集められたゴミは、なぜか“金属スクラップ”と表示を偽って税関を無事通り抜けて中国の内陸へと運ばれる。行き先は中国最大の廃棄家電リサイクル都市・貴嶼鎮(きしょちん)だ。人口13万人の町で、町の工業生産の90%はリサイクルで成り立っている。
廃棄家電はこの町で、人海戦術と原始的な方法で分解される。分解されたプラスチックはライターであぶり、そのにおいで分類して、成分に見合ったリサイクル工程に回す。従業員の肺はそのたびにむしばまれていくが、それが問題になることはない。
パソコンなどの電子基板はスチームで蒸し、溶剤で溶かして分解する。貴金属を取り出す過程で大気汚染や水質汚濁が問題になるはずだが、そのコストを計算に入れないから、EUの工場のようにリサイクル料を受け取らなくても、貴嶼鎮のリサイクル事業は採算に合うのだ。そしておそらくガーナでもナイジェリアでも同じことが起きている。遠く離れた国で、土壌が汚染され、そこでリサイクルに携わる人々の健康が害されている。
被害は、それだけでは終わっていない。廃棄家電から取り出された半導体チップは、素知らぬ顔をして新品に混じって、中国の工場で新製品に使われていくのだ。リサイクルの過程で基板から取り出すのにスチームを浴び、熱を帯び、溶剤を通った半導体チップは当然劣化する。そしてそのようなチップが組み込まれた新品の電気製品は、EUへと還流していく。完成品メーカーはこのような欠陥品を出荷前に発見しようとするが、その仕組みを一定数で不良品がすり抜ける。これが家電品だけならともかく、人々の命を預かる交通システムやインフラの部品の中で使われているという現状に、この番組は警鐘を鳴らして終わる。
いずれにしても、グローバルな消費社会の仕組みの中に、このような闇が存在することを理解しておくことは、われわれ責任ある社会人としてはとても重要なことではないかと思う。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)